2008/10/25

岩波新書「タンパク質の一生」

 ぼくの研究テーマを大きく言えば「タンパク質の一生」を支える分子シャペロンを研究する、というものである。プリオンの研究も、「タンパク質の一生」の中の困った一面という捉え方に入ってくるものである。

 この「タンパク質の一生」という概念をわかりやすく解説するための研究者向けの書籍はそれなりに出ていて、ぼくも何編か書いたりしているが、研究に縁があまりないような一般の読者に向けてのものはこれまでなかった。そこに出たのが紹介するこの本である。永田和宏さんが書いた力作だ。

以下は、「タンパク質の社会」ニュースレターにぼくが書いた書評である(若干改変)。

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 朝日新聞の日曜の書評欄を毎週楽しみにしているが、先日紙面を開いて永田さんの写真が目の前に現れて驚いた。この岩波新書が「著者に会いたい」というコーナーで取り上げられていたのだ。

 かように本書の刊行は、研究にそれほどなじみのない一般の方々への「タンパク質の一生」の浸透に大きく役立つに違いない。生命科学、タンパク質に興味のある人たちだけにとどまらず、歌人としても知られる著者が執筆したということで手に取る人も多いようである。実際、朝日歌壇において、本書を引用した短歌が(著者以外の選者により)採択されていた。

 内容は、このニュースレターを読んでいる多くの方にはなじみの深いものであろう。章立てを見ると、「タンパク質の住む世界」、「誕生」、「成長」、「輸送」、「輪廻転生」、「タンパク質の品質管理」、と、本領域で必須の項目がもれなく並んでいる。ただ、最初の2つの章は、生命科学にふだん触れていない方のために、「一生」の一部という形式を取りながら、実際には、分子生物学、細胞生物学の基本についてコンパクトにまとめた内容にもなっている。

 「タンパク質の一生」分野の全体像を簡単に知りたい分野外の研究者にもうってつけの本であるが、当該分野のプロでも読む価値は十二分にある。研究者向けの本にはふつうは書かない著者の主観的な記述が随所に読めるのがうれしい。また、縦書きが新鮮だ。長らくGroELの研究に携わっているが、縦書きで書かれる「 G r o E L 」の作用機構を読むと新たな気持ちになった。
 評者自身のことで言うと、学部生の講義などで自分の研究についての参考文献を紹介したいと思っても、なかなか適切なものがなかったが(関連書籍はいくつもあるが、数千円もする本は気が引ける)、岩波新書ということで気軽に推薦できるのはありがたい。

 さらに言えば、「タンパク質の一生」の研究の拡がりを反映して、本書の内容は実に多岐にわたる。当然、用語も多数出てくるのだが、本書には用語集のようなものや索引はない。そのような際には、「キーワード:蛋白質の一生」を手元に置いていただければ完璧であろう(と、「気が引ける」方の編者の一人として宣伝・・・)。
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これを読んでいる学部生やこの分野に興味のある研究者の方などはぜひどうぞ。

ついでに、amazon.comでのこの本へのレビューや「この商品を買った人はこんな商品も買っています」もなかなかおもしろいです(こちら)。

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