2009/12/24

シャペロニン vs. F1-ATPase

タイトルはマジメ(?)だが、何のことはないケーキでの勝負である。

 恩師の吉田先生が昨年度末で東工大を退職ということで同窓会が催され、その会のメインイベントの一つとして出されたのがこれらのケーキ。同窓生有志(大阪大学・野地研の田端さん、上野さん、野地さんら)が事前にシフォンケーキからして手作りで作った大作だ(ぼくはアイディアは出して企画段階では関わったが、制作段階ではシャペロニンの方の生クリームを塗ったくらいです)。

 我らがシャペロニンGroELはGroESが一つ結合した弾丸型構造を模している(右上写真)。基質タンパク質と見立てるお菓子のヒモが少しはみ出ているのも意味深いのだが、それにはここでは触れない。


 一方、左に載せたF1-ATPaseはα3β3の6つのサブユニットの間に回転子γ(ガンマ)サブユニットと見立てるフランスパンが突っ立っている。

このF1-ATPaseにはとてつもない仕掛けがほどこされている。何とこの「γ」フランスパンが回転するのである。



 右の写真を見てもらおう。台座にモーターが仕込まれており、「γ」フランスパンと直結している。モーターには当然スイッチが付いているというわけだ。ご丁寧にスイッチは回転が切り替えられるようになっており、ATPの分解方向、合成方向が指一本で制御可能なハイテクだ。




 宴たけなわにて、このケーキたちの登場とあいなった。F1ケーキにはなんとジェット風船が装着されている。まさにF1-ATPaseの回転の可視化である。

 吉田先生によるスイッチオンでクライマックスに達し、集まった同窓生一同の度肝を抜いたのは言うまでもない。




 「回転」を実感してもらうという意味で、やはり動画を見せないことにはおさまらないであろう。(以下のリンクもしくは写真をクリック)


ということで勝敗はあっという間に決し、F1-ATPaseの圧勝である。

 いや、野地研の技術力にはおそれ入りました。おかげでぼくも含めて集まった皆がたいへん楽しめました。

(このネタ、いつか載せようと思いつつ半年以上経ってしまい鮮度が落ちてしまいました・・・)

以下 、おまけの制作風景です。GroELは円筒形のシフォンケーキなので空洞もきちんと空いている。フタのGroESはメロンパンである。




2009/12/23

フットボール型ケーキ

 かなり古い話題になってしまったが、今年のぼくの誕生日にラボでお祝いをしてもらった際、メンバーたちが二種類ケーキを作ってくれた。ケーキでお祝いしてくれるだけでもたいへんうれしいことだが、今回はさらにおまけがついた。なんと、研究テーマに関連した「かたち」にケーキを仕上げてくれたのである。

 一つはシャペロニンGroEL/ES複合体のフットボールを模したケーキ。真ん中の四角いところがGroELのダブルリングで、上下の三角がGroESである。ちなみにフットボール複合体は研究者によっては「Symmetric complex」ということもあるように上下で対称のかたちになっている。イメージを伝えてケーキ屋さんに加工してもらったということだ。




もう一つは一見ふつうのケーキのように見えるかもしれないが、中心に書かれているのは「出芽酵母」のつもりということだ。上が母細胞、下が娘細胞という出芽した状態の細胞で、星で現したプリオンタンパク質が母から娘へと流れ込むようすを示しているらしい。さらに言えば、星は量子ドット(Qdot)を意味している。この背景には、最近当研究室で行ったプリオンタンパク質にQdotを結合させて個別のプリオンタンパク質の動態を可視化する、という研究にインスパイアされた、ということだ。

このような楽しい企画を考えてくれたメンバーに感謝したい。

なお、この「シャペロニン」ケーキが、次に紹介する吉田研同窓会でのメインイベント「回転するF1ケーキ」につながったことを付記しておきたい。

2009/12/13

寄木細工の「プリオン」


箱根に行く機会があった。箱根の伝統工芸として寄木細工がよく知られている。とあるギフトショップにて発見したのが写真の寄木細工キーホルダー。何に見立てるかというと、プリオンである。

プリオンはタンパク質性の感染因子と定義されていて、概念を説明するときには下のような図を使っている。簡単に説明しておこう。

よく知られているクロイツフェルトヤコブ病、狂牛病などのプリオン病の研究から、タンパク質の立体構造の異常が増殖していく現象が見つかった。プリオンは、タンパク質(の異常構造)が自己増殖するという点でタンパク質科学の常識を破る概念であるが、今では出芽酵母などにも多数プリオン的な挙動をするタンパク質が発見されている。



この概念図の赤い矢印のような形で示したのがプリオンである。丸い緑の正常型が構造変換すると分子間で規則的に結合していき結果として線維状タンパク質となる。この線維(アミロイド線維)が伸びるときには方向性がある、という結果を以前示したこともあり(Inoue, Y., et al. J. Biol. Chem. 2001)、矢印でベクトルを示したわけである。

前置きが長くなったが、上で紹介した寄木細工のキーホルダーを見て、思わず「プリオンだ!」となったわけである。アミロイド研究者なら、これをアミロイドと見立てるかもしれない(実際、プリオンとアミロイドの境界は明確ではなく、最近の知見では「プリオン=増殖しやすいアミロイド」というようになってきている)。

みやげ物屋では寄木細工の仕掛け箱(箱に仕込まれている仕掛けを手順を踏んで解除しないと開かないようになった箱)の実演も楽しんだ。