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2024/02/17

憧れの「Anfinsen」さんとのツーショット

 前回のブログで、米国土産で作った「セントラルドグマ」を披露したが、その後さらに少し「拡張」していたのだった。


リボソームやシャペロン(シャペロニンGroEL/ES複合体)の3Dプリンタ模型があったのでそれを置いたのだ。

さて、私の専門分野は、タンパク質がリボソームでポリペプチド鎖として産まれてきてから立体構造形成(フォールディング)するところである。このタンパク質フォールディングに関しては、「アミノ酸配列がタンパク質の立体構造を決定する」というタンパク質科学の前提となる基本原理がある。この基本原理は「タンパク質は自発的にフォールディングする」、「タンパク質は自由エネルギー最小の構造にフォールディングする」などさまざまな言い換えがあるが、本質は同じだ。まとめて、Anfinsenのドグマと呼ばれている。

このドグマの確立に貢献した実験は1950〜60年代に行われた今考えるとシンプルな実験である。尿素で完全に変性させた酵素タンパク質(RNase)を透析したら変性前と全く同じ酵素活性になったことが証明されたのだ。この実験を主導して行ったのがChristian AnfinsenだったのでAnfinsenのドグマと呼ばれるようになった。

前置きが長くなったが、NIHの本館のようなビルの展示コーナーで予期せず、「Anfinsen」さんに遭遇した。Anfinsenは長らくNIHで研究していて、1950年代ころからタンパク質は自発的にフォールディングするということを実験で証明したのだ(その功績で1972年にノーベル化学賞を受賞)。

思わず嬉しくなって「ツーショット」を撮ったのが以下の写真だ。


このAnfinsenコーナーでは、彼の功績が、実際に使っていたカラムやタンパク質模型などと共に展示されていた。





何度も出しているセントラルドグマにおけるAnfinsenドグマの位置付けを示すと以下のようになる。


さて、実は私が大学院で研究を始めた1989年春、恩師の吉田賢右先生が提示してくれたのが、

(Anfinsenの)ドグマは本当か。

である。そのときの配付資料をもっているので載せてみる。


つまり、タンパク質の可逆的変性ー再生(フォールディング)をHsp(熱ショックタンパク質)が助けている可能性が出てきたので、Hsp研究を始めよう、というものだった。
シャペロンという言葉が使われていないことからもわかるが、セントラルドグマに従ってタンパク質ができると、後は勝手に(自発的に)フォールディングするのだから、今でいうシャペロン的な存在は当時想定されていなかったのだ。(当時シャペロンという概念・用語はちょうど出たばかりでまだ浸透していなかった)

 その後、このテーマでのHsp60(バクテリアのGroEL)を好熱菌から精製するところから研究を始めて今に至る。30年以上に及ぶキャリアの研究テーマでシャペロン以外の研究も行っているが、結局はどれもAnfinsenのドグマに行き着く。

シャペロン:当初、あるタンパク質のフォールディングがHsp(≒シャペロン)に絶対的に依存するなら、Anfinsenのドグマは修正すべきではないかと考えられた。その後の研究で、シャペロンは凝集体形成を防いでフォールディングを助けるのが基本的な役割とわかってきた。つまり、シャペロンはフォールディングに積極的に介入するわけではない、ということだ。とは言え、シャペロン存在下で、フォールディング経路が大きく変化して、自発的フォールディングでは立体構造A、シャペロンがあるとBというようなケースがあるかもしれない。

プリオン:プリオンやアミロイドは元々別の天然構造(もしくは天然変性状態)にあるタンパク質の構造が転換して分子間βシートによる線維状構造(アミロイド)になるという点で、一つのアミノ酸配列から二つの立体構造を取りえる。Anfinsenドグマを「アミノ酸配列はタンパク質の立体構造を一義に決める」と定義すると、それに反する。その考え方がおもしろいと思って1990年代後半から酵母プリオン研究を始めた。

翻訳に共役したフォールディング:Anfinsenが行った実験を端緒とする通常のフォールディング研究では、完成したタンパク質を変性させてからリフォールディングさせる(Anfinsen型フォールディングとしよう)。細胞内でタンパク質(ポリペプチド)が合成(翻訳)される際には、リボソームでN末端からアミノ酸が一つずつ繫がれて合成されてくるので、翻訳途上からフォールディングが始まるのであれば、Anfinsen型フォールディングと同じとは限らないのではないか?という考え方がある。そこで、試験管内翻訳系(PUREシステム)を使ったりして、翻訳時のフォールディング研究をしている。
 既にわかっていることとして、アミノ酸配列にはタンパク質の立体構造の情報だけでなく、自らが翻訳される際の速度調節など翻訳動態の情報も保持している。究極的には同じアミノ酸配列でもコドンの使い方によって翻訳速度が変わって、結果的にフォールディングに影響が及ぶ、という同義置換依存フォールディング研究はこれからの課題の一つだ。

以上、長年憧れ?のAnfinsenさんに遭遇して感激したところから、ライフワークとなる研究の解説までと、思わず長くなってしまった。


2021/05/16

中国からのシャペロニン7量体もどき土産

  少しずつブログネタがあったのだが、下書きのまま公開せずそのままにしていた。

特に、お土産や記念品としてもらっていたものがたくさんあって申し訳なく思っていた。最近、ウェブサイトをリニューアルしたりして、宣伝活動モードになっているので、少しずつ紹介していきたい。

まずは、現在私のラボで今春から博士研究員になった野島達也さんからのお土産である。と言っても、野島さんが中国で職を得ていた1年半ほど前(コロナ禍になる前)、一時帰国した際にもらったものだ。

本ブログでの長年の鉄板ネタの一つ、シャペロニンGroELの7量体もどきということで、7角形の品々である。


3ついただいた中で写真の左に置いたメタルな7量体は、ハンドスピナーの一種でくるくる回る。回ってもきちっと7つが見えますね。





残り二つ、赤と黒の物体はネジらしい。何で7角形になっているのかは不明だ。野島氏が言うにはネットで7角形の何かを探して見つけたということだ。

2つ重ねてダブルリングにしてみたのがこちら。



このダブルリングの上で7量体スピナーを回してみたのが下の写真。GroELのパートナーであるGroESも7量体なのでスピナーをGroESに見立てるとGroEL7-GroEL7-GroES7になって、非対称の弾丸型複合体となる(ちょっとGroESが大きく頭でっかちだが)。赤と黒を微妙にずらして重ねているのは、実際のGroELダブルリングでもそうなっているからである。


さて、タンパク質の回転と聞いてニヤッとする人がいるかもしれない。タンパク質の中にはATP合成酵素(F1-ATPase)のように回転するものもあるが、GroESがGroELと結合しつつ回転するということは知られていない(少なくとも今までの知見では)。

こうやって書いてみると、モノとしての質感もステキだし、動きもあってブログネタとして好適であった。早い投稿を心がけないといけない・・・。

いずれにせよ、野島さん、おもしろいモノをありがとうございました。


2019/01/06

シャペロニン7量体的なギフト

前回の続きを書くといいつつ、そのままになっていた。

その間にもブログのネタが持ち込まれたので紹介したい。シャペロニンタンパク質に関するサイエンスの内容も少し含むはずである。

先月、お茶の水女子大附属高校でのウインターレクチャーというのを担当することになり、「タンパク質は "かたち"がいのち」と題した講義を高1、2生向けにした。そのあと、お茶大の佐藤敦子さんがホストで大学学部生や院生などにセミナーし、さらにラボでの忘年会にもお誘いいただいた。

楽しい時間を過ごし、そろそろ帰ろうかというときにプレゼントがあるという。佐藤さんいわく、「田口さんのためと思って探してきたモノです」と。

開けてみると、中にはニンニクが一個入っていた・・・。
おや、と思って、よく見ると、ピンときた。で、房を数える。

1、2,・・・・7!

つまり、房が7つのニンニクということで、私が長年研究している7量体リングからなるGroELもどきだったのだ(注1)。



うれしくなって感謝を述べ、その場でかじるわけにもいかないので、家に持ち帰り、料理に使わせてもらった。

さて、この7量体ニンニクを見ながら、ちょっといびつだよなぁって思ったところで、思いだした私たちの以前の研究がある。

それは、好熱菌のシャペロニン複合体の構造を決めたら、大腸菌のGroELと違って、7回対称が崩れてていびつだったのだ(Shimamura T. et al, Structure 12, 1471-1480, 2004 当時まだイギリスにいた岩田想さん、島村さんらとの共同研究)。なぜ対称でなくひずみが出たかというと、それはこのシャペロニン複合体には基質タンパク質が空洞内に詰まっているからだという結論である(注2)。

Shimamura T et al. Structure 2004より抜粋。左が好熱菌GroEL/ES複合体のGroEL部分。対称性が崩れていて、二種類の構造(I型とII型)の混合となっている。右側は大腸菌のGroELで7回対称のリングである。

最初に論文を投稿した際、レフェリーにこのいびつな構造が信じてもらえず、苦労したのだが、その後、電顕での構造でも同様の7回対称の崩れが確認された(Kanno R et al, Structure 17, 287-293, 2009 光岡薫さんらとの共同研究)。

Kanno R. et al, Structure 2009より抜粋

さらには、他のグループも最終的には非対称なGroELリングを認めて論文に載せている(例えば、Chen D-H et al Cell 2013)。

Sakikawa et al JBC 1999より
GroELは空洞内に基質タンパク質を閉じ込めた際、閉じ込めたタンパク質によってはけっこう窮屈だということは以前の研究から予想されていたが(例えば、私たちの Sakikawa C et al J Biol Chem 1999
など)、実際GroELのカゴ構造にまで影響を及ぼしているということを意味する。

ということで、ニンニクを眺めながらGroELに思いを巡らさせてくれた佐藤さんに改めて感謝したい。


ーーーーー
注1:通常のニンニクの房の数がいくつくらいなのかよく知らないが、6~10房くらいだろうか。

注2:ついでに言えば、その論文では、空洞内に閉じ込められた好熱菌シャペロニンの基質タンパク質20数種類の同定も質量分析で行った。


2017/10/15

フットボール型?の知恵の輪

 本ブログでは、私が見立てたタンパク質もどきのモノを紹介してきている。
 特に、パズルやおもちゃが多いが、今回は私が長年研究しているシャペロニンGroELもどきの知恵の輪である。
(シャペロニンとはタンパク質のフォールディングを助けるタンパク質の一種だ。)

一種のシリンダーとなっていて、外側の2つのリング内に3つのパーツがぴったりと埋め込まれている。これをバラすので知恵の輪というわけだ(中身をはずすので「はずる」?)。
 国産でもあり普通に入手できるパズルだが、デザインはフィンランドのパズル作家らしい。北欧らしくシンプルだが美しいフォルムである。


取り出すと、扁平な形で上下に少し出っ張りが見える。見本で置かれているのを見て、シャペロニンGroELとGroESからなる「フットボール」複合体に見えたわけだが、普通の人にはフットボールっぽく見えないかもしれない。

これをグイッと上下に引っ張てみよう。


と言っても、ダイキャスト製で硬いので画像処理で上下に延ばしてみた。
 右の写真のように、ダブルリング構造となる。リング内のパーツが上下に少し丸まって突出しているので、見事に(?)フットボール型になる。

ちょっとしたモノがシャペロニンに見えてしまうのだ。



下に示したのが、フットボールGroELーGroES複合体の模式図と結晶構造だ。

実際のシャペロニンは、まだカタチができていないタンパク質(変性タンパク質)をGroELとGroESから形成される「空洞」に閉じ込めて、カタチ作り(フォールディング)をアシストする(上図の緑色の左側が変性タンパク質。丸くなっているのはフォールディング終わってカタチができたあと。シャペロニンは空洞内でフォールディングが最後まで進行することがわかっている)。
シャペロニンでは空洞が大事というわけだが、このパズルは内部までぎっしりと詰まっている点ではシャペロニンらしくない。

さて、パズルを解いてみる。解答はパッケージに入ってないが、ガチャガチャやっていると少しずつバラけてくる。


バラしていく途中。

最後、ばらけた状態。
 




もう一度組み立てて、上から撮った写真。


「シャペロニン」として話しを進めているが、三回対称のタンパク質複合体が外側のリングで取り囲まれているとも見える。これって、膜タンパク質を可溶性として扱う際に最近よく聞くナノディスクっぽいかもしれない。ナノディスクでは、膜タンパク質周囲の脂質をリング部分のタンパク質がつなぎ止めるのである。


2017/07/15

新しいタイプのGFP模型

昨年度より東京工業大学では学部1年生全員(1~7類)が生命科学を必修として履修することとなった。その流れで、教科書で生命科学を教える以外でも全学生に生命科学研究の最先端、面白さを伝えよう、ということでGFP(緑色蛍光タンパク質)を主役として、蛍光が出るしくみの化学から細胞生物学まで全類の学生に教える講義も準備され、私も担当している。

その教材として、GFPの立体構造模型を昨年度初めに特注で作ってもらった(スタジオミダス制作)(注1)。


なかなかカッコイイでしょう。

このようなリボンモデルの3Dプリンター模型は自分自身は初めてで美しい。
GFPはβシートが樽状にぐるっと巻いているためにβバレル(樽)と呼ばれることがあるが、それがはっきりとわかる。

βシートのことを知っている人だとこの白い矢印(βストランド)部分だけではシート状にならず形を保てないのではと思うかもしれない。その通りで実際には白いストランド間を細い棒で一部補強してある(下の写真の赤矢印)(注2)。実際のタンパク質ではこの棒が水素結合として全体をシート状にして立体構造を安定化している。GFPはβシートがとてもきれいに並んで「缶」のようになっているためにとても安定で60℃くらいに熱しても変性しない(色が消えない)し、冷蔵庫で何年も光ったままだ。



同じGFPをラボにある廉価版の3Dプリンターで打ち出すと以下のようになる。
 

何かよくわからない「塊(かたまり)」である。
空間充填モデルで打ち出すとこうなるのだ(注3)。

元の美しいGFP模型に戻ろう。

リボンの中に見える緑の部分はGFPの蛍光団である。ここだけ空間充填モデルになっているが、ここも元はアミノ酸である。特定のアミノ酸配列(GFP野生型ではSer-Tyr-Glyの3アミノ酸)がGFPの立体構造の枠組みの中に配置されると化学反応(脱水反応と酸化反応)が自発的に起こって特別な蛍光団が形成される。タンパク質というのは本当に何でもやってしまう一例である。


スタジオミダスさんは凝っていて、この蛍光団に蛍光塗料を塗ってくれ、さらにはこの模型を置く台座にライトを付けてくれた。光らせたのが以下である。


さて、先ほどラボで打ち出した塊は何だかよくわからない、と書いたが、実際には塊の方が正しい状態と言えて、内部の緑に光る蛍光団はタンパク質の奥に埋もれている(水のない環境に蛍光団が置かれているのが光る理由の一つでもある)。


ーーーーーー
注1)
今回のGFP模型の写真はスタジオミダスさん撮影(GFPの塊の以外)。なお、このエントリーは下書きまでしていたが、すっかり放置していた・・・。

注2)
この1年間でそれなりにあちこちで展示して触っている間に、この補強の棒が折れてしまい、形が崩れやすくなってしまった(現在修理中)。

注3)
このプリンターで学生にGFPのリボンモデルを一度打ち出してもらったが、うまく造型できなかった。
ちなみに同じ空間充填モデルでもシャペロニンGroELーGroES複合体は以下のようになる。GroELは巨大タンパク質複合体で空洞があるからサマになるのだ。スケールは全然違っていて、GroEL(やGroES)の縮尺でGFPを打ち出すとGroESよりも小さくなるくらいだ。GroELの空洞内にGFPが2個分ハマることを実験的に証明したことがある(Sakikara et al., JBC 1999)。


Sakikawa C. et al.,  J. Biol. Chem. 1999より


2017/07/12

シャペロニン「フットボール」のストラップ

 共同研究者の小池あゆみさん(神奈川工科大)からたいへんうれしいギフトをもらった。大腸菌のシャペロニンGroELとGroESのフットボール型複合体構造のストラップだ。


私たち自身が島村達郎さん(京大)たちと共同研究で決定した結晶構造(Koike-Takeshita, A. et al., J. Mol. Biol. 2014, PDB ID: 3WVL)を元にしたモノである。

 野生型のGroELとGroESだとフットボール型はGroELのATPaseサイクルで過渡的にしか形成しないので「フットボール」構造を固定することはできず、結晶作成は通常は無理である(注1)。このフットボール構造はGroELのATPase活性を極端に遅くした変異体ができたから実現した構造である(Koike-Takeshita, A. et al., J. Biol. Chem. 2014)。GroELの52番目と398番目の2つのアスパラギン酸をアラニンにした変異体(GroEL-D52A/D398A)では一週間以上GroELとGroESがフットボールのままとなる(タンパク質のフォールディングを助ける能力は同等)。


フルカラーの3D模型である。石膏製であり、廉価版の3Dプリンターでは作成できない。実際の作成はスタジオミダスさんに特注したものである。スタジオミダス製作の模型はこれまでにも本ブログで紹介してきた(→「シャペロニンの模型が手元に!」)。スタジオミダスさんでは山形大の川上勝さん考案のタンパク質のシリコーンモデル(Kawakami Model)を作っている以外にも、今回紹介した石膏モデルでのタンパク質模型も作成してオンラインショップで売っていたりもする(→SilMol-mini スタジオミダス)。

いずれにしても、小池さん、どうもありがとうございました。

ーーーーーー
追記:
実は、フットボール以外でもタンパク質模型を持っていた。昨年の分子生物学会である企業がノベルティグッズとして配付していたのだ。
リボヌクレアーゼAとその阻害タンパク質の複合体である。


スタジオミダスさん制作で市販されているセットに組み込まれているタンパク質だ。ストラップではほぼ同じサイズだが、実際のタンパク質としては、RNaseA-Inhibitor複合体は分子量6~7万程度、GroELーGroES複合体は分子量100万ほどだから15倍ほど違うことになる。

ーーーーーー
(注1)
 実は同時期にシャペロニンフットボールの立体構造が他からも報告されていて、そこでは野生型GroELを使っている(フットボール複合体と因縁のあるLorimerのグループから。Fei X, et al, PNAS 2014)(さらに2015年には別のグループからHsp60でも)。

野生型GroELでどうやって??と思うかもしれない。

リン酸の類似体であるフッ化ベリリウム(BeFx)を使うとGroELのATPaseサイクルが途中でストップしてフットボール複合体ができるという私たち自身が以前報告した性質(Taguchi et al, JBC 2004)を利用している。


2017/03/20

シャペロニンGroELもどきのサボテン

 3月ということで卒業生が巣立つ時期である。
 先日の追いコンにて卒業する学生たちが記念品をくれたのだが、その一つが本ブログのコンセプトにぴったりのモノであった。

 サボテンである。


 右にあるように雑貨屋で売っていそうなビーカーに入ったおしゃれなサボテン。

上から良く見てみよう。


 はい、とげを数えてみよう。1,2,3,・・・7。

 ということで、本ブログにたびたび登場するシャペロニンGroELの7量体にちなむサボテンである。もらった瞬間、頬が緩んだのは言うまでもない。

 学生からのメモも載せておこう。


ということで、少し前の「東寺の紋」に続く7のシンメトリーである「GroEL」もどきだ。本ブログのコンセプトを理解してくれた人たちからのギフトということで嬉しいものだ。

 他にも何か見つけたら教えてください。

2015/08/12

東寺の紋とシャペロニン

 京都にて東寺に立ち寄った。

 新幹線で京都駅から新大阪方面へ出発してすぐに見える五重の塔が東寺の境内にあることはよく知っていたが、行ったことはなかった(いや、もしかしたら、中学か高校の修学旅行で行ったかもしれないが・・・)。

東寺 御影堂
思っていた以上に見応えのある素晴らしい仏像たちを拝んだあとに、境内をぶらぶらと歩いていた。
 この御影堂というお堂も国宝なのか、などと思いつつ、ふと目に留まったのが提灯の紋である。

 一目見て、おや?と思い、近づいてしっかり数えてみる。

 1,2,3,・・・7。

 シャペロニンGroELだ! である。 拡大写真を載せる。

東寺にて
いったん見つけると、この紋が描かれている提灯は東寺境内あちこちにあるのがわかった。
 ネットで調べると、この紋は 外側の7つの塊の「雲」に加えて、内部の「雲」を合わせて「八雲(やくも)」というらしい。

 どうGroELに似ているのか。

 GroELは7量体のリングが二つ積み重なったダブルリング構造である。
 その一層リングの一部を上から表示したのが右の図。
 7量体というのはタンパク質の多量体構造の中でもそれほど多いものではない。



しかも、もう一つ面白く思ったのは、この紋は7つの塊が一筆書きでつながっている点だ。
 というのは、GroEL遺伝子を7つつなげ、「一筆書きGroEL」を精製して、GroELの7つのサブユニットの重要性を調べた研究が、Horwichらによって実際に行われたからだ(Farr GW et al, Cell 2000)。GroELのサブユニットのN末とC末は距離が近いので、左図のようにC末と次のN末を適当なリンカーでつないで大腸菌で発現させ、精製することができる。この「一筆書きGroEL」は東寺の紋にそっくりである。

 ちなみに、この共有結合でつながったGroELを使うと、任意のサブユニットに変異を入れことが可能となる。例えば、図の3と6のGroELサブユニットの基質タンパク質認識部位をつぶす、というようなことができるわけだ。上述のHorwichらの論文によると、GroELの7つのサブユニットは全てがアクティブでなくてもよく、3〜4個は基質タンパク質やGroESを結合しなくても、GroELのシャペロン機能はほぼ維持されるらしい。

 さらに、東寺の紋が示唆に富むのは、内部に「雲」が描かれていることである。上の図にも描きこんだように、GroELが基質タンパク質を内部に取り込んだようすとそっくりである。

 ということで、東寺の紋は本当にGroELにそっくりであり、GroELのロゴとして最適と言っていいだろう。密教の世界の深奥さを垣間見たというか、率直に本当に驚いた。

 海外でのスライドなどでも使えるかもしれない。
 何でもっと早く気付かなかったのか悔やまれる限りである。

2015/08/10

Brainstring:ひもを絡めて元に戻すパズル

 未更新のままあっという間に半年が経っていた。

近傍でネタが見つかることが多いのは、お台場の日本科学未来館のミュージアムショップだ。たまたま行く機会があったので、ショップを覗いたら、見たことのないパズルが置いてあった。

 Brainstring

 まず、形がキューブ状というだけで、買いたくなるが、それだけでなく「string(ひも)」ということで、「タンパク質はアミノ酸がつながった "ひも" である」と事あるごとに言っている身としては、ますます気になるではないか。
 サンプルなど置いてなかったが、気になるモノは逃すといつ入手できるかわからないので、とりあえず購入。

 家で開封する。キューブ状のスケルトンの容器に、ボタンとボタンでつながった「ひも」(実際はゴム)が向かい合う面同士に渡してある。この「ひも」は各面に4つあるので、全体では4×3=12本となる。ここまでが初期状態。
 下にあるのが拡大写真で「ひも」が直線上に渡されているのがわかる。


 容器にはボタンを動かすためのスリットが入っていて、ボタンをあちこち動かすといずれ中の「ひも」が絡まるという仕組みだ。
 以下、ある程度絡めた図。 いくらでも絡まらせることができるが、元に戻らないとイヤなので、最初はほどほどに。


 そして、元に戻す、というパズルである。

 タンパク質が変性した状態で「ひも」が絡まって凝集体になるという表現をよく使っているので、このパズルで「ひも」が絡んだ状態は「凝集」状態になぞらえることができるかもしれない。すると、この絡んだ状態を元に戻すのは、脱凝集ということになる。
 とは言え、実際のタンパク質凝集で本当にポリペプチドの「ひも」が絡まっているかどうかは定かではない。
 それに、 このキューブ自体が、形を持ってフォールディングしたタンパク質っぽいので、内部で絡まっているのは凝集っぽくないかもしれない・・・。

<初学者の方へ>
 シャペロンはタンパク質の凝集を防いで、フォールディングを助けるのが基本だが、いったん絡まって凝集体を元に戻すシャペロンも存在する。Hsp104(バクテリアのClpB)というシャペロンはHsp70/Hsp40(バクテリアではDnaK/DnaJ)、ATPと共同で、凝集体をほぐして機能を回復させることができる。
 これは例えて言うなら、「ゆで卵を生卵に戻す」ということであり、にわかには信じがたいかもしれないが、そういうスーパーシャペロンが存在するのである。

<サプリメントのサプリメント>
このパズルの発売元のRecent Toys(http://www.recenttoys.com)に見覚えがあるな、とサイトを見たら、既に5,6種類は持っていた。だいたいはこのブログで紹介している。ツボにはまったパズルメーカーだ。





2014/10/05

シャペロニン的な樽型パズル

 海外出張に行くとネタが増える。9月に大学の用務でスウェーデンに行った際に仕入れたパズルを紹介したい。

 シャペロニン(GroEL)のかたちを表現する言い方にはいろいろある。リング、 かご、ドーナッツ、そして樽(バレル)などであろうか。

4年前にHartlとHorwichがラスカー賞を受賞した理由も

 For discoveries concerning the cell's protein-folding machinery, exemplified by cage-like structures that convert newly made proteins into their biologically active forms.
ということで、cageすなわち「かご」が使われている(注1)。

今回の出張で立ち寄ったノーベル博物館のミュージアムショップで見つけた(注2)のが樽型パズル(注3)。


 バクテリアやミトコンドリアのシャペロニン(GroELやHsp60)は、このパズルのように真ん中が膨らんでないが、古細菌や真核細胞の細胞質にあるシャペロニン(CCT)はまさしく樽型である。


ただ、内部が空洞になっていない。これだとシャペロニン的ではないなぁ・・・。



ということで、このおもちゃについて「書きます」という約束を果たした。え、まだあるじゃない、という声もあるかもしれない。少しお待ちください。

ーーーーーーー
注1:以前のブログで「この二人に加えてもう一人入ってほしかった。Lorimerだ」と書いたが、この受賞理由を深読みするとLorimerが入ってない理由が透かし見えることに気付いた。"exemplified by cage-like structures"という部分である。Lorimerの研究はGroELがフォールディングを助けることを明確に示した最初ではあるが、まだ「かご」の内部でフォールディングを助けることまで気付いていなかった。その後、Horwich(と亡くなったSiglerの共同研究)が「かご」状の立体構造を明らかにし、Horwich、Hartlらの研究でかご内部がフォールディングに使われることがわかった(いろいろ異論はあるだろうが)。ということで、「かご」状の部分に重きを置くとLorimerは入らない。

注2:この博物館には一人で観にいったが、中には今回のスウェーデン出張に同行した東工大の方数名が先におり、ぼくがブログでパズルを紹介しているのを知っていて、「こっちに田口さんが好きそうなのがいろいろありますよ」と教えてくれた。
 ついでに言えば、この博物館でノーベル賞メダルチョコを購入し、研究室メンバーにお土産として配った。

注3:樽型のタンパク質でノーベル賞が出る予兆・・・・な訳はないだろう。


2014/10/04

「新生鎖の生物学」がスタート

 ブログでは紹介していなかったが、この数ヶ月で研究環境に大きな変化が生じた。
田口が代表として申請していた科研費新学術領域研究にめでたく採択されたのだ。

「新生鎖の生物学」

(いつもは大きなフォントは使わないが、例外的に強調したいので大きくしてみた)

新学術とはなんぞや、ということで知らない方も読んでおられるかもしれない。補足しておくと、新学術領域研究とは科研費の種目の一つで新しい学術領域を推進するためにチームを組んで研究を行う。以前は特定領域というのがあり、本ブログで数年前までたびたび「タンパク質の社会」のニュースレターやらウェブやらの記事があったが、その後継が新学術領域研究だ。

今年度から30年度までの5年間の新学術領域研究の一つとして「新生鎖の生物学」を推進できることになった(注1)。

そもそも「新生鎖」って何だ、ということで、まずは申請書に記した概要を以下に示す。
 ごく最近、リボソームで合成されつつある新生ポリペプチド鎖(新生鎖)を主役として、フォールディング、シャペロンといったタンパク質研究とRNA研究の接点から、新たなバイオロジーが生まれつつある。新生鎖は何事もなく進む合成の通過点ではない、ことを示す知見が急増している。新生鎖は、リボソームに自ら働きかけることで自身の翻訳速度を制御しつつ、シャペロン群と相互作用しながら正しいフォールディングに向かう。タンパク質の品質管理は新生鎖の段階からすでに始まっている。そればかりか、異常mRNAの品質管理も新生鎖を介して行われるらしい。さらに、新生鎖自身が成熟タンパク質とは異なる新規の機能を有する例もわかってきた。そこで、以上の開拓的な研究を遂行してきた研究者を中心に“新生鎖”を主役とする新たな研究領域を設定し、技術開発も含めながら、新生鎖が関わるさまざまな生命現象の包括的な解明をめざす。
概要図があるとわかりやすいであろう。


 つまり、新生鎖とは新生ポリペプチド鎖である。リボソームの中でtRNAが結合したままなので、ポリペプチジルtRNAとも言える。

事務局は稲田利文さん(東北大学)に置き、既にウェブサイトもオープンしている(→こちら)。

http://www.pharm.tohoku.ac.jp/nascentbiology/


  図は空をリボソームを模した飛行船がぷかぷかと浮いていて、そこから「新生鎖」が伸びていき、最後は飛行機雲となる。よく見ると飛行機雲はタンパク質のかたちっぽくなっている。つまりフォールディング完了しているということだ。カラフルなアミノ酸が連なった変性状態の新生鎖のそばには白い雲らしき何かがそばにいるが、これはシャペロンのつもりである。

ということで、今後は「新生鎖の生物学」にまつわるトピックスも紹介していくことにする。

思い起こせば本ブログでも新生鎖にまつわる話題は既にときどき扱っている。
もっともそれっぽいのは以下の写真を紹介した2008年の「The Waltz of the Polypeptides」である。


アメリカのCold Spring Harbor研究所でのミーティングの際に撮った写真である。
このモニュメントでは新生鎖は既にフォールディングしているが、 実際にいつもそうなのかどうかを調べるのが本領域でのミッションの一つである。


ーーーー
注1:通常もっと長い領域名称が正式にあり、略称を付けるのが常である。が、本領域は正式名称が「新生鎖の生物学」だ。この7文字は最短記録ではないか、と調べたら(新学術一覧)、5文字と6文字のが一つずつ存在した。ついでに言えば、5文字の領域(原子層科学)は略称でさらに短く3文字(原子層)にしている。本領域も略称は「新生鎖」にすればよかったか。)



2014/10/03

科学未来館のノーベル賞予想は・・・

 もう今年も10月である。気付けば前回の更新から4ヵ月も経ってしまった。この間に「ブログ更新しますから」と約束した人は何人になるかわからない・・・。

さて、10月上旬と言えば、ノーベル賞発表のシーズンである。つい数週間前にスウェーデン出張に行ったのだが、その余韻の中、唐突に日本科学未来館の科学コミュニケーターの方からメールが届いた。

「画像提供と引用へのご承諾について」

?と思ってメールを読む。

画像はぼくが行ったシャペロニンがあると固まらないゆで卵実験の写真(右写真。元のブログ記事注1こちら)。

引用は3年前の本ブログ記事「ラスカー賞にシャペロニンGroEL研究者」であった。

 どういうことかと言うと、未来館ではこの季節に今年のノーベル賞予想をしているということで各方面に話しを聞いたところ、遠藤斗志也さん(今年度から京都産業大学)が化学賞にシャペロニンが来るのでは、とうことでHartlとHorwichの名前を挙げたらしい。

この二人は3年前にシャペロニンの作用機構でラスカー賞を共同受賞しており、その際に本ブログで紹介していた(→こちら)。
ラスカー賞はご存じのように「ノーベル賞の登竜門」であり、Hartl、Horwichはいつ受賞してもおかしくはない。(ちなみに、今年のラスカー賞受賞者は京大の森和俊さんとPeter Walter。遅まきながら、森さん、おめでとうございます。Walterについては「タンパク質の社会」ニュースレターのVol.7にインタビュー記事の掲載している。)

話しを戻すと、未来館のブログにてシャペロンの解説を行うということで、「ゆで卵」写真をシャペロンの役割を示す写真として使ってくれた。

日本科学未来館 科学コミュニケーターブログ
→「研究者に聞く!ノーベル賞は誰の手に?①化学賞に分子シャペロン?

未来館のブログでシャペロンを解説してくれてうれしい限りだ。
シャペロンの作用機構の手描きイラスト、おにぎりを作るようすでタンパク質のフォールディングになぞらえたり、わかりやすく解説されているのでぜひ読んでみてほしい。
 
話しはもう少し続く。

実は、未来館ブログが予想したのはHartl、Horwichに加えてもう一人。それはGeorge Lorimer。
3年前の本ブログのラスカー賞記事に「ただ、本当はもう一人入ってほしかった。George Lorimerだ。」という部分があったのをきちんと読んでくれていたのだ。

さて、どうなることやら・・・。

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注1:そもそもこのブログを初めて書いたのが「ゆで卵実験の思い出」という投稿であった。2006年なので、かれこれ8年続けていることになる。

2014/03/09

新著紹介「学んでみると生命科学はおもしろい」

 突然だが、1月末に本を出版した。

学んでみると生命科学はおもしろい

 これまでにも専門家向けには共著や編著ということで出版してきた経験はあるが、今回は一般の方々に届けたい内容かつ単著である。ベレ出版の「学んでみると○○学はおもしろい」というシリーズ本の一つとして、編集者からお声がかかり、足かけ3年がかりでこつこつと執筆し、ようやく完成。
 自著なのに発行後2ヵ月もしてからこのブログで紹介しているくらいだが、出版社では宣伝もしてくれている。例えば、大学生協の全国版カタログ(2月号)のおすすめ書籍に載っているよ、と教えてもらったときにはびっくりした(が、東工大すずかけ台生協には置いてなかった・・・。大岡山の生協には置いてあったが)。また、とある大手書店では表紙が見えるような売り方で7,8冊陳列してあった(面出し、というらしい)。

以下、宣伝用に書いた文章。
生命科学は生活に密接に関係しています。「生命とは何か」から「人工的に生命は創れるのか」といった最先端の話題までを解説します。
遺伝子、ゲノム解析、病気や薬に関する研究など、生命科学は私たちの生活に密接に関係しています。これからますます発展していく生命科学の知識を持つことは、現代人にとって必須といえるでしょう。本書は、「生命とは何か」を考えることからはじめ、「細胞」や「タンパク質」、「代謝」、「DNA」、生活に大きな影響を与える「健康と病気」、「人工的に生命は創れるのか」といった最先端のテーマまで、丁寧に解説していきます。
 ということで、本ブログで紹介してきたタンパク質関連というより、もっと広く生命科学全体を貫く入門書となっている。目次は以下の通り。
第1章 「生きる」ってどういうことだろう?
第2章 細胞の中を覗いてみよう
第3章 生命を支えるタンパク質の世界
第4章 細胞はエネルギーをどう生み出すか?
第5章 生命の設計図DNA
第6章 健康と病気の生命科学
第7章 生命は「創れる」のか?
ちょっと読んでみたい方には、ネットで一部だけ「立ち読み」ができるのでどうぞ(Amazonの「なか見!検索」→こちら)。

 文章のトーンは通常の教科書的というより、このブログのような感じだ(ただし「ですます」調)。全体としては高校の生物の教科書レベルよりやさしめだと思うが、部分的にやたらと細かいかもしれない。例えば、タンパク質のフォールディングは妙に詳しい・・・。

 本ブログを読んでいる生命科学に関わる方々にはほとんどが常識として知っている内容だと思われるが(後半やコラムは最新のトピックスもあり)、理系でないご家族などに自分たち研究者のやっていることを理解してほしい、と思っているような場合には、ぜひご推薦いただければ幸いである。

発売後に何人かの方(主に文系)から感想などいただいた。

・コラムが面白かった。
・ 第6章に出てくる手塚治虫の「火の鳥」の話しとの関連がよい。
・研究者しか知らないちょっとした小ネタが入手できた。
・後半は難しく読み進められなかった・・・。

などなど。

どうです、読んでみたくなったでしょう?(笑)
絶賛発売中です!