2016/09/07

新著紹介「池上彰が聞いてわかった生命のしくみ 東工大で生命科学を学ぶ」

 一般の方、受験生へ向けての新著の紹介だ。

 「池上彰が聞いてわかった生命のしくみ 東工大で生命科学を学ぶ」
 著:池上彰, 岩崎博史, 田口英樹(朝日新聞出版)
    → 出版元のサイト(「立ち読み」あり)、→ amazon.co.jp

http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=18376

 この本では、ジャーナリスト池上彰さん(東工大特命教授)が問いかけた生命科学に関する疑問に田口と岩崎博史さん(東工大・研究院/生命理工)の二人が答え、さらに池上さんが一般社会との類似点などを指摘したりしてまとめる、という対談形式で生命のしくみのエッセンスを理解してもらう主旨である。

以下、宣伝用の文章と章立て。
 暗記科目と思われがちな生物は、「分子の視点」で理解できる!?  遺伝子やゲノムなど、大人として最低限知っておくべき生物の知識について、池上さんが質問し、最先端の研究をしている東工大の教授が解説し、池上さんの視点で解釈する。
第1章:生きているって、どういうことですか
第2章:細胞の中では何が起きているのですか
第3章:死ぬって、どういうことですか
第4章:地球が多様な生命であふれているのはなぜですか
特別対談:どうして今、生命科学を学ぶのですか
   実際に池上さんと行った対談を元に構成されているので、勢いがあるというか、臨場感にあふれている。これまでいろんな入門書で挫折してきた方々にもかなり読みやすいのではないかと自負できる内容だ。

また、田口と岩崎さんだけでなく、ノーベル賞有力候補の大隅良典さん(東工大栄誉教授)にも一部ご参加いただき、専門のオートファジーの解説や生命科学を学ぶ意義について池上さんと熱く語り合っていただいた。

 ということで、執筆陣が全て東工大教員というのも強調したい。
 東工大は工学系で知られており、生命科学なんてあるの?という方もいるかもしれないがそんなことはない。田口と岩崎さんも所属する生命理工学院(受験時の分類では7類)は「幅広い分野から生命理工学を学べる国内最大規模の教育研究組織」ということで、実際、70以上の研究室を擁している。受験生のみなさん、東工大7類の受験をぜひご検討ください(→東工大受験生向けサイト)。生物について興味はあるけどよく知らないという受験生のあなた、7類の1年生の多くは生物学についてほぼ知らない状態で入ってくるのでだいじょうぶ。学びたい分野も受験の時点で決まってなくてもOKだ。あとで幅広い分野から選べる。ただ、生命についての入門は本書でしっかり勉強しておくのが望ましいかもしれない(!)。
もちろん、修士や博士後期課程からの入学も大歓迎である。

 表紙で池上さんの写真のバックに見える図は何かわかるだろうか?
 これは、回転するタンパク質、ATP合成酵素の一部(F1部分)の立体構造である。
 この本では、「分子の視点」で生命を理解する、というのを主眼の一つにしているのだが、イキイキと動く分子の象徴が、生命のエネルギー通貨であるATP(アデノシン三リン酸)を合成するATP合成酵素というわけだ。実際、対談中にF1がくるくる回るようすを動画で池上さんに見ていただいたところたいへんに驚いていた。
 さらには、ATP合成酵素のF1部分が回転するのを証明したのが東工大という縁もある(恩師の吉田賢右ラボ(元東工大)と故木下一彦ラボ(当時慶應大)の共同研究)。

 以上、ありそうでなかったタイプの生命科学の入門書ではないだろうか。「生きている」とはどういうことなのか分子の視点で知りたい方、昔習ったはずだけどもう一度復習したい方には打ってつけの本である。このブログの読者に多いと想定される生命科学の研究者、大学院生なども、ぜひ手にとって、よいと思われたら周囲の方にお勧めしていただければうれしいかぎりだ。

 最後に、この池上さんとの本を読んでもう少し深めたいと思った方への宣伝。
2年前に「学んでみると生命科学はおもしろい」田口英樹著(ベレ出版)を出版した。内容的には池上さんとの本とオーバーラップしつつも田口の考える生命観がより濃く出ているのでぜひどうぞ。( →ブログでの紹介、→ amazon

2016/05/28

Snaak:カチカチと折りたたむ3Dパズル

(2016年5月28日掲載だが、更新しようとしたら消えてしまったので再掲)

次もアメリカで入手したモノで立体造形パズルというかおもちゃである。Snaakというらしい。snaak.comによると、"3D puzzle and shape-maker tool."と定義されていた。

日本では未発売のようだが、なかなか気持ちよくいろんなかたちを作ることができる。

まず、一番の典型のキューブ型に造型してみる。
写真ではちょっとわかりにくいが、4×4×4=64個のパーツがゴムでつながっていて、カクカク、カチカチと折れ曲がるようになっている。


では、キューブをバラして、「変性」させてみよう。














購入時は8×8の平面状として販売されていた。


右がパッケージ。MOMAのミュージアムショップにて購入。





説明文として、
Millions of shapes in your hands
ということでかなりいろんなかたちを作ることができる。

研究室のお茶部屋に置いておくとなかなか人気で、学生が日に日に違ったかたちを作ってくれる。



売り場には透明、赤、緑があった。GFPや赤蛍光タンパク質を意識して緑と赤を購入。


緑と赤をそれぞれ GFPとRFP(Red Fluorescent Protein)に見立てると、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)バージョンを作ることも簡単だ。


真ん中の「ペプチド」領域がヘリックスを形成して緑と赤が近いと、エネルギー移動が起こって、緑蛍光を励起したとき、赤蛍光が出る。
以下は、真ん中の「ペプチド」が伸びきって、GFPとRFPの距離が拡がり、FRETが起こらない。


それはさておき、開発元を見ると多様なかたちが紹介されている。
 (→ Snaak Geometry by Gideon Cube-Sherman )。

そのサイトにはDNA二重らせんもある(→ Double Helix by Dane Christianson )。


 さらには、そこにあった動画も載せてみる。カチカチ感が伝わるかもしれない。
(説明の音声注意)





ーーーーー
2017年7月追記
このオモチャはラボでも相当に人気があって、実にいろんなカタチを学生たちが創ってくれる。


2016/05/21

Playable ART Ball でカラフルな「ポリペプチド」アート

 海外に行くと紹介するネタが増えるのが常である。

先月アメリカのCold Spring Harbor Laboratoryのミーティングに出かけた際にもいくつかネタを入手した。

 まずは、Playable ART Ballという木製のボールが連なったおもちゃである。
 カラフルなボール一つ一つをアミノ酸に見立てれば、つながっている状態は「ポリペプチド」である。
 ショップ(MOMA museum shop)での展示品や箱に入っている状態はリング状になっているが、切り離せば一本のヒモとなり、より「タンパク質」らしくなる。


ボールは20個。いろんな形を作ることができる。

ダブルリング構造。二層と言っても、2つの独立したリングを重ねているわけではなく、一本のリングからこのダブルリングを作っている。

写真ではサイズ感はわかりにくいが、ボール一つの直径が3cmくらいなので全体としてはけっこう大きく、重量感たっぷりである。適当に形を作って置物にして飾ってもいい感じだ。



 

ボールを切り離したところ。
連結部はあまり動かない仕組みであることがわかってもらえると思う。
 購入時の箱の裏面にいろんな形が書いてある。


日本内でも入手可能なようだ(Google "プレイアブルアートボール")。
ネットショップの中に動画があり、リンクをはれるようなので以下に載せてみる。



木製の質感やカラフルさもあいまって、そばに置いてあるとついいじりたくなる代物だ。小さな子供のおもちゃにもうってつけである。

2016/05/15

新設の細胞制御工学研究ユニットに所属変更

この4月に東工大では大きな組織改革があり、それに伴って所属の変更があった。


これまでの大学院 生命理工学研究科から科学技術創成研究院 細胞制御工学研究ユニット へ移ったのである。ただし、生命理工から離れたわけではなく教育は生命理工学院担当のままだ。

 大学改革は大きく教育改革研究改革に分かれ、前者では学部と大学院が統一・再編されて「学院」が創設、後者では研究所が全て「科学技術創成研究院」に組み込まれたのに加えて、最先端研究を小規模のチームで推進する「研究ユニット」が設置された。

 この研究ユニットの一つが大隅良典栄誉教授をユニットリーダーとする細胞制御工学研究ユニットであり、そこに移ったということだ。

細胞制御工学研究ユニットHP:http://cell-biology.jimdo.com/

 既に先月このユニットの設立シンポジウムが開催された。

http://cell-biology.jimdo.com/%E3%82%AD%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%AA%E3%83%95%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%9D%E3%82%B8%E3%82%A6%E3%83%A0/


このポスターはユニットの木村研ポスドクの佐藤さんが写真撮影も含めて作ってくれたもので、このブログネタにぴったりである。写真に登場する小道具のうち右から2番目の「細胞」以外の3つの「タンパク質」を提供した。左から、GroELユビキチン、一番右がGFPだ。GFPについてはまだ紹介していないが最近講義用に大学予算で作ってもらったもの。なお、右から2番目の透明の筒に赤い毛糸玉が見える「細胞」は佐藤さんが作った凝ったもので、核、小胞体、ゴルジ体などが毛糸やパスタで表現された秀逸な作品である。