2024/10/06

マルチファセット国際会議でのポスター賞賞品は?

 今年度が科研費学術変革領域 (A)「マルチファセット・プロテインズ」の最終年度ということで当初より予定していた国際会議を先月(2024年9月)開催した。会場の収容人数が限られていたこともあり、広く周知せずに基本はクローズドな会となったが、ポスターを見てもらうとわかるように国内外からたいへん豪華なゲストに参加いただいた。


会場は福岡の「ルイガンズ」という海の中道にあるリゾートホテルで、以下の集合写真を見てもらうとわかるようにリラックスした中で密度の濃い会議を催すことができてたいへん満足している。

会の詳細はいずれ領域ニュースレターにレポートが載り、ウェブで公開するのでそちらを見ていただきたい。で、このブログ的な見地で一つ紹介したいことがある。

この会議で学生ポスター賞を実施したが、その副賞の一つとして前回のブログで紹介したダイヤモンドの3Dパズルを送ったのだ。以下は授賞式で受賞者3人との記念撮影の一コマである。

さて、受賞者のみなさんが送ったパズルを完成させたのか気になるところである・・・。実際、このパズルだけだと私が嬉しがっているだけかもしれないので、もう一つメインの副賞があり、そちらは現実的にみなが喜ぶものだったと思う。

この写真の背景を見て、どこで撮ったんだと思われるかもしれない。この会議の最終日のパーティーはホテルの前にある水族館(マリンワールド)を夜に貸し切ったのである。夕刻より貸切となって、会議参加者はまず水族館をぶらぶらと歩きながら内部を一通り見て、最後にマリンワールドの目玉の一つの大水槽前に到着する。そこで懇親会を行い、ひとしきり飲み食いしたあとで、学生ポスター賞授賞式となったのだ。レベルの高いサイエンスを存分に楽しんだあとに水族館でも楽しめて、参加者全員の印象に残るイベントとなったのはまちがいない。

ということで、この授賞式のあとに、知り合いの方から、今日の内容は田口ブログネタにぴったりじゃないですか、ということで取り上げた(実は、前回のはその伏線であった)。

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というようなことを書くのは、やはり楽しいものである。この1,2ヵ月に何人かから「ブログ更新されてませんね」とおっしゃっていただけて、たまにチェックしてくれている人がいるということは幸せなことである。小ネタはけっこう溜まっているのであまり考えすぎずに更新していこう。

2024/09/21

「マルチファセットプロテインズ」的なギフトあれこれ

2020年度に始まった科研費学術変革(A)「マルチファセット・プロテインズ」もあっという間に最終年度となってしまった。

本領域の基本コンセプトは、従来見えていなかった、見ようとしなかった、見ることができなかった、「タンパク質の世界」の新たな面(ファセット)を開拓する、ということで、領域のシンボルは多くの「ファセット」を有して光り輝くダイヤモンドである。

ということで、領域発足後に卒業生が私にくれるギフトは、このロゴにちなんだモノが多い。2021年3月の卒業生たちのマルチファセット的なランプ(手作り!)は以前ブログに書いた(→2021年4月「マルチファセットプロテインズ的なランプのギフト」)。

その後ももらっているけど紹介していなかった。

2023年3月卒業生


これは「ストームグラス」と呼ばれているモノでいろいろな形の商品が販売されている。容器に密閉された樟脳(しょうのう)の結晶形が天気によって複雑に変化するので天気予報に使えるということだ(それほどの精度はないようだが)。

これをひっくり返すと、


ダイヤモンド的になる!

真上から見ると・・・


8角形である。これが7角形だったら、シャペロニンGroELの7量体コレクションの一つにもエントリーできたのだが・・・。まぁ、普通この手のモノを7角形にする必要はないので仕方ない。

2024年3月卒業生

今年3月は、ダイヤモンド型の3Dジグソーパズルをもらった。


パーツは41ピース

ゼロから始めて完成させようとしばらくもがいたが、できそうもないので、答えを見ながら完成させた(パズル好きだが、パズルを解くのが得意ということでは全然ない)。なお、3Dジグソーパズルは初めてだったが、なかなかうまくできていて、少しずつ形が整っていって、最後に見事に組み上がるのは快感である。

かなりキレイだ。プラスチックではあるが質感もなかなかしっかりしている。

透明なので、何かひと工夫してできないかということで、調べるとディスプレイ用のライトが市販されているようだ。それは買ってないが、手元にあるブラックライトを下に置いて光を当ててみた。

それなりにキレイに輝く。

オマケとして、このダイヤモンドパズルと、マルチファセット・プロテインズのうちわを並べてみた。このうちわは、昨年9月に定山渓で領域会議を開いた際に世話人の内藤哲さん(北大)が作成してくれた代物である。















2024/02/17

憧れの「Anfinsen」さんとのツーショット

 前回のブログで、米国土産で作った「セントラルドグマ」を披露したが、その後さらに少し「拡張」していたのだった。


リボソームやシャペロン(シャペロニンGroEL/ES複合体)の3Dプリンタ模型があったのでそれを置いたのだ。

さて、私の専門分野は、タンパク質がリボソームでポリペプチド鎖として産まれてきてから立体構造形成(フォールディング)するところである。このタンパク質フォールディングに関しては、「アミノ酸配列がタンパク質の立体構造を決定する」というタンパク質科学の前提となる基本原理がある。この基本原理は「タンパク質は自発的にフォールディングする」、「タンパク質は自由エネルギー最小の構造にフォールディングする」などさまざまな言い換えがあるが、本質は同じだ。まとめて、Anfinsenのドグマと呼ばれている。

このドグマの確立に貢献した実験は1950〜60年代に行われた今考えるとシンプルな実験である。尿素で完全に変性させた酵素タンパク質(RNase)を透析したら変性前と全く同じ酵素活性になったことが証明されたのだ。この実験を主導して行ったのがChristian AnfinsenだったのでAnfinsenのドグマと呼ばれるようになった。

前置きが長くなったが、NIHの本館のようなビルの展示コーナーで予期せず、「Anfinsen」さんに遭遇した。Anfinsenは長らくNIHで研究していて、1950年代ころからタンパク質は自発的にフォールディングするということを実験で証明したのだ(その功績で1972年にノーベル化学賞を受賞)。

思わず嬉しくなって「ツーショット」を撮ったのが以下の写真だ。


このAnfinsenコーナーでは、彼の功績が、実際に使っていたカラムやタンパク質模型などと共に展示されていた。





何度も出しているセントラルドグマにおけるAnfinsenドグマの位置付けを示すと以下のようになる。


さて、実は私が大学院で研究を始めた1989年春、恩師の吉田賢右先生が提示してくれたのが、

(Anfinsenの)ドグマは本当か。

である。そのときの配付資料をもっているので載せてみる。


つまり、タンパク質の可逆的変性ー再生(フォールディング)をHsp(熱ショックタンパク質)が助けている可能性が出てきたので、Hsp研究を始めよう、というものだった。
シャペロンという言葉が使われていないことからもわかるが、セントラルドグマに従ってタンパク質ができると、後は勝手に(自発的に)フォールディングするのだから、今でいうシャペロン的な存在は当時想定されていなかったのだ。(当時シャペロンという概念・用語はちょうど出たばかりでまだ浸透していなかった)

 その後、このテーマでのHsp60(バクテリアのGroEL)を好熱菌から精製するところから研究を始めて今に至る。30年以上に及ぶキャリアの研究テーマでシャペロン以外の研究も行っているが、結局はどれもAnfinsenのドグマに行き着く。

シャペロン:当初、あるタンパク質のフォールディングがHsp(≒シャペロン)に絶対的に依存するなら、Anfinsenのドグマは修正すべきではないかと考えられた。その後の研究で、シャペロンは凝集体形成を防いでフォールディングを助けるのが基本的な役割とわかってきた。つまり、シャペロンはフォールディングに積極的に介入するわけではない、ということだ。とは言え、シャペロン存在下で、フォールディング経路が大きく変化して、自発的フォールディングでは立体構造A、シャペロンがあるとBというようなケースがあるかもしれない。

プリオン:プリオンやアミロイドは元々別の天然構造(もしくは天然変性状態)にあるタンパク質の構造が転換して分子間βシートによる線維状構造(アミロイド)になるという点で、一つのアミノ酸配列から二つの立体構造を取りえる。Anfinsenドグマを「アミノ酸配列はタンパク質の立体構造を一義に決める」と定義すると、それに反する。その考え方がおもしろいと思って1990年代後半から酵母プリオン研究を始めた。

翻訳に共役したフォールディング:Anfinsenが行った実験を端緒とする通常のフォールディング研究では、完成したタンパク質を変性させてからリフォールディングさせる(Anfinsen型フォールディングとしよう)。細胞内でタンパク質(ポリペプチド)が合成(翻訳)される際には、リボソームでN末端からアミノ酸が一つずつ繫がれて合成されてくるので、翻訳途上からフォールディングが始まるのであれば、Anfinsen型フォールディングと同じとは限らないのではないか?という考え方がある。そこで、試験管内翻訳系(PUREシステム)を使ったりして、翻訳時のフォールディング研究をしている。
 既にわかっていることとして、アミノ酸配列にはタンパク質の立体構造の情報だけでなく、自らが翻訳される際の速度調節など翻訳動態の情報も保持している。究極的には同じアミノ酸配列でもコドンの使い方によって翻訳速度が変わって、結果的にフォールディングに影響が及ぶ、という同義置換依存フォールディング研究はこれからの課題の一つだ。

以上、長年憧れ?のAnfinsenさんに遭遇して感激したところから、ライフワークとなる研究の解説までと、思わず長くなってしまった。


2024/01/14

米国土産で作成した「生命のセントラルドグマ」

 昨年3月にアメリカ出張に行った際、NIHに立ち寄った。NIHはNational Institutes of Health(アメリカ国立衛生研究所)の略で、ワシントンDC中心から30分ほどのところにある米国最大の生命科学の研究機関だ。私のような生命科学に携わる人間なら、以前からよく聞く機関で、ポスドクも含めて日本人も多くいる。最近では、アメリカでの新型コロナウイルス対策のヘッドがNIH内のお偉いさんであるアンソニー・ファウチ博士だったので日本のニュースでも名前が流れていた。

NIH内部を案内してもらい、本館みたいなところにあるショップに立ち寄ったらいくつか興味深いモノがあった。一つはファウチ博士のバブルヘッド(頭がぶるんぶるんと動くコミカルな人形)。あちらでのファウチ博士の人気(?)がよくわかる(日本で言えば尾身茂さんのバブルヘッドが売り出されただろうか?)。

もう一つがRNAのぬいぐるみ(?)である。これはGIANT microbesシリーズで、今までもDNAとかプリオン(狂牛病)なんかをCold Spring Harbor(CSH)研究所のショップで購入したことはあるが、RNAは初めて見た。


RNAと言っても、要はメッセンジャーRNA(mRNA)である。一般の方には、RNAはDNAより知名度が劣っていたので以前は商品になっていなかったが、新型コロナウイルスのワクチンでmRNAが使われて、その名が浸透したので売り出したのだと思われる(もしくは前からあったとしても前面に出した)。

既にDNA「ぬいぐるみ」は購入済みだし、タンパク質のおもちゃも多数ある。

そこで、生命のセントラルドグマを作ってみた。


 キレイにできた。タンパク質は、確かMOMAショップで売っていたネックレスを切ったものだ(ということを講義とかオープンラボみたいなところで披露すると失笑が漏れたり、子供の中には記憶に残ることがあるようだ。ただ、環状のタンパク質がない、というのは実はけっこう深いことなのだ。それこそ、セントラルドグマの仕組みを考えると納得がいく部分もあるが)。
 それはさておき、このDNAとRNAを比較すると、性質の違いが見えてくる。そう、DNAは二重らせんだが、mRNAは一本鎖である。あと、この写真から塩基部分についての情報も一部得られるのがわかるだろうか。DNAでは青ー白、黄ー赤(黄赤は隠れているが)がペアになっているということは・・・。

DNAのATGCの4塩基の中でT(チミン)はmRNAではU(ウラシル)が使われるから、
青:A
緑:U
白:T
黄ー赤:GーCかC-Gのどちらか
とわかる。

・・・どうでもいい脱線であった。さらにバリエーションを加えてみよう。まずは、私の専門のタンパク質のフォールディングやプリオンを参加させてみた。フォールディングしたタンパク質もいくらでもある。さらに以前購入した狂牛病、つまり異常構造のプリオンタンパク質も登場させてみた。




本当は、リボソームがあると翻訳(mRNAからタンパク質合成の過程)も示せて面白いのだが、現状のGIANT microbesシリーズは分子レベルのモノが狂牛病と抗体しかないのが残念だ。(microbe(微生物)と言っているくらいだから病原菌とかが多い。狂牛病は「病原体」ということで販売することにしたのだろう)

最後に、「生命のセントラルドグマ」ということで、私が持っているコレクションで登場させたいモノ(人?)があった。
セントラルドグマの提唱者、フランシス・クリックのバブルヘッドである。

クリックのバブルヘッド人形なんてマニアックなのをよく買ったね、と思われるかもしれない。実は、コロナ前に行ったCSH研究所ショップで無料で配っていたのだ。大量に作ったが売れずに在庫処分となったのかもしれない・・・。ワトソンークリックと並び立てられるが、ずっと目立っているのがワトソンであることに異議を挟む生命科学者はいないだろう。ちなみに、CSH研究所はワトソンが長年務めている(今も!)ことでも知られている(少なくともコロナ禍前まではCSHLミーティング途中に開かれるピアノコンサートによく来ていた)。とは言え、ある程度分子生物学の歴史を学んだ人なら、クリックの残した功績がワトソンークリックのDNAの二重らせん構造解明に留まらないのはよく知るところだ。その先見性、考察の深さには感服するよりない。

以上、米国土産で作成したセントラルドグマであった。実は、ドグマはドグマでも私のライフワークに関係するアンフィンセンのドグマについても、昨年3月の米国出張では実りがあったのだった。次回辺りで報告したい。