2008/08/29

Good News for Football Fans

 小池さんと行ったGroELに関する論文がJBCに採択されたと同時に、JBC Papers of The Weekにも選ばれた。JBC Papers of the Weekは、その号のトップ1%の論文が選ばれるということでたいへん栄誉なものだ。レフェリーたちの評価がよほどよかったのだな、と思われる。

 内容を簡単に書くと、現在流布しているシャペロニンGroELの作用機構に異を唱えるものだ。ごく大ざっぱに言うと、GroELの反応サイクルのモデルを確立するのに用いられた過去の重要な実験に不備があった、ということになる。具体的には、Horwichらが使った超重要なGroEL変異体(D398A)では、ATP存在下でGroESが片側にしか結合しないという「弾丸型」の前提で実験をしているのだが、そうではなくGroELダブルリングの両側に結合して「フットボール」になっている、ということを小池論文では明確に示した。(さらなる詳細は「タンパク質の社会」のサイトに書いた解説記事を参照)

 この号のJBCには一緒に出した船津さんたちの論文もJBC Papers of the Weekに選ばれている(Sameshima et al.)。船津さんたちはFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を使って、野生型のGroELでもATP存在下の定常状態でフットボール複合体が弾丸型複合体と同程度できていることをきちんと示した。

 以前にも少し書いたが、シャペロニンの研究の流れで「フットボール」か「弾丸」かは古い論争である。熱い論争のあと、現在では「フットボール」はほぼ顧みられなくなっていたが、我々のと船津さんたちの論文により、古くて新しい論争になることを期待したい。
 なお、Papers of The Weekに選ばれると編集部の誰かが紹介文を書いてくれる。そのタイトルは「Good News for Football Fans」。なかなか良いタイトルを付けてくれた。レフェリーも隠れフットボールファンだったのだろう。

 また、こういった海外のジャーナルでは珍しく著者紹介も載る(数ヶ月前からのようだ)。JBCからの最初の連絡では、筆頭著者と責任著者の二人分原稿を準備してくれ、ということで小池さんのだけでなく自分のも書いて送ったが、いざふたを開けてみるとぼくのは載っていなかった。もう日の目を見ることがない文章なのでここに紹介します
(さらに言えば、表紙も打診されたので小池さんと一緒に作成して応募したが、不採択。そちらはいつかどこかで出せるかもしれないのでここには載せない)。

Hideki Taguchi

Current Position: Associate Professor of Department of Medical Genome Sciences at Graduate school of Frontier Sciences at the University of Tokyo.

Education: Ph.D. in Biochemical science (1993) from Tokyo Institute of Technology (Japan)

Non-scientific Interests: Travel, especially walking around (old) towns.

After one year of organic synthesis research, I started graduate studies in the Department of Biochemical Science at Tokyo Institute of Technology. Dr. Masasuke Yoshida was my supervisor of graduate studies, and we still collaborate on some of my current projects. Although I did not know anything about biochemistry, he suggested a new project for the graduate theme, the elucidation of the molecular mechanisms of heat shock proteins. Therefore, I purified the chaperonin GroEL/ES complex from a thermophilic bacterium and published my first paper (JBC, 266, 22411-22418, 1991). In the paper, we observed the shape of the GroEL/ES complex by electron microscopy and named the complexes "football" and "bullet", based on their shapes. Thus, the current paper dealing with the football and bullet not only goes back to my classic work, but also starts to unravel novel aspects of the GroEL chaperonin machine. Although almost two decades have passed after since I first met the double-ringed protein complex, I am still fascinated by the rings.

2008/08/25

狂牛病の実体?

 最近、このサイトの更新を楽しみにしています、ということを何人かに言われたので、温存(?)しておいたネタを蔵出ししよう。


 まず紹介するのは、春にCold Spring Harbor Laboratoryに行った際に買ったプリオンならぬ「狂牛病」である。右のプラスチックにあるようにMad CowとかBSEだとか何やら物騒だが、中味は小さなぬいぐるみ(というのかな。10センチに満たないくらいの大きさ)が入っている。

 これがプリオンとなったタンパク質、ということである。容器の裏側には「Facts」としてプリオンや狂牛病のことがそれなりにきちんと書いてあったりもする。

 ちなみに実サイズの1,000,000倍と書いてあるので、10cmとして10nm。プリオン線維としてもちょっと小さすぎるような気もするがご愛敬か。

 その研究所のショップにはプリオンだけでなくいろんな微生物のおみやげが置いてあった。大腸菌とか酵母とか・・・。この記事を書くにあたりプラ容器に書いてあったサイト(giantmicrobes.com)を見てみたら、かなりいろんな「微生物」を販売している。けっこうマニアックな品揃えでネット販売もしているようだが、日本では直接は売ってないみたい。

 少し話変わって、これを書く一週間ほど前に、「もやしもん」という漫画がちまたで人気があることをはじめて知った。テレビアニメにもなっているらしいのに全然知らなかった・・・。サイトによると、顕微鏡など使わなくても菌が「見える」農学部生が主人公らしく、さまざまな菌のキャラクターがいっぱいである。giantmicrobesと通じるものがあるかもしれない。

 

8量体シャペロニン?

 東大柏キャンパスのそばには本屋がない、と嘆いていたのだが、つくばエクスプレスの最寄り駅にできた複合施設には大型本屋ができて状況はよくなった。 その本屋のすぐそばに少し凝った文房具や玩具を売っている店があり、何気なくのぞいていて見つけたのがこのおもちゃである。




 右の写真のような形で展示していて、すぐに「シャペロニンだ!」と飛びつき、次の瞬間には輪がいくつ並んでいるか数えてしまった。左下のように折って平べったくするとわかりやすいが、8つの輪が並んでいる。自分で研究しているシャペロニンGroELは7量体のリングなのでちょっとちがうが、まぁいい。実際、真核細胞のシャペロニンは8つのサブユニットから成り立っている。





 ドイツ製というこのおもちゃ、いろんな形に折れ曲がる。用途はよくわからないが、手でもてあそぶ、という代物かな。中にフォールディングしたタンパク質ということで別のパズルを入れてみたりしたのが右下図。このパズルの紹介は次回のお楽しみです。