2021/07/12

【論文紹介】3Dプリンターで作ったタンパク質キャンディーを教育に使う(Science Advances)

 本ブログの趣旨にぴったりの面白い論文がScience姉妹誌(Science Advances)に最近出ているのを見つけたので紹介したい。

 3Dプリンタで作成したタンパク質模型を本ブログでたびたび紹介している。中でも、以下に示す「川上モデル」は美しさと質感が最高で、講義、高校での模擬授業などで欠かせない教材(小道具)だ。山形大の川上勝さんが考案した特殊な製法で作られたこの模型は素材のベースがシリコンなので弾力性がある。思わず触りたくなる逸品なのだが、触った人の感想に「グミみたいで食べたくなりますね」というのがある。

→ 制作元:スタジオミダスHP


前置きが長くなったが、実際にグミなどで作ったタンパク質モデルを教育に使うという論文が出た。今回紹介するScience Advances論文は、3Dプリンタで作った「キャンディー」、つまり、食べたり、口に入れるタンパク質模型が主役である。

Visualizing 3D imagery by mouth using candy-like models

Baumer KM et al, Science Advances  28 May 2021: Vol. 7, no. 22, eabh0691

DOI: 10.1126/sciadv.abh0691 (オープンアクセス)

この論文の紹介記事 → Gummy models may be aid for students with vision loss (Nerdist) 

Science podcast (July 8 2021): 3D-printed candy proteins 

 論文の図をそのまま載せることはできないので、ぜひ上記の論文そのもの、もしくは紹介ニュースに載っている図を見てほしい。本ブログを楽しんでもらっている読者なら嬉しくなる図がいくつもある。とりあえずは、3Dプリンタでさまざまなタンパク質模型を1㎝くらい、もしくは米粒大に作ったというのが論文の前段である。

 が、単に3Dプリンタで食べられるタンパク質模型を作ったというだけでは、Science姉妹誌に載らないだろう。本論文の主題は、複雑なタンパク質の立体構造を区別するのに口の中は適していて、触覚や視覚に匹敵するくらいである、というのだ。さらには、視覚障害を持った学生へタンパク質の立体構造を理解してもらうのに触るよりも口に入れてもらう方がいい、ということである。
 実際には、グミキャンディーモデルだけでなく、口に入れてもいいような素材でできたタンパク質模型を作って、被験者に口に入れてもらってテストしている。一種の心理学での実験みたいなものだろう。ちなみに、この論文のジャーナルでのカテゴリーはNeuroscienceになっている。

 この論文を知ったのは、たまに聴いているScienceのポッドキャストに取り上げられて筆頭著者の大学院生がしゃべっていたからだ。基本的には、その院生の思い付きでのキャンディープロジェクトが発展したということのようだ。こういう一般の方へのアウトリーチ的な内容でもアイディア次第でインパクトのある論文に仕上がるのだなぁという感想も持った。

私も何かできることがあるかもしれない。