2011/10/06

Foldit 再び

先日の投稿にて本ブログのページビューがある週に見たこともない数字になったと書いた。年間ページビューの半分くらいが一週間に集中したのだから驚いた。
理由が気になったので、どこから飛んできて、どのエントリーを訪問したかをチェックしたところ、2ちゃんねるからFolditの解説ページ(2010/01/032010/08/052010/10/11)を訪問するケースが圧倒的に多いことがすぐに判明した。


もう少し調べると、最近Nature Struct. Mol. Biol.(NSMB)誌に出たFolditに関する論文(NSMB,18, 1175-1177, 2011 フリーアクセス)が2ちゃんねるにて取り上げられ、その中でこのブログにリンクが貼られていたのである。

【分子生物】ゲーマーの恐るべき創意工夫能力…ゲーム愛好者らが酵素の構造を解析/米ワシントン大

ということで、Folditの続報がNSMB誌に出ていることは知っていたし、とある科学雑誌から取材もあったのだが、2ちゃんねるでまで取り上げられているとはまったく知らなかった。

そのNSMB誌の論文タイトルは

Crystal structure of a monomeric retroviral protease solved by protein folding game players

訳すと「タンパク質フォールディングゲームのプレイヤーによって解明された単量体レトロウイルスプロテアーゼの結晶構造」。ごく簡単に言えば、オンラインフォールディングゲームFolditで結晶構造を決める最終段階をパズルとして出題したところ、これまでコンピューターでうまく解けなかった構造が決まった、というようなものである。David Bakerグループの論文であるが、著者の途中には Foldit Contenders Group, Foldit Void Crushers Group とあり、この2者はFolditでプレイするゲーマー集団ということだ。

内容としては、X線結晶構造解析の際に用いられる分子置換法がうまく行かなかったケースにFolditで粗いモデルを出題したところ、X線回折データによく合う立体構造をゲーマーたちが3週間で決定した、というものだ。

インパクトとしては前のNature論文の方が高いと思う。が、今回は難問だったタンパク質の立体構造を最終的に決定するお手伝いを「リアルに」行ったということでNSMB誌に掲載となったのであろう。考察では、創薬などにも活かせるのではないかということで締めくくっている。

注意しないといけないのは、ゲーマーたちはまったくかたちの無い状態から折りたたんでいった訳ではないことだ。実際の出題はBakerグループが開発したRosettaというアルゴリズムを使っておおよその立体構造まで出してあり、Folditプレイヤーたちはそれを「精密化」していったというのが正しい。ただ、計算機が苦手とするところを人間の「直感」が越える部分があったのは確かなようだ。

最初の話しに戻れば、2ちゃんねるで盛り上がったのはゲーマーの面目躍如ということであろう。Folditは英語版しかなく、日本から参加しているプレイヤーはかなり少ないようだが、今後ぜひ日本からも貢献してほしいものである・・・。

と書いたところで、以前のFolditのNature論文のあとに「実験医学」誌に書いたコラムの最後を思いだした。

「・・・・今の世の中、チェスや将棋などで人類はコンピューターに負ける話しばかりである。タンパク質フォールディングで人類はコンピューターに一矢報いた、ということで少し愉快になった。が、まだまだ参加者は少ないので人類の英知の本領発揮はこれからではないか。もっとゲーマーが増えれば天才的フォールディングプレイヤーが出現し、構造予測ラボにこっそり雇用される、なんて出てこないだろうか。実験医学 28, 3117-3118 (2010)」

ということで、デイトレーダーならぬデイフォールダーみたいな職業ができるかもしれない。

と書いたところで、さらに連想が広がった。
Natureに以前載っていたアマチュアバイオ実験家の記事だ。

Garage biotech: Life hackers Nature 467, 650-652 (2010)

おもしろい記事だったので、いずれ解説することにしよう。

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