2018/09/16

新規フォールディング経路のキューブパズル

前回のブログエントリーにてフランスの学生から立体パズルをもらったことを書いたばかりだが、帰国したその学生から、お礼ということで二つ気の利いたモノをもらった。


下に写っているのは、ルノワールの「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」のマグネット。オルセー美術館のショップで買い求めてくれたらしい。
この中心の貴婦人が「シャペロン」であるというのがシャペロンの解説の定番?である。最近では昨年ブレークスルー賞(賞金300万ドル!)を受賞した京大の森和俊さんが受賞時の記者会見でこの絵を使ってシャペロンのコンセプトを説明していた(→記者会見のようすの写真)。


さて、本題はおなじみのキューブ型のパズルである。私にはタンパク質のフォールディングに見えて仕方が無いという代物で、このブログでも何回も登場してもらった。

キューブを崩すと、右のようになる。タンパク質になぞえれば完成した3×3×3の状態が「天然構造」、ほぐしたあとは「変性状態」である。

学部1年生向けの講義や高校生向けの出張講義などでもタンパク質の立体構造形成(フォールディング)を知ってもらうために大活躍してもらっている。

と書くと、このパズルはもういいよ、と思われるかもしれないが、ちょっと新しい点があった。

崩したあとに、完成させるのが難しいのである。

この手のパズルを入手したあと、研究室のみなが集まる部屋に置いておくのだが、このパズルは数日経っても学生たちが誰も解けない。

このパズルは完成型は3×3×3のキューブで同じように見えるが、実は経路がさまざまである。

この写真の左下が今回もらったパズルだが、それ以外に何種類ももっている。
右下は一番最初に入手したもので、今では目をつむっていても解ける。その右下のと、奥のカラフルな中の青色は同じ経路だが、他のは全部作りがちがう。

以前のブログエントリーに経路の写真を全部載せている(→経路のちがうフォールディングパズル)。

今回いただいたパズルの作りを見てみよう。

一番下が、今回もらったパズルだ。その上の以前からあるのと違うのがわかるであろう(下から二番目と青色は同じ作り)。

なぜ難しいかというと、新しいのは可動部が多いからだ。

下から二番目と青色のを例に取ると、3つパーツが並んでいる部分が9ヶ所あるが、新しいのは、3ヶ所しかない。つまり2つ連続部が多いので可動部が多いのである。可動部が多いほど取り得る「変性状態」の場合の数が多くなるので、パズルとしての難しさが高まるのである。

タンパク質のフォールディングと通じるものがある。

この話しには続きがある。ちょっと確認しないといけない内容もあるので、確認が取れたら続編をいずれ書いてみたい。

2018/08/05

フランス産の立体パズルを手土産で

いまラボに一種の共同研究でフランスの大学から修士学生が2ヵ月ほど来ている。

来日後、研究室にお菓子を持ってきてくれたあと、私にもお土産があるということで何かと思ったら、フランス産の立体パズルであった。 袋を開いた瞬間、顔がほころびたいへん喜んだのは言うまでもない。気の利いた手土産だ。


この学生Nさんは、昨年一度打ち合わせで来日し、私のオフィスに来ている。
そのときに、オフィスにところ狭しと並んでいるパズルやおもちゃが印象的だったのか、このブログを見ていたのかは聞いてない。が、私の趣味をきちんと理解してくれていたみたいで嬉しい限りである。


 左側のは、組み木パズル。つまようじみたいな細い棒を抜くと太めの棒がバラバラになって、それを対称性の高い立体に戻す。

似たようなパズルはもっていて、だいぶ前に一度紹介したかもしれないが、そのときのパズルはパーツが散逸して二度と戻らなくなっている。






もう一つのは一見おなじみのキューブパズルだが、拡げるとロボット的になるというパズル。

これも同様のを以前紹介したなと調べるともう5年ほど前に載せていた。「キューブ型パズルと思いきや・・・





崩すと、こんな感じになる。一本のヒモ状ではなく枝分かれ構造である。



実は、このキューブ型ロボットパズルは、
今年の5月にアメリカに行った際のMOMAでも新調して、ラボに置いていた。
 学生が、その「兄弟」と一緒に肩車した状態で飾ってあったのが、右の写真。


Nさん、ありがとうございました!

これを読んでいる皆さんも、こんなおもちゃやパズルがありますよ、という情報があったらぜひお寄せください。もちろんお土産も歓迎します。

2018/03/24

シャペロニン的?なアートカレンダー

 3月に恒例の追いコンにて卒業生一同よりプレゼントをもらった。

 MoMAストアのパーペチュアル(永久)カレンダーである。MoMAのグッズははこれまでにも多数このブログで紹介していることからわかるように、好みに合った立体的に美しいアート作品だ。

 とりあえず、カレンダーをテーブルに置いた状態。磁石がうまく使われていて月と日を手動でセットする。


MoMA Perpetual calendar
月と日の部分を拡大した写真。
 3月24日にセットしたところ

GroELーGroESフットボール模式図

 さて、これを選んだ学生いわく、このカレンダーはシャペロニンのフットボールに似ているという。正円を黒い棒が真ん中から分断しているのでダブルリングに見えるということだろう。

 あと、空間が抜けているところもシャペロニンっぽいかもしれない。つまり、シャペロニンの場合、空洞に基質タンパク質を格納することが機能の本質であり、このカレンダーでは月日を抜けたところに置いているということだ。


 とは言え、形状としてはカレンダーをそのまま見ても若干無理があるなぁと思いつつ、撮影しながら傾けて見ると楕円形になりフットボールっぽくなった。

「フットボール」二つ
奥に置いたのは3Dプリンターで作成したGroELとGroESのフットボール模型だ。

ところで、昨年3月はシャペロニンGroELもどきのサボテンということだった。そのサボテンも立派に成長してラボに置いてあるので一緒に撮影。

「シャペロニン」三つ
左にかけたのは、以前いただいたシャペロニンフットボールの模型ストラップだ。


ということで、ラボに3年もいると私に影響されて?、みんないろんなモノがタンパク質に見えてくるのかもしれない。

 いずれにしても、卒業する修士2年の皆さん、ありがとうございました。美しいコレクションがまた一つ増えました。


2018/03/02

ついにリボソーム模型が完成!

朝、研究室に行くと私の机に置き手紙と3Dプリンターでの模型が置かれてあった。


このような依頼があったからには、ブログの更新をサボっているわけにはいかない。

(ハートマークがあるが)送り主は卒研生のI君で、この模型はタンパク質の合成装置であるリボソームだ。リボソームは細胞内のタンパク質の合成を一手に引き受けるタンパク質とRNAからなる巨大な複合体である。数十種類のタンパク質と3種類のリボソーム用RNA(リボソーマルRNA)からなる。この造形物は10センチ四方くらいだが、細胞内のリボソームの大きさは〜20nmくらいだ。

 総分子量はバクテリアのリボソームで〜250万、真核生物のだと〜450万ということで細胞内で最も大きな成分の一つである(このブログでよく紹介しているシャペロニンGroELも比較的大きなタンパク質複合体だが、分子量は80万ほどである)。巨大なだけでなく、細胞内で最も豊富に存在する成分でもある。右に示したのはProteomapsというサイトからの図で出芽酵母の細胞内タンパク質の割合が面積比で示されている。何千というタンパク質がある中でリボソームがいかに豊富に存在するのか一目瞭然だ。

 模型に戻り、少し拡大した写真を載せてみよう。


この写真を見てもほとんどの人には何が何だかわからないだろう。
少し解説した図を載せてみる。

次の図は、私が代表を務める「新生鎖の生物学」のトップページから抜粋したイラストで、模型とだいたい同じ向きになっている。 
上側のおにぎりみたいな形の塊が大きい方の60S側となる。60Sと40Sの間にmRNAが挟まる。アミノ酸が結合したtRNAが入ってくるサイトは比較的大きな穴が空いているのがわかる(もう少し詳しく知りたい人はPDBが連載している「今月の分子(第10回):リボソーム」がいいかもしれない)。

この60Sの大サブユニットには合成されてきた新生ポリペプチド鎖(新生鎖)が通るトンネルが内部にある。この模型ではトンネル内部は埋もれていて見えないが向きを変えるとトンネルの出口に相当する穴が下の写真のようにはっきりわかる。(60S大サブユニットが上に乗っかってる向き)


さて、これまでこのブログのネタの多くはシャペロン(特に7量体のGroEL)やフォールディングを模したパズルだったが、最近研究室ではリボソーム関連の研究が盛んである。シャペロンはリボソームから出てきたばかりの新生鎖のフォールディングを助けるのが機能の基本なので自然な流れでリボソームでのタンパク質合成(翻訳)の研究に流れ着いた。
最近では、新生鎖が伸びる途中で一時停止する現象の普遍性(Chadani et al., PNAS 2016, 日本語解説)や、新生鎖によっては自らの翻訳を途中で終わらせるはたらきがあること(Chadani et al., Mol Cell 2017, 日本語解説)を見つけたところだ。

 というわけで、リボソームの模型は3Dプリンターが導入された直後から作りたく、担当の学生に造型をお願いしていたのだがこれまではできていなかった。理由としては、リボソームの立体構造がデータ量があまりに大きく、プリンター用のフォーマットに変換できない、ということだった(と思う)。今回、卒研生のI君は果敢にもリボソームの打ち出しに挑戦し、トラブルも多々あったが、このように成し遂げてくれた(しかも、卒研発表の前々日に・・・) 。嬉しいことである。

ところで、60Sと40Sが合わさったリボソームがなぜ80Sなのか不可解、というか、生命科学者は足し算もできないのか、と思う方もいるかもしれない。(ちなみに80Sは真核生物のリボソームであるがバクテリアでは50Sの大サブユニットと30Sの小サブユニットが合わさって70Sと、やはり計算が合わない)
この60Sや40Sの "S"は超遠心分析の際に用いられる沈降係数のS値(スベドベリの"S")である。遠心分離の際に速く沈降するほどS値が大きい。このS値は分子量だけでなく分子の形状(球状か棒状かなど)にも依存するので、60Sと40Sの複合体が80Sというようなことが起こるのである。

ということで、この先もさまざまなタイプのリボソームが3Dプリンターで打ち出されることだろう。楽しみである。