2019/12/10

キューブパズルに着想を得たフォールディング論文(by 郷信広博士)

今回はごく最近出版された論文紹介をしたい。内容は、本ブログで何度も登場しているキューブパズルに着想を得た本格的な蛋白質フォールディングの論考で、著者は郷信広 京大名誉教授の単著である。

Snake cube puzzle and protein folding
Nobuhiro Go
Biophysics and Physicobiology, Vol. 16, pp. 256–263 (2019)
doi: 10.2142/biophysico.16.0_256 (無料でpdfダウンロード)


日本語版(2021年3月追記)
Snake Cube Puzzleとタンパク質フォールディング
郷 信広
生物物理 61, 005-011 (2021)
https://doi.org/10.2142/biophys.61.005(無料でpdfダウンロード)

日本の生物物理のパイオニアのお一人で蛋白質フォールディングのシミュレーションの世界的な先達である郷先生の論文はどんな内容なのか。論文を紹介する前にいくつか背景を書いておこう。(パズルのことと郷先生の功績をよく知っている方は飛ばして下へ)

スネークキューブパズル
【背景1:キューブパズル】
キューブパズルは27個のパーツを折りたたんでコンパクトな3×3×3の立方体に戻すパズルである。パズルをばらすとヘビみたいなのでスネークパズルとかコブラパズルとか呼ばれることもある。蛋白質に見立てると、ヘビの状態でくねくねといろんなカタチを取り得るところが蛋白質の変性状態に似ている。このヘビを折りたたんで3×3×3のキューブにした構造が蛋白質でいう天然構造である。

最後にキューブになるのはどれも同じだが、経路はいろんなバリエーションが売っている。私のコレクションは10種類ほどあるが(注1)、そのいくつかの「変性」状態と「天然」構造を写真にて紹介する。

#ブログでの紹介例
経路の違うフォールディングパズル(2010年12月)
新規フォールディング経路のキューブパズル(2018年9月)


 【背景2:蛋白質フォールディングの整合性原理とGo(郷)モデル】
Wikipedia(folding funnel)より
蛋白質の立体構造形成、すなわちフォールディング(折りたたみ)の基本は、アミノ酸配列さえ決まれば蛋白質の立体構造は一義に決まる、というものである(Anfinsenのドグマと呼ばれる)。別の言い方をすると、蛋白質フォールディング反応は自発的、熱力学的に言えば、ギブズの自由エネルギー(ΔG)が負ということである。これを概念的に図示する場合、よく使われるのが右に示すようなフォールディングのエネルギー地形で、フォールディングをファネル(漏斗)に例える。この「漏斗」の上方はさまざまな変性状態が集まっていてエントロピーが大きい状態で、下へ落ちるにしたがって少しずつΔGが小さくなっていく(図の上ほどエネルギー大)。最終的にΔGが最小になったところ(漏斗の一番下のとんがった部分)でフォールディングは完了して天然構造となる。
  このファネル理論は米国の研究者たちが1990年代に使い出したものだが、その源流に郷先生が1983年に提唱した「整合性原理(consistency principle)」があり、Go(郷)モデルと呼ばれることもある。整合性原理は「タンパク質は天然構造において2次構造と3次構造すべての相互作用が整合して全体を安定化している」という考え方である(この原理の解説を多数著している京大理学研究科の高田彰二さんの表現:注2)。要は、漏斗のどこでも下へ向かって落ちていって最終的に一番下の天然構造に向かっていくということとも言える。

【論文の内容紹介】
 前置きが長くなったが、今回紹介する郷先生の論文は日本生物物理学会が刊行している「Biophysics and Physicobiology」誌の郷先生80歳記念の特集に郷先生自らが寄稿したフォールディングに関する論考である。
 ざっくりと言えば、このパズルでの27個のパーツをどのような「配列」にしたときに、3×3×3の立方体にフォールディング可能か、また、そこから出発して、このパズルに「疎水性相互作用」を導入するなどして、蛋白質らしさの本質とは何かを考察している。

 「配列」と言っても20種類のアミノ酸が並ぶ配列ではない。その説明のために図解を付けてみる。


 先にも見せたキューブパズルは同じ配列ではない。黄色(A)、青色(その下の濃淡の茶色も同じ配列:B)、薄い茶色(C)の三種類は並び方が違うのがわかるだろうか。
 例として、黄色(A)で説明する。27個のパーツの末端2つを e (end)、内部の25個は折れ曲がる部分をb(bend)もしくは3つ直線に並ぶ真ん中をs(straight)と定義する。この場合、黄色パズル(A)の「配列」は

esbsbbbbsbbbbbbbbsbbbsbbbse 


となる(注3)。

こう考えると、eは置き場所が決まっていて、内部の25個で b s の2通りがあり得るので、配列の場合の数はトータルで2の25乗(3300万種類ほど)となる。
 この総数の中で3×3×3のキューブ型に折りたたむことが可能な「配列」を全て計算で求めたところ、22,897種であった。つまり、あり得る配列空間の中のたった約0.07%(=22,897/2の25乗)のみが折りたたみできる、ということである。
 この中には(3×3×3のキューブ型にはなるものの)複数の折りたたみ構造をもつ配列も多数あるが、7,268種の配列はその折りたたみ構造が特異的(ユニーク)であった。写真の3種類はいずれもユニークな配列だった。(私の感想としては、このキューブパズルで商品化されている「構造」はごくごくわずかであると言えよう)。

 実はこの辺りの論考は既に世界のパズルマニアが似たような計算をしているということだ(例えば Jaap's Puzzle Pages)。そこで、郷先生はパズルをより蛋白質らしくしていく。このスネークパズルは幾何学的に3×3×3を実現するという点でファンデルワールス(van der waals: VdW)力をベースにしているとも言えるが、それとは別に疎水相互作用(hydrophobic interaction)を導入したHPパズル、さらにHPパズルとファンデルワールスを組み合わせた複合(compound)パズルを考案して、これらのパズルの蛋白質らしさについて議論している。実際の蛋白質は20種類のアミノ酸が数百、数千並んで複雑な立体構造になるが、ここで示したように単純なモデルにすることで、蛋白質とは何かという本質を抽出した論文であると言えよう。途中、郷先生自らによる整合性原理の解説も含まれている。
 興味をもった方は論文pdfをダウンロード(無料)してぜひ読んでほしい。

 さて、ここからは余談である。この論文はつい最近、今年秋に公開されたが、実は2年ほど前に郷先生がこのような論考をしていることを知った。私は2002~2006年までJSTさきがけ研究者に採択いただいたが、その際の研究総括が郷先生であった(「生体分子の形と機能」領域)。その領域の同窓会が2年前に開催され(注4)、それぞれの近況を短い時間で話す機会があり、そこで郷先生自らが発表したのがこの論文の原型となる内容だった。フォールディング理論のパイオニアの郷先生自らがキューブパズルに着想を得て話しはじめたのだから聴き始めた私が驚いて鳥肌が立ったのは言うまでもない。しかも、キューブパズルは東寺のがらくた市で見つけて入手したということでなお嬉しくなった(注5)。
 その同窓会での私の発表でもイントロでキューブパズルを使っていたこともあり、郷先生に、私のブログでさまざまな経路のパズルを紹介しています、と伝えていた。その際にお教えした3種類の経路のパズル(上記のパズルA~C)が、今回の論文の中でユニークな配列の例として実際に使われている。つまり、私自身もこの論文に少し影響を与えたというのは実に光栄なことである。

以上、このように複雑な事象を単純化して本質を抽出し、さらにそこから複雑な事象に洞察を与える、という研究を自らも進めてみたい。

2019/11/02

「相分離生物学」(白木賢太郎著)の書評(現代化学誌)

 この数年の細胞生物学の最大のホットトピックスは「液-液相分離」である。

 細胞内でタンパク質はいつも均一に溶けて分散しているわけではなく、状況に応じて相分離して、周囲から独立に存在する液滴(ドロプレット)になりうる。
 と書いてもピンと来ないかもしれないが、日常生活で言えば、ドレッシングで酢(水)と油が分離している状態は相分離している状態である。
 サイエンス誌の2018年の「ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー」の一つのトピックスでもある(→和文解説)。液-液相分離は英語でLiquid-Liquid Phase Separationなので頭文字を取ってLLPSと呼ばれることも増えている。 
  
 この液滴は熱力学的に安定な状態へと相分離してできているだけなので界面に膜はない。このため、細胞内での液滴は「膜のないオルガネラ(Membrane-Less Organelle)」と呼ばれることもある。つまり、脂質膜を持たずに細胞内で隔離された部屋(コンパートメント)を作ることができるのである。液滴はタンパク質だけでできるとは限らず、RNAや他の生体成分を含むことが多い。

 これまで細胞内のタンパク質は溶けているか、アミロイドも含む凝集か、というのが主な存在状態だったと言えるが、そこに液-液相分離でできた液滴もある、ということがわかってきたのだ。この数年、この現象、あの現象、さまざまな生命現象に液-液相分離が適用されることがわかってきた。ということで、細胞内でのタンパク質を研究している人たちにとって相分離現象は今後無視できない状況になっている。

さて、国内で液-液相分離の伝道師として大活躍しているのが筑波大の白木賢太郎さんである。最近、「相分離生物学」を出版して好調な売れ行きだそうだ。
前置きが長くなったが、その書評を「現代化学」2019年11月号に書き、東京化学同人ウェブサイトに全文がpdfで公開されているので紹介したい。

「相分離生物学」(著:白木賢太郎)の紹介ページ
→ 書評「相分離メガネをかけてタンパク質を見直そう」(田口英樹)への直リンク(pdf)



ちなみに私たちのラボでも野島達也博士(中国・東南大学)との共同研究で一つ液-液相分離の研究を今年一つ出している(→ Nojima T et al Biomacromolecules 2019

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これを書きながら思いだした。
今年の「現代化学」にタンパク質の折りたたみやシャペロンなどに関する入門記事「拡がるタンパク質の世界」を執筆したのだった(→現代化学2019年7月号)。生命科学を専門としていない読者向けに丁寧に書いたつもりだ。こちらは記事の内容をウェブでは読めないので、読みたい方はバックナンバーを購入いただければ幸いである。


2019/10/24

「実験医学」誌の特集を企画:「再定義されるタンパク質の常識」

すっかりご無沙汰しているこのブログだが、最近の活動を宣伝したい。

実験医学誌の特集の企画を担当させてもらった。(実験医学2019年11月号)

題して「再定義されるタンパク質の常識


目次は以下の通りである。
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再定義されるタンパク質の常識〜古典的なセントラルドグマの刷新と未開拓のタンパク質の世界
企画/田口英樹
概論―従来のタンパク質の常識を超えて拡がる未開拓のタンパク質世界【田口英樹】
翻訳途上で機能する新生ポリペプチド鎖【千葉志信,田口英樹】
リボソームプロファイリングによる網羅的翻訳解析の最前線【木村悠介,岩崎信太郎】
質量分析による未開拓プロテオームの探索【松本雅記】
神経変性疾患にかかわるリピート関連非ATG依存性翻訳と低複雑性ドメイン【上山盛夫,永井義隆】
天然変性タンパク質:既知のこと,未知のこと【太田元規,福地佐斗志】
液-液相分離による酵素連続反応【浦 朋人,白木賢太郎】
合理デザインによる新規タンパク質の創出:現状とその可能性【小杉貴洋,古賀理恵,古賀信康】
ーーーー

私が読者だったら読みたいトピックスに関して研究を展開している方々に原稿を依頼して書いていただいた。タンパク質の新しい常識について幅広く知っていただける内容になったと自負している。

研究室で購読していれば既にお手元に届いている頃だが、まだの方は、私が冒頭に書いた概論はオンラインで無料で読める。

概論―従来のタンパク質の常識を超えて拡がる未開拓のタンパク質世界【田口英樹】

私が考えるタンパク質研究の歴史についての総説(特にタンパク質フォールディングを起点とした内容)にもなっているので、興味ある方はぜひご覧ください。

同誌には、10年近く年に二回、注目論文の解説コラムを執筆してきており、ときおり編集者の方々と意見交換をしてきた。その中で、最近私が考えているタンパク質の見方について披露したら面白がってくれて特集になった、という経緯である。

表紙には、マイコレクションのキューブパズルを使っていただいた。
主にパズルが崩れた状態(タンパク質の変性状態)や絡まった状態(タンパク質凝集体)の写真なので、全部完成した状態(フォールディングした構造)を付けた写真を撮ってみた。



おまけで、キューブパズルでの7量体構造。



2019/01/06

シャペロニン7量体的なギフト

前回の続きを書くといいつつ、そのままになっていた。

その間にもブログのネタが持ち込まれたので紹介したい。シャペロニンタンパク質に関するサイエンスの内容も少し含むはずである。

先月、お茶の水女子大附属高校でのウインターレクチャーというのを担当することになり、「タンパク質は "かたち"がいのち」と題した講義を高1、2生向けにした。そのあと、お茶大の佐藤敦子さんがホストで大学学部生や院生などにセミナーし、さらにラボでの忘年会にもお誘いいただいた。

楽しい時間を過ごし、そろそろ帰ろうかというときにプレゼントがあるという。佐藤さんいわく、「田口さんのためと思って探してきたモノです」と。

開けてみると、中にはニンニクが一個入っていた・・・。
おや、と思って、よく見ると、ピンときた。で、房を数える。

1、2,・・・・7!

つまり、房が7つのニンニクということで、私が長年研究している7量体リングからなるGroELもどきだったのだ(注1)。



うれしくなって感謝を述べ、その場でかじるわけにもいかないので、家に持ち帰り、料理に使わせてもらった。

さて、この7量体ニンニクを見ながら、ちょっといびつだよなぁって思ったところで、思いだした私たちの以前の研究がある。

それは、好熱菌のシャペロニン複合体の構造を決めたら、大腸菌のGroELと違って、7回対称が崩れてていびつだったのだ(Shimamura T. et al, Structure 12, 1471-1480, 2004 当時まだイギリスにいた岩田想さん、島村さんらとの共同研究)。なぜ対称でなくひずみが出たかというと、それはこのシャペロニン複合体には基質タンパク質が空洞内に詰まっているからだという結論である(注2)。

Shimamura T et al. Structure 2004より抜粋。左が好熱菌GroEL/ES複合体のGroEL部分。対称性が崩れていて、二種類の構造(I型とII型)の混合となっている。右側は大腸菌のGroELで7回対称のリングである。

最初に論文を投稿した際、レフェリーにこのいびつな構造が信じてもらえず、苦労したのだが、その後、電顕での構造でも同様の7回対称の崩れが確認された(Kanno R et al, Structure 17, 287-293, 2009 光岡薫さんらとの共同研究)。

Kanno R. et al, Structure 2009より抜粋

さらには、他のグループも最終的には非対称なGroELリングを認めて論文に載せている(例えば、Chen D-H et al Cell 2013)。

Sakikawa et al JBC 1999より
GroELは空洞内に基質タンパク質を閉じ込めた際、閉じ込めたタンパク質によってはけっこう窮屈だということは以前の研究から予想されていたが(例えば、私たちの Sakikawa C et al J Biol Chem 1999
など)、実際GroELのカゴ構造にまで影響を及ぼしているということを意味する。

ということで、ニンニクを眺めながらGroELに思いを巡らさせてくれた佐藤さんに改めて感謝したい。


ーーーーー
注1:通常のニンニクの房の数がいくつくらいなのかよく知らないが、6~10房くらいだろうか。

注2:ついでに言えば、その論文では、空洞内に閉じ込められた好熱菌シャペロニンの基質タンパク質20数種類の同定も質量分析で行った。


2018/09/16

新規フォールディング経路のキューブパズル

前回のブログエントリーにてフランスの学生から立体パズルをもらったことを書いたばかりだが、帰国したその学生から、お礼ということで二つ気の利いたモノをもらった。


下に写っているのは、ルノワールの「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」のマグネット。オルセー美術館のショップで買い求めてくれたらしい。
この中心の貴婦人が「シャペロン」であるというのがシャペロンの解説の定番?である。最近では昨年ブレークスルー賞(賞金300万ドル!)を受賞した京大の森和俊さんが受賞時の記者会見でこの絵を使ってシャペロンのコンセプトを説明していた(→記者会見のようすの写真)。


さて、本題はおなじみのキューブ型のパズルである。私にはタンパク質のフォールディングに見えて仕方が無いという代物で、このブログでも何回も登場してもらった。

キューブを崩すと、右のようになる。タンパク質になぞえれば完成した3×3×3の状態が「天然構造」、ほぐしたあとは「変性状態」である。

学部1年生向けの講義や高校生向けの出張講義などでもタンパク質の立体構造形成(フォールディング)を知ってもらうために大活躍してもらっている。

と書くと、このパズルはもういいよ、と思われるかもしれないが、ちょっと新しい点があった。

崩したあとに、完成させるのが難しいのである。

この手のパズルを入手したあと、研究室のみなが集まる部屋に置いておくのだが、このパズルは数日経っても学生たちが誰も解けない。

このパズルは完成型は3×3×3のキューブで同じように見えるが、実は経路がさまざまである。

この写真の左下が今回もらったパズルだが、それ以外に何種類ももっている。
右下は一番最初に入手したもので、今では目をつむっていても解ける。その右下のと、奥のカラフルな中の青色は同じ経路だが、他のは全部作りがちがう。

以前のブログエントリーに経路の写真を全部載せている(→経路のちがうフォールディングパズル)。

今回いただいたパズルの作りを見てみよう。

一番下が、今回もらったパズルだ。その上の以前からあるのと違うのがわかるであろう(下から二番目と青色は同じ作り)。

なぜ難しいかというと、新しいのは可動部が多いからだ。

下から二番目と青色のを例に取ると、3つパーツが並んでいる部分が9ヶ所あるが、新しいのは、3ヶ所しかない。つまり2つ連続部が多いので可動部が多いのである。可動部が多いほど取り得る「変性状態」の場合の数が多くなるので、パズルとしての難しさが高まるのである。

タンパク質のフォールディングと通じるものがある。

この話しには続きがある。ちょっと確認しないといけない内容もあるので、確認が取れたら続編をいずれ書いてみたい。

2018/08/05

フランス産の立体パズルを手土産で

いまラボに一種の共同研究でフランスの大学から修士学生が2ヵ月ほど来ている。

来日後、研究室にお菓子を持ってきてくれたあと、私にもお土産があるということで何かと思ったら、フランス産の立体パズルであった。 袋を開いた瞬間、顔がほころびたいへん喜んだのは言うまでもない。気の利いた手土産だ。


この学生Nさんは、昨年一度打ち合わせで来日し、私のオフィスに来ている。
そのときに、オフィスにところ狭しと並んでいるパズルやおもちゃが印象的だったのか、このブログを見ていたのかは聞いてない。が、私の趣味をきちんと理解してくれていたみたいで嬉しい限りである。


 左側のは、組み木パズル。つまようじみたいな細い棒を抜くと太めの棒がバラバラになって、それを対称性の高い立体に戻す。

似たようなパズルはもっていて、だいぶ前に一度紹介したかもしれないが、そのときのパズルはパーツが散逸して二度と戻らなくなっている。






もう一つのは一見おなじみのキューブパズルだが、拡げるとロボット的になるというパズル。

これも同様のを以前紹介したなと調べるともう5年ほど前に載せていた。「キューブ型パズルと思いきや・・・





崩すと、こんな感じになる。一本のヒモ状ではなく枝分かれ構造である。



実は、このキューブ型ロボットパズルは、
今年の5月にアメリカに行った際のMOMAでも新調して、ラボに置いていた。
 学生が、その「兄弟」と一緒に肩車した状態で飾ってあったのが、右の写真。


Nさん、ありがとうございました!

これを読んでいる皆さんも、こんなおもちゃやパズルがありますよ、という情報があったらぜひお寄せください。もちろんお土産も歓迎します。

2018/03/24

シャペロニン的?なアートカレンダー

 3月に恒例の追いコンにて卒業生一同よりプレゼントをもらった。

 MoMAストアのパーペチュアル(永久)カレンダーである。MoMAのグッズははこれまでにも多数このブログで紹介していることからわかるように、好みに合った立体的に美しいアート作品だ。

 とりあえず、カレンダーをテーブルに置いた状態。磁石がうまく使われていて月と日を手動でセットする。


MoMA Perpetual calendar
月と日の部分を拡大した写真。
 3月24日にセットしたところ

GroELーGroESフットボール模式図

 さて、これを選んだ学生いわく、このカレンダーはシャペロニンのフットボールに似ているという。正円を黒い棒が真ん中から分断しているのでダブルリングに見えるということだろう。

 あと、空間が抜けているところもシャペロニンっぽいかもしれない。つまり、シャペロニンの場合、空洞に基質タンパク質を格納することが機能の本質であり、このカレンダーでは月日を抜けたところに置いているということだ。


 とは言え、形状としてはカレンダーをそのまま見ても若干無理があるなぁと思いつつ、撮影しながら傾けて見ると楕円形になりフットボールっぽくなった。

「フットボール」二つ
奥に置いたのは3Dプリンターで作成したGroELとGroESのフットボール模型だ。

ところで、昨年3月はシャペロニンGroELもどきのサボテンということだった。そのサボテンも立派に成長してラボに置いてあるので一緒に撮影。

「シャペロニン」三つ
左にかけたのは、以前いただいたシャペロニンフットボールの模型ストラップだ。


ということで、ラボに3年もいると私に影響されて?、みんないろんなモノがタンパク質に見えてくるのかもしれない。

 いずれにしても、卒業する修士2年の皆さん、ありがとうございました。美しいコレクションがまた一つ増えました。


2018/03/02

ついにリボソーム模型が完成!

朝、研究室に行くと私の机に置き手紙と3Dプリンターでの模型が置かれてあった。


このような依頼があったからには、ブログの更新をサボっているわけにはいかない。

(ハートマークがあるが)送り主は卒研生のI君で、この模型はタンパク質の合成装置であるリボソームだ。リボソームは細胞内のタンパク質の合成を一手に引き受けるタンパク質とRNAからなる巨大な複合体である。数十種類のタンパク質と3種類のリボソーム用RNA(リボソーマルRNA)からなる。この造形物は10センチ四方くらいだが、細胞内のリボソームの大きさは〜20nmくらいだ。

 総分子量はバクテリアのリボソームで〜250万、真核生物のだと〜450万ということで細胞内で最も大きな成分の一つである(このブログでよく紹介しているシャペロニンGroELも比較的大きなタンパク質複合体だが、分子量は80万ほどである)。巨大なだけでなく、細胞内で最も豊富に存在する成分でもある。右に示したのはProteomapsというサイトからの図で出芽酵母の細胞内タンパク質の割合が面積比で示されている。何千というタンパク質がある中でリボソームがいかに豊富に存在するのか一目瞭然だ。

 模型に戻り、少し拡大した写真を載せてみよう。


この写真を見てもほとんどの人には何が何だかわからないだろう。
少し解説した図を載せてみる。

次の図は、私が代表を務める「新生鎖の生物学」のトップページから抜粋したイラストで、模型とだいたい同じ向きになっている。 
上側のおにぎりみたいな形の塊が大きい方の60S側となる。60Sと40Sの間にmRNAが挟まる。アミノ酸が結合したtRNAが入ってくるサイトは比較的大きな穴が空いているのがわかる(もう少し詳しく知りたい人はPDBが連載している「今月の分子(第10回):リボソーム」がいいかもしれない)。

この60Sの大サブユニットには合成されてきた新生ポリペプチド鎖(新生鎖)が通るトンネルが内部にある。この模型ではトンネル内部は埋もれていて見えないが向きを変えるとトンネルの出口に相当する穴が下の写真のようにはっきりわかる。(60S大サブユニットが上に乗っかってる向き)


さて、これまでこのブログのネタの多くはシャペロン(特に7量体のGroEL)やフォールディングを模したパズルだったが、最近研究室ではリボソーム関連の研究が盛んである。シャペロンはリボソームから出てきたばかりの新生鎖のフォールディングを助けるのが機能の基本なので自然な流れでリボソームでのタンパク質合成(翻訳)の研究に流れ着いた。
最近では、新生鎖が伸びる途中で一時停止する現象の普遍性(Chadani et al., PNAS 2016, 日本語解説)や、新生鎖によっては自らの翻訳を途中で終わらせるはたらきがあること(Chadani et al., Mol Cell 2017, 日本語解説)を見つけたところだ。

 というわけで、リボソームの模型は3Dプリンターが導入された直後から作りたく、担当の学生に造型をお願いしていたのだがこれまではできていなかった。理由としては、リボソームの立体構造がデータ量があまりに大きく、プリンター用のフォーマットに変換できない、ということだった(と思う)。今回、卒研生のI君は果敢にもリボソームの打ち出しに挑戦し、トラブルも多々あったが、このように成し遂げてくれた(しかも、卒研発表の前々日に・・・) 。嬉しいことである。

ところで、60Sと40Sが合わさったリボソームがなぜ80Sなのか不可解、というか、生命科学者は足し算もできないのか、と思う方もいるかもしれない。(ちなみに80Sは真核生物のリボソームであるがバクテリアでは50Sの大サブユニットと30Sの小サブユニットが合わさって70Sと、やはり計算が合わない)
この60Sや40Sの "S"は超遠心分析の際に用いられる沈降係数のS値(スベドベリの"S")である。遠心分離の際に速く沈降するほどS値が大きい。このS値は分子量だけでなく分子の形状(球状か棒状かなど)にも依存するので、60Sと40Sの複合体が80Sというようなことが起こるのである。

ということで、この先もさまざまなタイプのリボソームが3Dプリンターで打ち出されることだろう。楽しみである。

2017/10/15

フットボール型?の知恵の輪

 本ブログでは、私が見立てたタンパク質もどきのモノを紹介してきている。
 特に、パズルやおもちゃが多いが、今回は私が長年研究しているシャペロニンGroELもどきの知恵の輪である。
(シャペロニンとはタンパク質のフォールディングを助けるタンパク質の一種だ。)

一種のシリンダーとなっていて、外側の2つのリング内に3つのパーツがぴったりと埋め込まれている。これをバラすので知恵の輪というわけだ(中身をはずすので「はずる」?)。
 国産でもあり普通に入手できるパズルだが、デザインはフィンランドのパズル作家らしい。北欧らしくシンプルだが美しいフォルムである。


取り出すと、扁平な形で上下に少し出っ張りが見える。見本で置かれているのを見て、シャペロニンGroELとGroESからなる「フットボール」複合体に見えたわけだが、普通の人にはフットボールっぽく見えないかもしれない。

これをグイッと上下に引っ張てみよう。


と言っても、ダイキャスト製で硬いので画像処理で上下に延ばしてみた。
 右の写真のように、ダブルリング構造となる。リング内のパーツが上下に少し丸まって突出しているので、見事に(?)フットボール型になる。

ちょっとしたモノがシャペロニンに見えてしまうのだ。



下に示したのが、フットボールGroELーGroES複合体の模式図と結晶構造だ。

実際のシャペロニンは、まだカタチができていないタンパク質(変性タンパク質)をGroELとGroESから形成される「空洞」に閉じ込めて、カタチ作り(フォールディング)をアシストする(上図の緑色の左側が変性タンパク質。丸くなっているのはフォールディング終わってカタチができたあと。シャペロニンは空洞内でフォールディングが最後まで進行することがわかっている)。
シャペロニンでは空洞が大事というわけだが、このパズルは内部までぎっしりと詰まっている点ではシャペロニンらしくない。

さて、パズルを解いてみる。解答はパッケージに入ってないが、ガチャガチャやっていると少しずつバラけてくる。


バラしていく途中。

最後、ばらけた状態。
 




もう一度組み立てて、上から撮った写真。


「シャペロニン」として話しを進めているが、三回対称のタンパク質複合体が外側のリングで取り囲まれているとも見える。これって、膜タンパク質を可溶性として扱う際に最近よく聞くナノディスクっぽいかもしれない。ナノディスクでは、膜タンパク質周囲の脂質をリング部分のタンパク質がつなぎ止めるのである。


2017/07/15

新しいタイプのGFP模型

昨年度より東京工業大学では学部1年生全員(1~7類)が生命科学を必修として履修することとなった。その流れで、教科書で生命科学を教える以外でも全学生に生命科学研究の最先端、面白さを伝えよう、ということでGFP(緑色蛍光タンパク質)を主役として、蛍光が出るしくみの化学から細胞生物学まで全類の学生に教える講義も準備され、私も担当している。

その教材として、GFPの立体構造模型を昨年度初めに特注で作ってもらった(スタジオミダス制作)(注1)。


なかなかカッコイイでしょう。

このようなリボンモデルの3Dプリンター模型は自分自身は初めてで美しい。
GFPはβシートが樽状にぐるっと巻いているためにβバレル(樽)と呼ばれることがあるが、それがはっきりとわかる。

βシートのことを知っている人だとこの白い矢印(βストランド)部分だけではシート状にならず形を保てないのではと思うかもしれない。その通りで実際には白いストランド間を細い棒で一部補強してある(下の写真の赤矢印)(注2)。実際のタンパク質ではこの棒が水素結合として全体をシート状にして立体構造を安定化している。GFPはβシートがとてもきれいに並んで「缶」のようになっているためにとても安定で60℃くらいに熱しても変性しない(色が消えない)し、冷蔵庫で何年も光ったままだ。



同じGFPをラボにある廉価版の3Dプリンターで打ち出すと以下のようになる。
 

何かよくわからない「塊(かたまり)」である。
空間充填モデルで打ち出すとこうなるのだ(注3)。

元の美しいGFP模型に戻ろう。

リボンの中に見える緑の部分はGFPの蛍光団である。ここだけ空間充填モデルになっているが、ここも元はアミノ酸である。特定のアミノ酸配列(GFP野生型ではSer-Tyr-Glyの3アミノ酸)がGFPの立体構造の枠組みの中に配置されると化学反応(脱水反応と酸化反応)が自発的に起こって特別な蛍光団が形成される。タンパク質というのは本当に何でもやってしまう一例である。


スタジオミダスさんは凝っていて、この蛍光団に蛍光塗料を塗ってくれ、さらにはこの模型を置く台座にライトを付けてくれた。光らせたのが以下である。


さて、先ほどラボで打ち出した塊は何だかよくわからない、と書いたが、実際には塊の方が正しい状態と言えて、内部の緑に光る蛍光団はタンパク質の奥に埋もれている(水のない環境に蛍光団が置かれているのが光る理由の一つでもある)。


ーーーーーー
注1)
今回のGFP模型の写真はスタジオミダスさん撮影(GFPの塊の以外)。なお、このエントリーは下書きまでしていたが、すっかり放置していた・・・。

注2)
この1年間でそれなりにあちこちで展示して触っている間に、この補強の棒が折れてしまい、形が崩れやすくなってしまった(現在修理中)。

注3)
このプリンターで学生にGFPのリボンモデルを一度打ち出してもらったが、うまく造型できなかった。
ちなみに同じ空間充填モデルでもシャペロニンGroELーGroES複合体は以下のようになる。GroELは巨大タンパク質複合体で空洞があるからサマになるのだ。スケールは全然違っていて、GroEL(やGroES)の縮尺でGFPを打ち出すとGroESよりも小さくなるくらいだ。GroELの空洞内にGFPが2個分ハマることを実験的に証明したことがある(Sakikara et al., JBC 1999)。


Sakikawa C. et al.,  J. Biol. Chem. 1999より