2025/12/12

「ジーン・マシン」(ラマクリシュナン著:みすず書房)の解説を執筆

また私が関わった書籍の紹介である。このたび、「ジーン・マシン:細胞のタンパク質工場「リボソーム」をめぐる競争」(ヴェンカトラマン・ラマクリシュナン著、みすず書房)の解説を執筆した。


あらゆるタンパク質はリボソームで合成される。DNAからタンパク質へとつながる生命のセントラルドグマにおける「翻訳」という過程である。タンパク質を産む母なる分子であるリボソームは生命においてもっとも重要な分子の一つであり、その分子機構解明の研究も長い。リボソームは細胞内でもっとも巨大な複合体の一つであり、タンパク質とRNAから成っている。その詳細な立体構造解明は1990年代後半から熾烈なレースが繰り広げられた。本書はそのレースに参加して栄誉を勝ち取った一人であるヴェンカトラマン(通称ヴェンキ)・ラマクリシュナンの自伝である。ラマクリシュナンはリボソームの結晶構造解明の貢献でノーベル化学賞を2009年に受賞している。

一言で言えば、たいへんおもしろい本である。リボソームに関わらない人(一般の方から生命科学者も含めて)が読んでも、ノーベル賞が懸かった研究分野におけるレースの裏側が垣間見える。 私はこれを読んで大学時代に呼んだジェームズ・ワトソンの「二重らせん」を思い起こした。ワトソンはフランシス・クリックとともにDNAの二重らせん構造を解明し、分子生物学に革命を起こしたワトソンである。当時応用化学を専攻していた私が生命科学に興味を持つきっかけとなった一冊である。

詳細は、私が書いた解説「リボソームという「巨象」を解明する人間ドラマ」の半分ほどがみすず書房のウェブサイトにて『ジーン・マシン』解説(抄)として読めるのでぜひご覧ください(私の知り合いやリボソーム研究者には、ウェブサイトに載ってないところに興味深い内容を書いたことを付記しておく)。

2025/11/24

近著紹介:実験医学増刊号「タンパク質発現異常」

編集を担当した実験医学増刊号が10月に発行されたので紹介したい。

「徹底解剖 タンパク質発現異常 疾患の原因が見えてくる!新機構27選」

田口英樹,松本有樹修/編


簡単に言えば、タンパク質ができてくる過程で起こりうる異常に関して想定できそうなトピックスをまとめた一冊である。本書での「異常」は、疾患につながる異常が前提となって編集した。概説や目次などは羊土社HPの立ち読みでできるのでぜひご覧いただきたい(→「立ち読み」)。
実際には、この増刊号は2022年に出版された実験医学増刊号「セントラルドグマの新常識」のスピンオフである(本ブログでの紹介羊土社HP)。3年前の増刊号は基礎研究の立場からまとめた内容だったがかなり好評だったということで、病気にも関係する内容が望まれたということで編集の依頼が届いた。本増刊号では2022年の増刊号で紹介した新常識の翻訳以降を中心として疾患に絡めたと考えてもらうとわかりやすい。例えば、ヒトの疾患に興味のある方が、本書でカタログ的・網羅的にタンパク質発現に関する異常を検索してヒントや洞察を得ることに役立てていただければ幸いである。



2025/07/14

子供のための科学書籍2冊を監修

これまでに何冊か一般の方に向けた書籍を何冊か執筆した。

今年になって小学館より子供向けの書籍2冊を監修したので紹介する。

1)ドラえもん科学ワールドspecial 遺伝子のふしぎ  藤子・F・ 不二雄 (イラスト) 2025/7/3 小学館  (→小学館サイトAmazon


本書の趣旨に関連してそうなドラえもんの実際の旧作9編に合わせて、遺伝子や生命科学の初歩を学べる。その旧作の中には私が小学生時代(50年ほど前!)に読んだ記憶があるものもあって感激した。ドラえもんをもう一度読みたい方にもお勧めである。

2)10歳からの科学の常識100: 文系の池上彰が教える  池上 彰 (著) 小学館 2025/2/25  (→小学館サイトAmazon


こちらは生命科学だけでなく科学全体に関する書籍。監修者は全員、東京科学大学の教員である。
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いずれも、池上彰さんとの以前の共著、

池上彰が聞いてわかった 生命のしくみ 東工大で生命科学を学ぶ 単行本2016年 朝日文庫2020年 朝日新聞出版

のご縁で同僚の岩崎博史教授と一緒に監修した。





2025/06/21

NHK「人体III」のサプリメント(補足):謝辞

 NHKスペシャル「人体III」の最終回(6/15放映)で私のライフワークのシャペロニンを取り上げていただいた。

「人体III」シリーズ4回の全体を貫くテーマは「細胞」、特に細胞内ではたらくタンパク質(細胞内キャラクター)に焦点を当てている。最終回の序盤で、細胞内キャラを育てるキャラクターということでシャペロンが登場する。観ておられない方のために概要をお伝えしよう。

1.オルセー美術館に収蔵されているルノアールの「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」が映される。

Pierre-Auguste Renoir, "Le Moulin de la Galette" from Wikimedia Commons

2.この絵画を使ってJudith Frydman博士(スタンフォード大)がシャペロンの概念を解説する。Frydman博士は真核生物シャペロニンの圧倒的なリーダーである

3.細胞内で赤ちゃんタンパク質(新生鎖)がリボソームから産まれてくるようすが「人体」シリーズお得意のCGで解説される。ぶらぶらしたヒモ状態の新生鎖が働けるかたちに折りたたんでいくようすが紹介される(注1)。

4.新生鎖は絡まって凝集体になりうるリスクがあるので、それを防ぐためにシャペロニンが空洞内に新生鎖を閉じ込めて成長させる。

5.最後に私が10秒ほど登場して、「シャペロンはバクテリアからヒトまでどんな細胞にもどっさりと含まれていて、いろんな細胞内キャラが自らの能力を発揮できるようにするためになくてはならないキャラクターだ」と言って締める。「シャペロンは細胞内にどっさり含まれている」というところで、ヒト細胞でシャペロン(Hsp70-GFP)が発現しているようすの蛍光顕微鏡動画が映る。

という流れである。

番組のエンドロールの協力者は該当部分で一人だけということで私の名前しか出なかったが、本来NHKの方にお願いしていたのは以下の方々である。この場を借りて御礼申し上げます。

伊藤隼人さん:現在私のラボの博士課程学生で疾患関連塩基リピートによる非AUG(RAN)翻訳を研究している。最近ライブイメージングも行っているので、番組ディレクターから要請のあったシャペロンが細胞内にどっさりあるようすをHsp70ーGFPを内在プロモーターで発現させて動画を作ってもらった。実際には、細胞に熱ストレスをかけてシャペロンが大量に発現するところなども見せたいということだったが見送りになった。

ヒトの培養細胞(U2OS細胞)でのHsp70-sfGFP発現のようす

川上勝さん:私のインタビュー画面で私が持っているシャペロニン模型は川上勝さん(現在神戸大)が考案した作成法で作られた特別な模型である(Kawakami-model)。川上さんは私がGroEL研究者ということでずっと貸し出してくれており、本ブログでもたびたび紹介している(→「シャペロニンの模型が手元に!」2013.7.27)。このような印象的なタンパク質模型に興味ある方はスタジオミダスさんのウェブサイトをご覧下さい。

Kawakami ModelによるGroELーGroES複合体模型

上村英里さん:この番組の当初の構想では、私があちこちで好んで使っている「シャペロンがあるとゆで卵にならない」実験を実際にやってみましょう、という話しが進んでいた。久々の実験だったので古い好熱菌のシャペロニンをフリーザーから発掘して私自身で予備実験するとともに、それだけでは足りなかったので、技術補佐員の上村英里さんにシャペロニンの精製などを行ってもらった。結局見送りになった・・・。


2025/06/14

YouTubeチャンネル始めました:「パズルでひもとくタンパク質」

突然ですが、YouTube始めました。

題して「パズルでひもとくタンパク質」(Unfolding protein science from toy box)

突然と言っても、本当は5年前に科研費学術変革A「マルチファセット・プロテインズ」が立ち上がったときのアウトリーチ活動で動画コンテンツを作ると「公約」していました。ずるずると後回しにしていましたが、YouTube番組を作ってくれる素晴らしい人が現れたのと、NHKの取材でインタビューを受けたりしたのがきっかけとなって、思い切って作ってみました。

今回の内容は導入部だけですが、大学1年生向けの講義や高校での模擬授業、サイエンスカフェなどでのネタを刻んでシリーズ化していきます。「これが私にはタンパク質に見えます!」というのが決めゼリフ?です。

どう転んでいくのかわかりませんが、新たな挑戦です。


NHKスペシャル「人体III」(6/15放映)でシャペロン紹介

お久しぶりです。4月下旬からNHKスペシャルで生命科学のシリーズ「人体III」を日曜夜9時に隔週で放映していますがご覧になっているでしょうか。タモリと山中伸弥さんが司会の生命科学番組です。

最終回、明日6月15日(日)21:00〜の一部で「シャペロン」を取り上げてくれます。

NHKサイトでの予告編

NHKの担当ディレクターさんが私のところに何度か取材に来てシャペロンのCGの監修をしたり、私が紹介したJudith Frydman(スタンフォード大)がシャペロン(やシャペロニン)を解説します。

ぜひご覧下さい。