このブログを読んでおられる方々ならタンパク質のフォールディングがいかに難しいかよくご存じのことと思う。ちょっと思考実験すると、アミノ酸が連なったポリペプチドのヒモが取り得る立体構造の場合の数は膨大であることがわかる。たとえば、アミノ酸が2個並んだジペプチドが取り得る構造が3通りとしてもアミノ酸が101個並んだら3の100乗という天文学的な場合の数になるのだ。この膨大な中から1秒も経たずに一つの天然構造(自由エネルギー最小の状態)にフォールディングが起こるのは実にフシギだ、というのがフォールディング業界でよく引き合いに出されるLevinthalのパラドックスである。
この複雑さにより、アミノ酸配列がわかってもタンパク質の立体構造をコンピューターで正確に予測するのは今でも難しい。世界中の計算科学者がタンパク質の立体構造予測コンテストを行うくらいなのである(→CASP)。
さて、今年はじめのエントリーにて、オンラインでのタンパク質フォールディングゲーム「Foldit」を紹介したところである。Folditは、ワシントン大のBakerらが開発したRosettaというタンパク質の立体構造予測アルゴリズムをベースに一般の人たちがポリペプチドをいじって「フォールディング」をシミュレーションできるゲームである。この「人力」フォールディング後にはエネルギー計算が施され、エネルギーが安定な構造を作った人ほど高いランクになる。
とここまではイントロで、今回驚いたのは、このFolditが何とNatureの論文になった(→こちら)。れっきとしたオリジナルペーパーである。Nature誌での扱いはかなり大きく、通常の解説欄(News and Views)ではなくNews Features欄の「Citizen Science: People Power」と題された記事で著者(Baker博士)の写真まで入ったかたちで紹介されている。
とにかくユニークでこんな論文見たことない、というのが第一印象だ。
まず驚かされるのが著者欄。ラスト「オーサー」が「・・・and Foldit players」となっている。そう、この論文はネットでFolditをプレイしていた人たちをも巻き込んだ論文なのである。
なぜFoldit playersが「著者」に加わったかというと、トッププレーヤーたちが作り上げた立体構造は世界有数のコンピューター予測を超えてよい成績を収めることが多々あったというのだ。このトッププレーヤーたちはまさに「シャペロン」である。
いろいろな点で驚かされるこの論文。時間が取れ次第もう少し解説してみたい。ということで次回に続く。
(以下は、自分のシャペロンの講演の締めくくりでたまに用いる写真。くねくねのポリペプチドもどきを「人力」でフォールディングしてヘリックスにする。)
2010/08/05
「Foldit」がNature論文に!(その1)
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