2006/11/12

パズル(5) 組み木パズル

 これはパズルらしいパズルで対称性が美しい。中に赤い木の球を入れることから、シャペロニンが変性したタンパク質を中で折りたたんだあとのようすを示している、と見立てる(ちょっと苦しいか・・・)。

 入手先は昨年出張で出かけた上海。ごみごみしたビルの中にあったパズル中心の小さな小さなお店で買い求めた。他にもいろんな木製パズルがあり、中には日本の100円ショップで見かけるものも。 一緒に行った某教授は店の人が言うに「一番難しい」パズルを買って帰ったが、さて解けたのであろうか(解答はない、と確か言っていた)。

 この写真のパズルは研究室のお茶部屋では難なく組み上げられた。規則さえわかれば楽しく立体構造を構築できる。ただ、崩すとパーツがばらばらになるのが困った点で、細い棒が散乱していたので、もう二度とこの美しい姿にはならないかもしれない。


パズル(4)ポリペプチドもどき2

 次に示すのは、よりポリペプチドっぽい感じのものである。これもパズルと言うよりもおもちゃと言うべきものだ。ポリペプチドで言えば、主鎖にあたる部分だけで成り立ち、くねくねと曲がる。変性状態からギュッと詰まったフォールディングした状態、ちょっといじって、ヘリックスも簡単にできる。

 このヒモのようなおもちゃを最初に入手したのは4,5年前だったかの生化学会(京都)である。アメリカ分子生物学・生化学会の宣伝ブースに置いてあったのだが、やはりポリペプチドもどきということなのだろう。
 その後、お台場の科学未来館でも同様のものが売っていることを見つけ、何個か買って、全部つなげると100残基程度までは行くようになった。


 こいつは変性タンパク質っぽさはよく表現できるがカチっとした形のあるタンパク質をつくるのは難しそうだ。色をうまく考えて、疎水性残基は赤、親水的は緑、とか、そのくらいはできるかな。

2006/09/26

マリモとプリオン

 次に紹介するのはパズルではなく、マリモである。これが研究とどう関係するのか? 一見わからないだろうが、ぼくにはこれがプリオンの凝集体に見える! 

 どういうことかまだわからないだろう。プリオンやアミロイドを細胞内で研究するときにはプリオン蛋白質にGFPを融合させて、細胞で発現させる、ということがよく行われる。そのプリオン蛋白質がプリオン化して凝集になると、細胞内で緑に光る輝点(粒)が生じる(注)。それが視覚的にもわかりやすいので、プリオンやアミロイドになった証拠として使われるのだ(それに対して凝集になっていない場合には細胞質全体が緑になる)。

 そこでぼくたちの研究である。
 酵母のプリオンSup35蛋白質でもSup35-GFPの「輝点」がプリオン細胞の目印として用いられる。では、この輝点を酵母が増殖していくときにずっと観察していけばどうなるであろうか。この輝点がプリオンそのものならば「増殖」するはずなので、輝点は2つや3つに分裂して増殖していくのでは?と考えた。

 答えは、否。

 この輝点は分裂して増殖するどころか、観察していくうちに見る見る消失していくことがわかった。
と言っても、ほんとうに「消失」していたわけではなく、大きな輝点がほぐれてオリゴマーとなる(通常の顕微鏡ではオリゴマーは細胞質に拡散して見えるだけである)。詳細はKawai-Noma et al., Genes to Cells, 2006を参照してください。
 
 ここでマリモに戻るが、マリモは酵母プリオンで見えた「輝点」に相当する、と考える。マリモも元はと言えば、小さな藻が球状に集まったものだ。なので、その小さな藻をプリオンのオリゴマーと考えたわけである。

 ちなみにこのマリモは札幌出張の帰りに買ってきたものだ。天然モノではなく人工マリモです。頭の中がプリオンのオリゴマーと巨大な凝集体でいっぱいだったので、見た瞬間、これだ!となった。
 さらに言えば、ずっと観察していてもほぐれてはいきません。マリモとはそういうものだろうけども。

(注)細胞内でプリオンの存在状態というのは案外わかっておらず、試験管内で作るとできるきれいな線維と細胞内プリオンの実体の関係はまだよくわかっていない。

2006/09/24

パズル(3) ポリペプチド鎖

このパズルは特に何かのかたちにするというわけではなく、いろんなかたちのものが作れる。特に答えがあるわけではないので「パズル」というよりは「おもちゃ」であるが、こういうタンパクっぽいものを見かけるとつい買ってしまう。と言っても、これ自体は短いのでペプチドかもしれないが。
 ここでは、同じおもちゃ2つを使って適当な「かたちのあるもの」を作ってみた。このおもちゃは先に紹介したキューブ型のパズルとはちがい、パーツ間をつなぐ部分がゴムになっているのでかなりフレキシブルに動く。という点ではタンパクっぽいかもしれない。

これは一昨年に行ったイタリアのPaviaという小さい街をぶらぶらしているときに見つけた。ちなみにPavia大にはゴルジ体を見つけたゴルジさんの立派な銅像が鎮座していた(とえらそうに書いているが、その場にいた日本人はぼくも含めて誰も「あの」ゴルジさんとはそのとき知らなかった・・・)。

パズル(2) シャペロニンのかご

 パズルの第2弾は、シャペロニンの「かご」を模した(?)パズルである。シャペロニンとはタンパク質のフォールディングを助けるシャペロンというタンパク質であるが、その構造自体がとてもユニークで内部に4〜5nm幅の空洞がぽっかりとあいている。かごのメインはGroELという大きなシャペロニンタンパク質で変性タンパク質を捕らえることができる。そこにGroESというフタがATP依存で結合すると、変性タンパク質が中に閉じ込められ、その内部でフォールディングが最後まで進行する。問題はどうやって内部で戻ったタンパク質を外に出すかであるが、現実のシャペロニンではATPがもう一度使われるのである(詳細は田口の総説など参照)。

で、パズルであるが、かごの中に閉じ込められた星を外に取り出す、というものだ。閉じ込められた星はけっこう大きいのではたしてどうやって取り出すか。この写真からはわからないが、やってみるとけっこう簡単である。




実際のシャペロニン(GroEL-GroES)複合体にタンパク質が閉じ込められたようすのシミュレーション図も載せてみる(Sakikawa, et al., JBC, 1999)。ここで使っているのは実験的に閉じ込めが起こることがわかっている約54kDのタンパク質(BFP-GFP融合物)であるが、けっこうきつきつだ。現実のシャペロニンの空洞の中でフォールディングがどうやって起こるのか、シャペロニンがフォールディングそのものに影響を与えるのかは、まだ議論が多いシャペロニン研究のフロンティアである。

2006/09/13

パズル(1) タンパク質のフォールディング


補足情報としてぜひ載せていきたいものとして、パズルがある。タンパク質はアミノ酸がつながった「ひも」であり、それが折れたたんで(フォールディングして)最終的な「かたち」をもったタンパク質になる。そのプロセスを思い起こさせるパズルというのはけっこうあるもので、これまでにそれなりに集めてきている。自分の発表資料のイントロなんかでもずいぶんと活躍してもらっているし、講義でタンパク質のフォールディングを解説するときに手でもてあそんだりもしている。
 ということでいろいろともっているのだが、まず第一弾は、いかにも「フォールディング」という感じの立方体パズルを紹介したい。このパズルの存在自体は東工大時代にとある院生がオーストラリアでの学会(?)か何かで見つけたと言って見せてくれて感動したのが最初である(ちなみにF1-ATPase研究をしていたが)。その後、自分でもドイツ出張の際に同様のものを見つけた。今は研究室のお茶部屋の友としてみなに愛されている。これができないと田口グループに入れない、という噂もあるが、ぼく自身がどのくらいで完成させられるかは実はヒミツである。
 このパズルのフォールディングとの関係は一見してわかるもので、説明はいらないと思われる。実際、他の研究者でも愛用されていて、阪大の某先生はこれでアミロイドまで作っておられる。
 「変性」、つまりキューブをこわすのは簡単だが、フォールディング、つまり元に戻すのが難しい、というのはタンパク質のフォールディングと同じだ。ただ、ヒモを形成するパーツ(アミノ酸に相当)とパーツをつなぐ部分の回転の自由度はかなり制限されており、その点ルートも限定される。タンパク質のフォールディングはもっとぐにゃぐにゃしたところから、かちっと決まるわけである。
 今では100円ショップでも手に入ります。ぜひお試しを!

2006/09/09

Supplement

 このブログを立ち上げるに際してタイトルを何にするか思案していたが、ふと思いついてSupplementary Online Material on Taguchiとした。これは日頃論文を読み込んでいる研究者の方々ならばおそらくご存じであろう、Science誌のSOM (Supporting Online material)からヒントを得たものである。「Supporting」というと何をサポートするのかよくわからないので、ここではSupplementaryとした。

 研究者でない方には、何のことかわからないかもしれないので簡単に説明しよう。誌面に制約のある学術雑誌(Nature、Science、・・・)では本論文に載せることのできない実験データを補足情報としてオンラインで提供している。ネットが発達しているからできることである。以前なら文中にdata not shownということで終わらせていたデータが今ではサプリメントに載せることができる。極端な場合では、実験方法に関することはすべてオンラインの補足情報に載せる場合すらあるほどだ(Science誌)。

 おもしろいのはこのサプリメント情報を何と呼ぶかが雑誌によって微妙にちがうことである。

Nature → Supplementary Information
Science → Supporting Online Material (SOM)
Cell → Supplemental Data
PNAS → Supporting Information
EMBO J. → Supplementary Information
JBC → Supplemental Data

というような具合で、微妙に少しずつ変えているようだ。
が、EMBO J.とNatureは同じグループだからか同一の名称だ。
では、CellとJBCは?ということになるが・・・。

2006/08/31

柏の葉公園


写真は、柏キャンパスのすぐ隣にある柏の葉公園で撮ったものだ。なかなかにいい公園であるが、意外と足を運ばない。定期的に行くのは花見の頃かな。実際、桜の季節にはびっくりするくらいの人がいる。逆に、ふだんの平日はあまり人がいない・・・。

 



最近、つくばエクスプレスの柏の葉キャンパス駅から大学まで自転車で行くことがあるが、この公園内を最後に横切ると気持ちがよい。夜など真っ暗だが、星空がとても広くてすがすがしい気持ちになる。

 

2006/08/30

ゆで卵実験の思い出

 左の実験はシャペロンのはたらきを専門家でなくても一見してわかってもらうために考えた実験だ。シャペロニンはタンパク質の凝集を防ぐはたらきがあるが、タンパク質の凝集と言えば、「ゆで卵」ということで、卵白にシャペロニンを加えて70℃に加熱したら、見事、シャペロニンを入れた方では凝集ができないために透明なままである(ただし、実際には卵白は50倍程度薄めている)。

 この実験は10年以上前、東工大での博士課程かポスドクのころに行った懐かしいものだが、今でも重宝している。一回は、このネタだけで投稿論文にもしたことがあるが、さすがにこの図一枚ではダメだ、ということであった(まぁ、ぼくがレフェリーでもそう言うだろうが)。何か実験を付け足して再投稿、と考えたが、なんだかんだ後回しにしていたら、そのままになってしまった。最近、JBの総説を書く機会があったので、そこにはこの写真を載せている。