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2014/03/09

新著紹介「学んでみると生命科学はおもしろい」

 突然だが、1月末に本を出版した。

学んでみると生命科学はおもしろい

 これまでにも専門家向けには共著や編著ということで出版してきた経験はあるが、今回は一般の方々に届けたい内容かつ単著である。ベレ出版の「学んでみると○○学はおもしろい」というシリーズ本の一つとして、編集者からお声がかかり、足かけ3年がかりでこつこつと執筆し、ようやく完成。
 自著なのに発行後2ヵ月もしてからこのブログで紹介しているくらいだが、出版社では宣伝もしてくれている。例えば、大学生協の全国版カタログ(2月号)のおすすめ書籍に載っているよ、と教えてもらったときにはびっくりした(が、東工大すずかけ台生協には置いてなかった・・・。大岡山の生協には置いてあったが)。また、とある大手書店では表紙が見えるような売り方で7,8冊陳列してあった(面出し、というらしい)。

以下、宣伝用に書いた文章。
生命科学は生活に密接に関係しています。「生命とは何か」から「人工的に生命は創れるのか」といった最先端の話題までを解説します。
遺伝子、ゲノム解析、病気や薬に関する研究など、生命科学は私たちの生活に密接に関係しています。これからますます発展していく生命科学の知識を持つことは、現代人にとって必須といえるでしょう。本書は、「生命とは何か」を考えることからはじめ、「細胞」や「タンパク質」、「代謝」、「DNA」、生活に大きな影響を与える「健康と病気」、「人工的に生命は創れるのか」といった最先端のテーマまで、丁寧に解説していきます。
 ということで、本ブログで紹介してきたタンパク質関連というより、もっと広く生命科学全体を貫く入門書となっている。目次は以下の通り。
第1章 「生きる」ってどういうことだろう?
第2章 細胞の中を覗いてみよう
第3章 生命を支えるタンパク質の世界
第4章 細胞はエネルギーをどう生み出すか?
第5章 生命の設計図DNA
第6章 健康と病気の生命科学
第7章 生命は「創れる」のか?
ちょっと読んでみたい方には、ネットで一部だけ「立ち読み」ができるのでどうぞ(Amazonの「なか見!検索」→こちら)。

 文章のトーンは通常の教科書的というより、このブログのような感じだ(ただし「ですます」調)。全体としては高校の生物の教科書レベルよりやさしめだと思うが、部分的にやたらと細かいかもしれない。例えば、タンパク質のフォールディングは妙に詳しい・・・。

 本ブログを読んでいる生命科学に関わる方々にはほとんどが常識として知っている内容だと思われるが(後半やコラムは最新のトピックスもあり)、理系でないご家族などに自分たち研究者のやっていることを理解してほしい、と思っているような場合には、ぜひご推薦いただければ幸いである。

発売後に何人かの方(主に文系)から感想などいただいた。

・コラムが面白かった。
・ 第6章に出てくる手塚治虫の「火の鳥」の話しとの関連がよい。
・研究者しか知らないちょっとした小ネタが入手できた。
・後半は難しく読み進められなかった・・・。

などなど。

どうです、読んでみたくなったでしょう?(笑)
絶賛発売中です!

2013/10/06

プリオン線維もどきの積み木


 夏前の国内出張でいくつかのブログネタのおもちゃを入手したと書いて最初のを登場させてから、あっという間に2ヵ月も経ってしまった。

今回紹介するのは、めずらしくプリオン(アミロイド)線維もどきのおもちゃである。

小っちゃな積み木。一番長いところで3cmくらいである。

どうプリオン線維に似ているかというと、
こんな風に並べてみる。


 これが、とある酵母プリオンの論文 (DePace AH et al, Cell 93, 1241, 1998)の中のプリオンの模式図にそっくり。見てもらえば一目瞭然である。


ほぼ同じ形である。

ここでこの積み木から連想する酵母プリオン研究の謎の一つを。

 狂牛病のプリオン蛋白質は今のところPrP一種類しか知られていないが、出芽酵母(パン酵母)では十種類以上のプリオン蛋白質が既に見つかっている。しかも、おもしろいことに、機能もアミノ酸配列もちがう酵母プリオンはお互いに関係し合っているのである。

「関係しあっている」というのは、たとえばA, Bというプリオン蛋白質があったとき、Aがプリオン状態になっているとBもプリオン状態になりやすい、その逆もある、というような相関関係だ。

 そのメカニズムとして、異種間のプリオン線維がつながるというモデルがある。それが、上の写真で言えば、色違いのファイバーである。

実際には、酵母プリオンがプリオン状態になるには、シャペロン(Hsp104など)も必須なので事はそれほど単純ではないようだが、プリオンの増殖機構を考えるときに大切な知見であることにはまちがいない。





2013/04/06

細胞内プリオン線維と手ぬぐい紋様

久しぶりの更新。すっかり無精になっていたが、新年度になったことでもあり、また再開しよう。匿名の方を含む何人かの方から最近更新がなくて残念だ、という声もあった。

今回は最終的には、ある手ぬぐいを紹介するが、その前に比較的最近の研究成果を紹介する。

図1 試験管内でのプリオン線維(白い棒の長さ:50nm)
私たちの研究トピックスの一つはプリオンである。プリオンと言っても狂牛病のプリオンではなく酵母のプリオンを研究していて、このブログでもいくつか過去に紹介している(マリモとプリオン寄木細工など)。フォールディングを模したパズルに比べてちなみモノが少ない印象で登場するチャンスが意外と少ない。

 プリオンはアミロイド線維(蛋白質が分子間で強固なβシートを作って形成される凝集体の一種)である。酵母プリオンの一つSup35蛋白質を精製して線維を形成させると図1に示すようにきれいな線維(ファイバー)ができる。直径はおよそ10-20nm程度だKishimoto A. et al BBRC 2004

 この図1は試験管内で作った線維である。では、プリオン化した酵母の細胞内でSup35はどのような構造をしているのだろうか。
 このブログを始めた2006年頃のエントリー「マリモとプリオン」の最後には次のように書いた。

(注)細胞内でプリオンの存在状態というのは案外わかっておらず、試験管内で作るとできるきれいな線維と細胞内プリオンの実体の関係はまだよくわかっていない。(2006/09/26「マリモとプリオン」)

 その後いくつかの共同研究が実り、酵母細胞内でのプリオン線維を電子顕微鏡で観察することができた。典型的な電顕写真は図2右だKawai-Noma, S. et al. J. Cell Biol. 2010。球状の集合体の中にきれいに並んだ線維が寄せ集まっているようすが明確であった。


図2.酵母細胞内でのプリオン線維の集合体(左:細胞全体、右:左の赤枠を拡大)



これらの線維のイメージが頭にあるのを受けて見つけたのが次の手ぬぐいの紋様である。成田空港で海外への訪問先のお土産を探しているときに見つけたが自分用とした。





 研究にちなむと、線維同士がどのような相互作用で束になっているのかはまだわからない。
 さらに言えば、このように線維の束が並んで球状の凝集になっているのは特殊な状態のようだ。実際には下図のように、ちぎれた短い線維が細胞内をうようよしていて、それが増殖しながら娘細胞に伝わると考えている(Taguchi and Kawai-Noma FEBS J. 2010)。その短い線維を可視化したり、動態を調べるのが現在の目標の一つだ。

酵母細胞内でのプリオン線維のようすの模式図

2009/12/23

フットボール型ケーキ

 かなり古い話題になってしまったが、今年のぼくの誕生日にラボでお祝いをしてもらった際、メンバーたちが二種類ケーキを作ってくれた。ケーキでお祝いしてくれるだけでもたいへんうれしいことだが、今回はさらにおまけがついた。なんと、研究テーマに関連した「かたち」にケーキを仕上げてくれたのである。

 一つはシャペロニンGroEL/ES複合体のフットボールを模したケーキ。真ん中の四角いところがGroELのダブルリングで、上下の三角がGroESである。ちなみにフットボール複合体は研究者によっては「Symmetric complex」ということもあるように上下で対称のかたちになっている。イメージを伝えてケーキ屋さんに加工してもらったということだ。




もう一つは一見ふつうのケーキのように見えるかもしれないが、中心に書かれているのは「出芽酵母」のつもりということだ。上が母細胞、下が娘細胞という出芽した状態の細胞で、星で現したプリオンタンパク質が母から娘へと流れ込むようすを示しているらしい。さらに言えば、星は量子ドット(Qdot)を意味している。この背景には、最近当研究室で行ったプリオンタンパク質にQdotを結合させて個別のプリオンタンパク質の動態を可視化する、という研究にインスパイアされた、ということだ。

このような楽しい企画を考えてくれたメンバーに感謝したい。

なお、この「シャペロニン」ケーキが、次に紹介する吉田研同窓会でのメインイベント「回転するF1ケーキ」につながったことを付記しておきたい。

2009/12/13

寄木細工の「プリオン」


箱根に行く機会があった。箱根の伝統工芸として寄木細工がよく知られている。とあるギフトショップにて発見したのが写真の寄木細工キーホルダー。何に見立てるかというと、プリオンである。

プリオンはタンパク質性の感染因子と定義されていて、概念を説明するときには下のような図を使っている。簡単に説明しておこう。

よく知られているクロイツフェルトヤコブ病、狂牛病などのプリオン病の研究から、タンパク質の立体構造の異常が増殖していく現象が見つかった。プリオンは、タンパク質(の異常構造)が自己増殖するという点でタンパク質科学の常識を破る概念であるが、今では出芽酵母などにも多数プリオン的な挙動をするタンパク質が発見されている。



この概念図の赤い矢印のような形で示したのがプリオンである。丸い緑の正常型が構造変換すると分子間で規則的に結合していき結果として線維状タンパク質となる。この線維(アミロイド線維)が伸びるときには方向性がある、という結果を以前示したこともあり(Inoue, Y., et al. J. Biol. Chem. 2001)、矢印でベクトルを示したわけである。

前置きが長くなったが、上で紹介した寄木細工のキーホルダーを見て、思わず「プリオンだ!」となったわけである。アミロイド研究者なら、これをアミロイドと見立てるかもしれない(実際、プリオンとアミロイドの境界は明確ではなく、最近の知見では「プリオン=増殖しやすいアミロイド」というようになってきている)。

みやげ物屋では寄木細工の仕掛け箱(箱に仕込まれている仕掛けを手順を踏んで解除しないと開かないようになった箱)の実演も楽しんだ。


2008/11/29

Switch Pitch :瞬時の構造転換

 若きシャペロニン研究者より構造変換をする興味深いおもちゃを教えてもらったので紹介したい。

スイッチピッチというもので、放り上げたりしたあとに色がすべて入れ替わる。右の写真では緑が前面になっていて裏にオレンジが見えているが、放り上げて落ちてくる間にオレンジが表に出てくる、という不思議な仕掛けのおもちゃで、一瞬手品のようでもある。


 非常に動的な変換だから写真ではなかなかわかりにくいのでユーチューブ(たとえばココ)や開発元(hoberman.com)での動画やアニメを見るとおもしろさが伝わると思う。構造転換のメカニズム(要はからくり)は、遷移状態(途中の状態)や分解産物を紹介したサイトや仕組みを解説してくれているサイトにくわしい。シンプルな作りながらとてつもなく巧妙なものである。

 ふつうの水溶性の球状タンパク質では、ごく大ざっぱに言ってしまえば親水的なアミノ酸が表面に出やすく、内部は疎水的(水に溶けにくい)アミノ酸が多くなっていて、このおもちゃが模式的にはぴったりである。
 ただ、この親水ー疎水の関係が一瞬で逆転してしまうという現象はタンパク質の世界ではさすがに見あたらないように思う。プリオンでの構造転換は少し似ているようにも最初は思ったが、このおもちゃは「自発的?」に構造転換するという点で、構造転換を促す相手(異常型構造)を必要とするプリオンとはちがうのだ。

 このおもちゃのように「自発的」に瞬時に構造転換するタンパク質があるとどうなるだろう。表面が親水から疎水に変わるのだから水溶液中では不安定ですぐに凝集を作っておしまい、ということになるだろう。

2008/08/25

狂牛病の実体?

 最近、このサイトの更新を楽しみにしています、ということを何人かに言われたので、温存(?)しておいたネタを蔵出ししよう。


 まず紹介するのは、春にCold Spring Harbor Laboratoryに行った際に買ったプリオンならぬ「狂牛病」である。右のプラスチックにあるようにMad CowとかBSEだとか何やら物騒だが、中味は小さなぬいぐるみ(というのかな。10センチに満たないくらいの大きさ)が入っている。

 これがプリオンとなったタンパク質、ということである。容器の裏側には「Facts」としてプリオンや狂牛病のことがそれなりにきちんと書いてあったりもする。

 ちなみに実サイズの1,000,000倍と書いてあるので、10cmとして10nm。プリオン線維としてもちょっと小さすぎるような気もするがご愛敬か。

 その研究所のショップにはプリオンだけでなくいろんな微生物のおみやげが置いてあった。大腸菌とか酵母とか・・・。この記事を書くにあたりプラ容器に書いてあったサイト(giantmicrobes.com)を見てみたら、かなりいろんな「微生物」を販売している。けっこうマニアックな品揃えでネット販売もしているようだが、日本では直接は売ってないみたい。

 少し話変わって、これを書く一週間ほど前に、「もやしもん」という漫画がちまたで人気があることをはじめて知った。テレビアニメにもなっているらしいのに全然知らなかった・・・。サイトによると、顕微鏡など使わなくても菌が「見える」農学部生が主人公らしく、さまざまな菌のキャラクターがいっぱいである。giantmicrobesと通じるものがあるかもしれない。

 

2006/09/26

マリモとプリオン

 次に紹介するのはパズルではなく、マリモである。これが研究とどう関係するのか? 一見わからないだろうが、ぼくにはこれがプリオンの凝集体に見える! 

 どういうことかまだわからないだろう。プリオンやアミロイドを細胞内で研究するときにはプリオン蛋白質にGFPを融合させて、細胞で発現させる、ということがよく行われる。そのプリオン蛋白質がプリオン化して凝集になると、細胞内で緑に光る輝点(粒)が生じる(注)。それが視覚的にもわかりやすいので、プリオンやアミロイドになった証拠として使われるのだ(それに対して凝集になっていない場合には細胞質全体が緑になる)。

 そこでぼくたちの研究である。
 酵母のプリオンSup35蛋白質でもSup35-GFPの「輝点」がプリオン細胞の目印として用いられる。では、この輝点を酵母が増殖していくときにずっと観察していけばどうなるであろうか。この輝点がプリオンそのものならば「増殖」するはずなので、輝点は2つや3つに分裂して増殖していくのでは?と考えた。

 答えは、否。

 この輝点は分裂して増殖するどころか、観察していくうちに見る見る消失していくことがわかった。
と言っても、ほんとうに「消失」していたわけではなく、大きな輝点がほぐれてオリゴマーとなる(通常の顕微鏡ではオリゴマーは細胞質に拡散して見えるだけである)。詳細はKawai-Noma et al., Genes to Cells, 2006を参照してください。
 
 ここでマリモに戻るが、マリモは酵母プリオンで見えた「輝点」に相当する、と考える。マリモも元はと言えば、小さな藻が球状に集まったものだ。なので、その小さな藻をプリオンのオリゴマーと考えたわけである。

 ちなみにこのマリモは札幌出張の帰りに買ってきたものだ。天然モノではなく人工マリモです。頭の中がプリオンのオリゴマーと巨大な凝集体でいっぱいだったので、見た瞬間、これだ!となった。
 さらに言えば、ずっと観察していてもほぐれてはいきません。マリモとはそういうものだろうけども。

(注)細胞内でプリオンの存在状態というのは案外わかっておらず、試験管内で作るとできるきれいな線維と細胞内プリオンの実体の関係はまだよくわかっていない。