2008/11/29

Switch Pitch :瞬時の構造転換

 若きシャペロニン研究者より構造変換をする興味深いおもちゃを教えてもらったので紹介したい。

スイッチピッチというもので、放り上げたりしたあとに色がすべて入れ替わる。右の写真では緑が前面になっていて裏にオレンジが見えているが、放り上げて落ちてくる間にオレンジが表に出てくる、という不思議な仕掛けのおもちゃで、一瞬手品のようでもある。


 非常に動的な変換だから写真ではなかなかわかりにくいのでユーチューブ(たとえばココ)や開発元(hoberman.com)での動画やアニメを見るとおもしろさが伝わると思う。構造転換のメカニズム(要はからくり)は、遷移状態(途中の状態)や分解産物を紹介したサイトや仕組みを解説してくれているサイトにくわしい。シンプルな作りながらとてつもなく巧妙なものである。

 ふつうの水溶性の球状タンパク質では、ごく大ざっぱに言ってしまえば親水的なアミノ酸が表面に出やすく、内部は疎水的(水に溶けにくい)アミノ酸が多くなっていて、このおもちゃが模式的にはぴったりである。
 ただ、この親水ー疎水の関係が一瞬で逆転してしまうという現象はタンパク質の世界ではさすがに見あたらないように思う。プリオンでの構造転換は少し似ているようにも最初は思ったが、このおもちゃは「自発的?」に構造転換するという点で、構造転換を促す相手(異常型構造)を必要とするプリオンとはちがうのだ。

 このおもちゃのように「自発的」に瞬時に構造転換するタンパク質があるとどうなるだろう。表面が親水から疎水に変わるのだから水溶液中では不安定ですぐに凝集を作っておしまい、ということになるだろう。

2008/11/06

GFP

 緑に光るタンパク質、GFPが今年度のノーベル賞の対象になって早一ヶ月が過ぎた。そう、アメリカ在住の下村博士がオワンクラゲから発見した自ら蛍光を発するタンパク質である。


 GFPは生命科学の研究者なら知らない人はまずいない、というほど使われているタンパク質だ。そのためにノーベル賞が授与されたわけだが、精製したGFPタンパク質を実際に目の前で見たことがある人は意外と少ないのではないか。たいがいは、細胞の中で興味のある遺伝子にGFP遺伝子をつなげて光らせ蛍光顕微鏡で光っているのを見る、という研究だと思う。

 うちのラボでも蛍光顕微鏡で細胞内でGFPが光るのを見てもいるが、大腸菌でGFPを作らせたあとに精製したピュアなGFPも使う。シャペロニンの基質として使ったりするのだ。自ら光るGFPは、精製して濃いのを目の当たりにすると実に美しい。ついでに言えば精製もクロマトグラフィーの樹脂の中で光っているので簡単である。

実物を見せるだけでも魅せられるほど美しいし、種々のデモ実験でも大活躍する。タンパク質として「かたち」を保っていないと光らないので、タンパク質のかたちが壊れる変性やかたちが元に戻るフォールディング(折りたたみ)を直接見てもらうことができる。そのデモ実験の動画はひっそりと自分のサイトに置いてあるので興味のある方はぜひ見てみてください。

これをきっかけにタンパク質(の研究)のことに興味を持ってくれる人が増えればうれしいものである。

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ということでこの話題は次回に続く、というか次のネタへの伏線である、というかそのネタの背景を書いていたら長くなったのでここでいったん投稿してしまおう。






2008/11/02

ノットパズル

 春にアメリカに行ったときに買ったパズルを出していなかった。写真のようにいくつかのパーツが組み上がったもので、「KNOT(結び目)」ということである。

 かたちが組み上がった状態で売っていたので、自分で少しいじってばらそうとしたが、かなり時間がかかりそうなのであきらめて、そのまま研究室のお茶部屋に放出。


     しばらくするとバラバラになっていた。お見事。



 が、そのあと組み上げには誰も成功しなかった・・・。

買うときの宣伝文句には、確か「most difficult・・・」と書いてあったが、確かにその通り。


 実は答えの冊子が付いていてばらすのも組み立てるのも同じ経路。
 ばらし方を覚えていれば組み立てられるはずだが、がちゃがちゃやっていたらバラバラになった、ということだとふつうは覚えていないものだ。


 このパズルはノット(結び目)ということであるが、実際には一本のヒモで結び目を作っているわけではない。 本欄の趣旨である研究の余談としては、「では、ヒモからなるタンパク質では結び目なんてありえるの?」と思う人がいるかもしれない。タンパク質でも結び目をもつものはあります。ついでに言えば、環状(つまり輪っか)もありえる。このような珍しいトポロジーについてはいずれ別のコラムにするつもりです。


 ちなみにこのパズルの購入先は、ニューヨークのMOMAショップ。パズル屋さんではなく、一種のセレクトショップで、デザインのよいものがいっぱいなので見ているだけで楽しめます。