2017/07/15

新しいタイプのGFP模型

昨年度より東京工業大学では学部1年生全員(1~7類)が生命科学を必修として履修することとなった。その流れで、教科書で生命科学を教える以外でも全学生に生命科学研究の最先端、面白さを伝えよう、ということでGFP(緑色蛍光タンパク質)を主役として、蛍光が出るしくみの化学から細胞生物学まで全類の学生に教える講義も準備され、私も担当している。

その教材として、GFPの立体構造模型を昨年度初めに特注で作ってもらった(スタジオミダス制作)(注1)。


なかなかカッコイイでしょう。

このようなリボンモデルの3Dプリンター模型は自分自身は初めてで美しい。
GFPはβシートが樽状にぐるっと巻いているためにβバレル(樽)と呼ばれることがあるが、それがはっきりとわかる。

βシートのことを知っている人だとこの白い矢印(βストランド)部分だけではシート状にならず形を保てないのではと思うかもしれない。その通りで実際には白いストランド間を細い棒で一部補強してある(下の写真の赤矢印)(注2)。実際のタンパク質ではこの棒が水素結合として全体をシート状にして立体構造を安定化している。GFPはβシートがとてもきれいに並んで「缶」のようになっているためにとても安定で60℃くらいに熱しても変性しない(色が消えない)し、冷蔵庫で何年も光ったままだ。



同じGFPをラボにある廉価版の3Dプリンターで打ち出すと以下のようになる。
 

何かよくわからない「塊(かたまり)」である。
空間充填モデルで打ち出すとこうなるのだ(注3)。

元の美しいGFP模型に戻ろう。

リボンの中に見える緑の部分はGFPの蛍光団である。ここだけ空間充填モデルになっているが、ここも元はアミノ酸である。特定のアミノ酸配列(GFP野生型ではSer-Tyr-Glyの3アミノ酸)がGFPの立体構造の枠組みの中に配置されると化学反応(脱水反応と酸化反応)が自発的に起こって特別な蛍光団が形成される。タンパク質というのは本当に何でもやってしまう一例である。


スタジオミダスさんは凝っていて、この蛍光団に蛍光塗料を塗ってくれ、さらにはこの模型を置く台座にライトを付けてくれた。光らせたのが以下である。


さて、先ほどラボで打ち出した塊は何だかよくわからない、と書いたが、実際には塊の方が正しい状態と言えて、内部の緑に光る蛍光団はタンパク質の奥に埋もれている(水のない環境に蛍光団が置かれているのが光る理由の一つでもある)。


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注1)
今回のGFP模型の写真はスタジオミダスさん撮影(GFPの塊の以外)。なお、このエントリーは下書きまでしていたが、すっかり放置していた・・・。

注2)
この1年間でそれなりにあちこちで展示して触っている間に、この補強の棒が折れてしまい、形が崩れやすくなってしまった(現在修理中)。

注3)
このプリンターで学生にGFPのリボンモデルを一度打ち出してもらったが、うまく造型できなかった。
ちなみに同じ空間充填モデルでもシャペロニンGroELーGroES複合体は以下のようになる。GroELは巨大タンパク質複合体で空洞があるからサマになるのだ。スケールは全然違っていて、GroEL(やGroES)の縮尺でGFPを打ち出すとGroESよりも小さくなるくらいだ。GroELの空洞内にGFPが2個分ハマることを実験的に証明したことがある(Sakikara et al., JBC 1999)。


Sakikawa C. et al.,  J. Biol. Chem. 1999より


2017/07/12

シャペロニン「フットボール」のストラップ

 共同研究者の小池あゆみさん(神奈川工科大)からたいへんうれしいギフトをもらった。大腸菌のシャペロニンGroELとGroESのフットボール型複合体構造のストラップだ。


私たち自身が島村達郎さん(京大)たちと共同研究で決定した結晶構造(Koike-Takeshita, A. et al., J. Mol. Biol. 2014, PDB ID: 3WVL)を元にしたモノである。

 野生型のGroELとGroESだとフットボール型はGroELのATPaseサイクルで過渡的にしか形成しないので「フットボール」構造を固定することはできず、結晶作成は通常は無理である(注1)。このフットボール構造はGroELのATPase活性を極端に遅くした変異体ができたから実現した構造である(Koike-Takeshita, A. et al., J. Biol. Chem. 2014)。GroELの52番目と398番目の2つのアスパラギン酸をアラニンにした変異体(GroEL-D52A/D398A)では一週間以上GroELとGroESがフットボールのままとなる(タンパク質のフォールディングを助ける能力は同等)。


フルカラーの3D模型である。石膏製であり、廉価版の3Dプリンターでは作成できない。実際の作成はスタジオミダスさんに特注したものである。スタジオミダス製作の模型はこれまでにも本ブログで紹介してきた(→「シャペロニンの模型が手元に!」)。スタジオミダスさんでは山形大の川上勝さん考案のタンパク質のシリコーンモデル(Kawakami Model)を作っている以外にも、今回紹介した石膏モデルでのタンパク質模型も作成してオンラインショップで売っていたりもする(→SilMol-mini スタジオミダス)。

いずれにしても、小池さん、どうもありがとうございました。

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追記:
実は、フットボール以外でもタンパク質模型を持っていた。昨年の分子生物学会である企業がノベルティグッズとして配付していたのだ。
リボヌクレアーゼAとその阻害タンパク質の複合体である。


スタジオミダスさん制作で市販されているセットに組み込まれているタンパク質だ。ストラップではほぼ同じサイズだが、実際のタンパク質としては、RNaseA-Inhibitor複合体は分子量6~7万程度、GroELーGroES複合体は分子量100万ほどだから15倍ほど違うことになる。

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(注1)
 実は同時期にシャペロニンフットボールの立体構造が他からも報告されていて、そこでは野生型GroELを使っている(フットボール複合体と因縁のあるLorimerのグループから。Fei X, et al, PNAS 2014)(さらに2015年には別のグループからHsp60でも)。

野生型GroELでどうやって??と思うかもしれない。

リン酸の類似体であるフッ化ベリリウム(BeFx)を使うとGroELのATPaseサイクルが途中でストップしてフットボール複合体ができるという私たち自身が以前報告した性質(Taguchi et al, JBC 2004)を利用している。


2017/03/20

シャペロニンGroELもどきのサボテン

 3月ということで卒業生が巣立つ時期である。
 先日の追いコンにて卒業する学生たちが記念品をくれたのだが、その一つが本ブログのコンセプトにぴったりのモノであった。

 サボテンである。


 右にあるように雑貨屋で売っていそうなビーカーに入ったおしゃれなサボテン。

上から良く見てみよう。


 はい、とげを数えてみよう。1,2,3,・・・7。

 ということで、本ブログにたびたび登場するシャペロニンGroELの7量体にちなむサボテンである。もらった瞬間、頬が緩んだのは言うまでもない。

 学生からのメモも載せておこう。


ということで、少し前の「東寺の紋」に続く7のシンメトリーである「GroEL」もどきだ。本ブログのコンセプトを理解してくれた人たちからのギフトということで嬉しいものだ。

 他にも何か見つけたら教えてください。

2016/09/07

新著紹介「池上彰が聞いてわかった生命のしくみ 東工大で生命科学を学ぶ」

 一般の方、受験生へ向けての新著の紹介だ。

 「池上彰が聞いてわかった生命のしくみ 東工大で生命科学を学ぶ」
 著:池上彰, 岩崎博史, 田口英樹(朝日新聞出版)
    → 出版元のサイト(「立ち読み」あり)、→ amazon.co.jp

http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=18376

 この本では、ジャーナリスト池上彰さん(東工大特命教授)が問いかけた生命科学に関する疑問に田口と岩崎博史さん(東工大・研究院/生命理工)の二人が答え、さらに池上さんが一般社会との類似点などを指摘したりしてまとめる、という対談形式で生命のしくみのエッセンスを理解してもらう主旨である。

以下、宣伝用の文章と章立て。
 暗記科目と思われがちな生物は、「分子の視点」で理解できる!?  遺伝子やゲノムなど、大人として最低限知っておくべき生物の知識について、池上さんが質問し、最先端の研究をしている東工大の教授が解説し、池上さんの視点で解釈する。
第1章:生きているって、どういうことですか
第2章:細胞の中では何が起きているのですか
第3章:死ぬって、どういうことですか
第4章:地球が多様な生命であふれているのはなぜですか
特別対談:どうして今、生命科学を学ぶのですか
   実際に池上さんと行った対談を元に構成されているので、勢いがあるというか、臨場感にあふれている。これまでいろんな入門書で挫折してきた方々にもかなり読みやすいのではないかと自負できる内容だ。

また、田口と岩崎さんだけでなく、ノーベル賞有力候補の大隅良典さん(東工大栄誉教授)にも一部ご参加いただき、専門のオートファジーの解説や生命科学を学ぶ意義について池上さんと熱く語り合っていただいた。

 ということで、執筆陣が全て東工大教員というのも強調したい。
 東工大は工学系で知られており、生命科学なんてあるの?という方もいるかもしれないがそんなことはない。田口と岩崎さんも所属する生命理工学院(受験時の分類では7類)は「幅広い分野から生命理工学を学べる国内最大規模の教育研究組織」ということで、実際、70以上の研究室を擁している。受験生のみなさん、東工大7類の受験をぜひご検討ください(→東工大受験生向けサイト)。生物について興味はあるけどよく知らないという受験生のあなた、7類の1年生の多くは生物学についてほぼ知らない状態で入ってくるのでだいじょうぶ。学びたい分野も受験の時点で決まってなくてもOKだ。あとで幅広い分野から選べる。ただ、生命についての入門は本書でしっかり勉強しておくのが望ましいかもしれない(!)。
もちろん、修士や博士後期課程からの入学も大歓迎である。

 表紙で池上さんの写真のバックに見える図は何かわかるだろうか?
 これは、回転するタンパク質、ATP合成酵素の一部(F1部分)の立体構造である。
 この本では、「分子の視点」で生命を理解する、というのを主眼の一つにしているのだが、イキイキと動く分子の象徴が、生命のエネルギー通貨であるATP(アデノシン三リン酸)を合成するATP合成酵素というわけだ。実際、対談中にF1がくるくる回るようすを動画で池上さんに見ていただいたところたいへんに驚いていた。
 さらには、ATP合成酵素のF1部分が回転するのを証明したのが東工大という縁もある(恩師の吉田賢右ラボ(元東工大)と故木下一彦ラボ(当時慶應大)の共同研究)。

 以上、ありそうでなかったタイプの生命科学の入門書ではないだろうか。「生きている」とはどういうことなのか分子の視点で知りたい方、昔習ったはずだけどもう一度復習したい方には打ってつけの本である。このブログの読者に多いと想定される生命科学の研究者、大学院生なども、ぜひ手にとって、よいと思われたら周囲の方にお勧めしていただければうれしいかぎりだ。

 最後に、この池上さんとの本を読んでもう少し深めたいと思った方への宣伝。
2年前に「学んでみると生命科学はおもしろい」田口英樹著(ベレ出版)を出版した。内容的には池上さんとの本とオーバーラップしつつも田口の考える生命観がより濃く出ているのでぜひどうぞ。( →ブログでの紹介、→ amazon

2016/05/28

Snaak:カチカチと折りたたむ3Dパズル

(2016年5月28日掲載だが、更新しようとしたら消えてしまったので再掲)

次もアメリカで入手したモノで立体造形パズルというかおもちゃである。Snaakというらしい。snaak.comによると、"3D puzzle and shape-maker tool."と定義されていた。

日本では未発売のようだが、なかなか気持ちよくいろんなかたちを作ることができる。

まず、一番の典型のキューブ型に造型してみる。
写真ではちょっとわかりにくいが、4×4×4=64個のパーツがゴムでつながっていて、カクカク、カチカチと折れ曲がるようになっている。


では、キューブをバラして、「変性」させてみよう。














購入時は8×8の平面状として販売されていた。


右がパッケージ。MOMAのミュージアムショップにて購入。





説明文として、
Millions of shapes in your hands
ということでかなりいろんなかたちを作ることができる。

研究室のお茶部屋に置いておくとなかなか人気で、学生が日に日に違ったかたちを作ってくれる。



売り場には透明、赤、緑があった。GFPや赤蛍光タンパク質を意識して緑と赤を購入。


緑と赤をそれぞれ GFPとRFP(Red Fluorescent Protein)に見立てると、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)バージョンを作ることも簡単だ。


真ん中の「ペプチド」領域がヘリックスを形成して緑と赤が近いと、エネルギー移動が起こって、緑蛍光を励起したとき、赤蛍光が出る。
以下は、真ん中の「ペプチド」が伸びきって、GFPとRFPの距離が拡がり、FRETが起こらない。


それはさておき、開発元を見ると多様なかたちが紹介されている。
 (→ Snaak Geometry by Gideon Cube-Sherman )。

そのサイトにはDNA二重らせんもある(→ Double Helix by Dane Christianson )。


 さらには、そこにあった動画も載せてみる。カチカチ感が伝わるかもしれない。
(説明の音声注意)





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2017年7月追記
このオモチャはラボでも相当に人気があって、実にいろんなカタチを学生たちが創ってくれる。


2016/05/21

Playable ART Ball でカラフルな「ポリペプチド」アート

 海外に行くと紹介するネタが増えるのが常である。

先月アメリカのCold Spring Harbor Laboratoryのミーティングに出かけた際にもいくつかネタを入手した。

 まずは、Playable ART Ballという木製のボールが連なったおもちゃである。
 カラフルなボール一つ一つをアミノ酸に見立てれば、つながっている状態は「ポリペプチド」である。
 ショップ(MOMA museum shop)での展示品や箱に入っている状態はリング状になっているが、切り離せば一本のヒモとなり、より「タンパク質」らしくなる。


ボールは20個。いろんな形を作ることができる。

ダブルリング構造。二層と言っても、2つの独立したリングを重ねているわけではなく、一本のリングからこのダブルリングを作っている。

写真ではサイズ感はわかりにくいが、ボール一つの直径が3cmくらいなので全体としてはけっこう大きく、重量感たっぷりである。適当に形を作って置物にして飾ってもいい感じだ。



 

ボールを切り離したところ。
連結部はあまり動かない仕組みであることがわかってもらえると思う。
 購入時の箱の裏面にいろんな形が書いてある。


日本内でも入手可能なようだ(Google "プレイアブルアートボール")。
ネットショップの中に動画があり、リンクをはれるようなので以下に載せてみる。



木製の質感やカラフルさもあいまって、そばに置いてあるとついいじりたくなる代物だ。小さな子供のおもちゃにもうってつけである。

2016/05/15

新設の細胞制御工学研究ユニットに所属変更

この4月に東工大では大きな組織改革があり、それに伴って所属の変更があった。


これまでの大学院 生命理工学研究科から科学技術創成研究院 細胞制御工学研究ユニット へ移ったのである。ただし、生命理工から離れたわけではなく教育は生命理工学院担当のままだ。

 大学改革は大きく教育改革研究改革に分かれ、前者では学部と大学院が統一・再編されて「学院」が創設、後者では研究所が全て「科学技術創成研究院」に組み込まれたのに加えて、最先端研究を小規模のチームで推進する「研究ユニット」が設置された。

 この研究ユニットの一つが大隅良典栄誉教授をユニットリーダーとする細胞制御工学研究ユニットであり、そこに移ったということだ。

細胞制御工学研究ユニットHP:http://cell-biology.jimdo.com/

 既に先月このユニットの設立シンポジウムが開催された。

http://cell-biology.jimdo.com/%E3%82%AD%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%AA%E3%83%95%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%9D%E3%82%B8%E3%82%A6%E3%83%A0/


このポスターはユニットの木村研ポスドクの佐藤さんが写真撮影も含めて作ってくれたもので、このブログネタにぴったりである。写真に登場する小道具のうち右から2番目の「細胞」以外の3つの「タンパク質」を提供した。左から、GroELユビキチン、一番右がGFPだ。GFPについてはまだ紹介していないが最近講義用に大学予算で作ってもらったもの。なお、右から2番目の透明の筒に赤い毛糸玉が見える「細胞」は佐藤さんが作った凝ったもので、核、小胞体、ゴルジ体などが毛糸やパスタで表現された秀逸な作品である。





2015/12/19

タンパク質模型を自分で作ろう(Tangle Proteins Building Set)(1)

今回紹介するのはこのブログの趣旨にとてもよく合うネタである。

Tangle Proteins Building Set

Tangle
Tangleはこのブログの初期にも登場しているタンパク質の「ひも」を表現するときによく使ってきたプラスチックのおもちゃである(過去エントリー→「ポリペプチドもどき)。左の写真がそのTangleをつなげた「ポリペプチドもどき」であるが、Tangleだけではブラブラしているだけで何か特定の形を作る、さらにその形に固定する、のは至難の業だった。ただ、タンパク質というのはアミノ酸が連なった「ひも」であることを示したり、ぶらぶらで変性しているのを示すのには都合がよい。

今回のセットは、このTangleをベースにしてタンパク質の立体構造を作る一種の教材である。箱を開けると、赤、青、緑、白の4種のTangleパーツ(アミノ酸に相当)と、Tangleでのタンパク質造型を支える透明の棒(水素結合)が入っている。


箱の中身
パーツ(「アミノ酸」と「水素結合」)
Tangleパーツに小さな穴が開いているのが見えるだろう。この穴に「水素結合」の棒をつなぐのだ。

解説書が同封されていて、「タンパク質とは何か」という説明から始まってαヘリックスやβシートなど2次構造についての説明が続く。さらに、実際のタンパク質立体構造に基づく立体構造の組み上げ方が書かれている。それに出ていたユビキチン(76アミノ酸)の立体構造を実際に作ってみよう。

まず、Tangleを76アミノ酸つなぐ。赤:αヘリックス、青:βシート、緑:ターン、白:コイル、となっている。

ユビキチン(76アミノ酸)の「変性」状態
 さらに、αヘリックス、βシートを形成する。

「フォールディング」中間体:2次構造の形成

「αヘリックス」
右は、αヘリックスの拡大写真。
それぞれのTangleパーツには穴が開いていて、ヘリックスを安定化するための「水素結合」の棒をつなげる。

この辺りの細かい部分は実際のタンパク質の立体構造に合うようよく考えられた作りになっている。詳細は次回に解説することにして、先に進もう。
 ユビキチンの立体構造はPDB(Protein Data Bank)の1UBQがベースだ。


実際に立体構造形成、すなわちフォールディングを開始させると、実際には「水素結合」棒をつなぐのがななかか難しい。レゴのようにカチッとはまらず、ひずみがあるとすぐに棒が抜けて飛んでいってしまう。それでも、何だかんだと進めていくと、一応それらしくできた。実際にはαヘリックスとβシートをそれなりに置いて全体をつなげただけで、細部はかなり適当である。
一応完成した「ユビキチン」もどき

PDBのサイトで作成したユビキチン(1UBQ)の構造図を右に付ける。一応雰囲気は出ているかも。



ということで、ひとまずユビキチンの「フォールディング」をやってみた。かなり不安定で、形をもう少し丸っこくしようとしたりするとすぐに壊れそうになる。タンパク質のもつ不安定さを象徴しているかもしれない。

このタンパク質造型セットは、来年度から始まる東工大の学部1年生向けの実演講義での教材を探していた途上でネットで見つけた。Tangleを買い足そうかと探していたら、タンパク質造型用のセットがあったのだ。ちょっと調べた限りでは国内で入手することができなかったので、アメリカamazonから購入。一週間ほどで到着した。

細かいこだわりについては次回に回すことにするが、なかなかに楽しい教材(おもちゃ)である。


2015/08/12

東寺の紋とシャペロニン

 京都にて東寺に立ち寄った。

 新幹線で京都駅から新大阪方面へ出発してすぐに見える五重の塔が東寺の境内にあることはよく知っていたが、行ったことはなかった(いや、もしかしたら、中学か高校の修学旅行で行ったかもしれないが・・・)。

東寺 御影堂
思っていた以上に見応えのある素晴らしい仏像たちを拝んだあとに、境内をぶらぶらと歩いていた。
 この御影堂というお堂も国宝なのか、などと思いつつ、ふと目に留まったのが提灯の紋である。

 一目見て、おや?と思い、近づいてしっかり数えてみる。

 1,2,3,・・・7。

 シャペロニンGroELだ! である。 拡大写真を載せる。

東寺にて
いったん見つけると、この紋が描かれている提灯は東寺境内あちこちにあるのがわかった。
 ネットで調べると、この紋は 外側の7つの塊の「雲」に加えて、内部の「雲」を合わせて「八雲(やくも)」というらしい。

 どうGroELに似ているのか。

 GroELは7量体のリングが二つ積み重なったダブルリング構造である。
 その一層リングの一部を上から表示したのが右の図。
 7量体というのはタンパク質の多量体構造の中でもそれほど多いものではない。



しかも、もう一つ面白く思ったのは、この紋は7つの塊が一筆書きでつながっている点だ。
 というのは、GroEL遺伝子を7つつなげ、「一筆書きGroEL」を精製して、GroELの7つのサブユニットの重要性を調べた研究が、Horwichらによって実際に行われたからだ(Farr GW et al, Cell 2000)。GroELのサブユニットのN末とC末は距離が近いので、左図のようにC末と次のN末を適当なリンカーでつないで大腸菌で発現させ、精製することができる。この「一筆書きGroEL」は東寺の紋にそっくりである。

 ちなみに、この共有結合でつながったGroELを使うと、任意のサブユニットに変異を入れことが可能となる。例えば、図の3と6のGroELサブユニットの基質タンパク質認識部位をつぶす、というようなことができるわけだ。上述のHorwichらの論文によると、GroELの7つのサブユニットは全てがアクティブでなくてもよく、3〜4個は基質タンパク質やGroESを結合しなくても、GroELのシャペロン機能はほぼ維持されるらしい。

 さらに、東寺の紋が示唆に富むのは、内部に「雲」が描かれていることである。上の図にも描きこんだように、GroELが基質タンパク質を内部に取り込んだようすとそっくりである。

 ということで、東寺の紋は本当にGroELにそっくりであり、GroELのロゴとして最適と言っていいだろう。密教の世界の深奥さを垣間見たというか、率直に本当に驚いた。

 海外でのスライドなどでも使えるかもしれない。
 何でもっと早く気付かなかったのか悔やまれる限りである。

2015/08/10

Brainstring:ひもを絡めて元に戻すパズル

 未更新のままあっという間に半年が経っていた。

近傍でネタが見つかることが多いのは、お台場の日本科学未来館のミュージアムショップだ。たまたま行く機会があったので、ショップを覗いたら、見たことのないパズルが置いてあった。

 Brainstring

 まず、形がキューブ状というだけで、買いたくなるが、それだけでなく「string(ひも)」ということで、「タンパク質はアミノ酸がつながった "ひも" である」と事あるごとに言っている身としては、ますます気になるではないか。
 サンプルなど置いてなかったが、気になるモノは逃すといつ入手できるかわからないので、とりあえず購入。

 家で開封する。キューブ状のスケルトンの容器に、ボタンとボタンでつながった「ひも」(実際はゴム)が向かい合う面同士に渡してある。この「ひも」は各面に4つあるので、全体では4×3=12本となる。ここまでが初期状態。
 下にあるのが拡大写真で「ひも」が直線上に渡されているのがわかる。


 容器にはボタンを動かすためのスリットが入っていて、ボタンをあちこち動かすといずれ中の「ひも」が絡まるという仕組みだ。
 以下、ある程度絡めた図。 いくらでも絡まらせることができるが、元に戻らないとイヤなので、最初はほどほどに。


 そして、元に戻す、というパズルである。

 タンパク質が変性した状態で「ひも」が絡まって凝集体になるという表現をよく使っているので、このパズルで「ひも」が絡んだ状態は「凝集」状態になぞらえることができるかもしれない。すると、この絡んだ状態を元に戻すのは、脱凝集ということになる。
 とは言え、実際のタンパク質凝集で本当にポリペプチドの「ひも」が絡まっているかどうかは定かではない。
 それに、 このキューブ自体が、形を持ってフォールディングしたタンパク質っぽいので、内部で絡まっているのは凝集っぽくないかもしれない・・・。

<初学者の方へ>
 シャペロンはタンパク質の凝集を防いで、フォールディングを助けるのが基本だが、いったん絡まって凝集体を元に戻すシャペロンも存在する。Hsp104(バクテリアのClpB)というシャペロンはHsp70/Hsp40(バクテリアではDnaK/DnaJ)、ATPと共同で、凝集体をほぐして機能を回復させることができる。
 これは例えて言うなら、「ゆで卵を生卵に戻す」ということであり、にわかには信じがたいかもしれないが、そういうスーパーシャペロンが存在するのである。

<サプリメントのサプリメント>
このパズルの発売元のRecent Toys(http://www.recenttoys.com)に見覚えがあるな、とサイトを見たら、既に5,6種類は持っていた。だいたいはこのブログで紹介している。ツボにはまったパズルメーカーだ。





2015/02/22

「顔 東工大の研究者たち」に掲載

 またまた久しぶりの更新となった。

今回は自ら記事を書くのではなく、大学が準備してくれた記事の紹介だ。

 東工大全学サイトの「顔 東工大の研究者たち」シリーズにて、田口ラボでのシャペロン研究や新学術領域研究「新生鎖の生物学」を紹介してくれたのでご覧ください(昨年12月末に公開)。



 サイエンスライターの方が取材に来てまとめてくれたので、専門外の方でもわかりやすいと思います。

2014/10/13

ラボに導入された3Dプリンターでシャペロニン模型

 1年ほど前の本ブログにて、3Dプリンターで作成したシャペロニンの模型を貸してもらった旨を掲載した。→「シャペロニンの模型が手元に!
 そこで紹介したタンパク質模型は川上勝さん(現・山形大学・工・ライフ3Dプリンタ創生センター)が作り方を考案した非常に凝ったもので気軽に作れるモノではない。

 その川上さんが、最近出回ってきた廉価版の3Dプリンターでもタンパク質模型作れますよ、とおっしゃっていた。学内のある会議の雑談?で、「東工大・生命理工でも3Dプリンターを導入していろいろ活用しはじめてはいかがでしょうか?」と意見したところ、研究科で購入してくれることになった。川上さんにどの機種がよいのかなどアドバイスをいただいて、購入し、さしあたりうちのラボに置いてある。本体(UP! Plus2)は10万円台の機種だ。

 「いろいろ活用してはいかがでしょうか?」とは言ったものの、ノウハウなどない中で「何」を「どう」作るのかが問題である。そんな中、川上タンパク質モデルを実際に作っている3D印刷業者さん(スタジオミダス)がラボに来る機会がたまたまあり、その際に、導入したのと同じプリンターで作ったシャペロニン模型と、それを印刷する際の元ファイルをいただいた。このファイルでまずはシャペロニンを「印刷」してみた。

 以下がうちのラボにある3Dプリンターで「印刷」したシャペロニンGroEL(白)とGroES(黄色)である。


 大きさは直径が7~8cmくらいだろうか。以前紹介した川上モデルのGroEL/ES模型より一回り以上小さい。
 以下はGroELとGroESの複合体。右側はスタジオミダスさんよりいただいた模型である。樹脂がちがうようで同じプリンターで作ったとは言え、質感が若干ちがっている。


 当初は、PDB(Protein Data Bankもしくは日本PDB)から入手できるタンパク質の3次元座標情報をどのように3Dプリンター用のフォーマットに変換するのかわからなかった。しかし、ラボの学生がいろいろ調べて試行錯誤してくれたおかげで、今ではPDBファイルを3Dプリンター用に変換して、シャペロニン以外のタンパク質でも印刷できるようになった(注1)。

以下は「印刷」途上のようす。


 できると「おぉー」となるが、いろいろと問題点もある。

(1)まず、3Dプリンターでの模型は「印刷」後にすぐに完成しているわけではない。複雑な形状のモノを作る際には不安定な部分を支えるための余分な「バリ(サポート材)」も大量に印刷される。実際、上の写真で印刷されている外形のほとんどはサポート材だ。なので、実際には印刷完了後にけっこうな時間をかけて黙々とバリ取りをするという面倒がある。

(2)印刷自体もかなり時間がかかる。数時間から一晩かけてかたちができあがっていく。

(3)つくるタンパク質にも向き不向きがありそうだ。シャペロニンは空洞がある特徴的な形状なのでこのプリンターで作っても非常にわかりやすいが、分子量数万の球状タンパク質だと印刷してもあまり印象的ではないかもしれない。

(4)単色である。樹脂を変えると色違いのはできるが(上のGroESは黄色い樹脂を使用)、一つのタンパク質内でマルチカラーにはできない。(プラモデルの塗装が趣味ならばいい素材になるかもしれない)

 ということで、問題点や制限はあるのだが、自分のところでGroELとGroESの簡易模型ができたのは素直にうれしい。今後さまざまなタンパク質をプリントアウトして楽しむと同時に、PR活動、さらには実際の研究にも活用できないか模索していきたい(注2)。

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注1:この模型の作製にはラボの星君、和泉君を筆頭とした何人かが時間をかけて試行錯誤してくれました。どうもありがとう。

注2:本プリンターは研究科の予算で購入いただいたので、東工大・生命理工の方で興味のある方はお気軽にご相談ください。