NHKスペシャル「人体III」の最終回(6/15放映)で私のライフワークのシャペロニンを取り上げていただいた。
「人体III」シリーズ4回の全体を貫くテーマは「細胞」、特に細胞内ではたらくタンパク質(細胞内キャラクター)に焦点を当てている。最終回の序盤で、細胞内キャラを育てるキャラクターということでシャペロンが登場する。観ておられない方のために概要をお伝えしよう。
1.オルセー美術館に収蔵されているルノアールの「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」が映される。
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Pierre-Auguste Renoir, "Le Moulin de la Galette" from Wikimedia Commons |
2.この絵画を使ってJudith Frydman博士(スタンフォード大)がシャペロンの概念を解説する。Frydman博士は真核生物シャペロニンの圧倒的なリーダーである
3.細胞内で赤ちゃんタンパク質(新生鎖)がリボソームから産まれてくるようすが「人体」シリーズお得意のCGで解説される。ぶらぶらしたヒモ状態の新生鎖が働けるかたちに折りたたんでいくようすが紹介される(注1)。
4.新生鎖は絡まって凝集体になりうるリスクがあるので、それを防ぐためにシャペロニンが空洞内に新生鎖を閉じ込めて成長させる。
5.最後に私が10秒ほど登場して、「シャペロンはバクテリアからヒトまでどんな細胞にもどっさりと含まれていて、いろんな細胞内キャラが自らの能力を発揮できるようにするためになくてはならないキャラクターだ」と言って締める。「シャペロンは細胞内にどっさり含まれている」というところで、ヒト細胞でシャペロン(Hsp70-GFP)が発現しているようすの蛍光顕微鏡動画が映る。
という流れである。
番組のエンドロールの協力者は該当部分で一人だけということで私の名前しか出なかったが、本来NHKの方にお願いしていたのは以下の方々である。この場を借りて御礼申し上げます。
伊藤隼人さん:現在私のラボの博士課程学生で疾患関連塩基リピートによる非AUG(RAN)翻訳を研究している。最近ライブイメージングも行っているので、番組ディレクターから要請のあったシャペロンが細胞内にどっさりあるようすをHsp70ーGFPを内在プロモーターで発現させて動画を作ってもらった。実際には、細胞に熱ストレスをかけてシャペロンが大量に発現するところなども見せたいということだったが見送りになった。
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ヒトの培養細胞(U2OS細胞)でのHsp70-sfGFP発現のようす |
川上勝さん:私のインタビュー画面で私が持っているシャペロニン模型は川上勝さん(現在神戸大)が考案した作成法で作られた特別な模型である(Kawakami-model)。川上さんは私がGroEL研究者ということでずっと貸し出してくれており、本ブログでもたびたび紹介している(→「シャペロニンの模型が手元に!」2013.7.27)。このような印象的なタンパク質模型に興味ある方はスタジオミダスさんのウェブサイトをご覧下さい。
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Kawakami ModelによるGroELーGroES複合体模型 |
上村英里さん:この番組の当初の構想では、私があちこちで好んで使っている「シャペロンがあるとゆで卵にならない」実験を実際にやってみましょう、という話しが進んでいた。久々の実験だったので古い好熱菌のシャペロニンをフリーザーから発掘して私自身で予備実験するとともに、それだけでは足りなかったので、技術補佐員の上村英里さんにシャペロニンの精製などを行ってもらった。結局見送りになった・・・。
注1:ここで「ひもには磁石のようにくっつきやすい部分があり、自然と「働ける形」になろうとする」という説明があった。専門用語的にはCotranslational folding(リボソームでの翻訳に共役した折りたたみ)で、基本的にはタンパク質は自発的に折りたたむという原理、すなわちAnfinsenのドグマが表現されている。ただし、「磁石」の例えは不適切でないか、それより、プラスとマイナスが近づく(つまり静電相互作用)などの例えがよいのでは、と指摘していたが、わかりやすさが優先されたようだ。
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