2026/01/03

ドイツから届いたタンパク質的なパズル

 私のラボで修士課程からポスドクまで10年ほどを過ごした三輪つくみさんが今年初夏よりドイツでポスドクを開始した。今月一時帰国してラボを訪ねてくれた際にパズルのお土産をもってきてくれた(残念ながら私はインフルエンザにかかってしまって会えなかったのだが)。

いかにも私が好きそうなパズルである。


Chinese devilという名前のパズルらしい。
普通完成した状態から崩すのは簡単なのだが、このパズルは最初崩すことができなかった。タンパク質になぞらえて言えば、完成した天然構造が超安定で簡単には変性しない、ということになる。
しばらく格闘したができなかったので、学生たちに崩してもらおうということでラボのお茶部屋に置いておいた。翌朝ラボに来ると、教授室のディスカッションテーブルに見事に崩れた状態で置かれていた。6つの木製のパーツがヒモでつながったパズルである。


このパズルがタンパク質の立体構造の観点から興味深いのは、構造ができた木製パーツを変性したヒモがつないでいる点である。これは実際のタンパク質の構造でも変性したループがαヘリックスやβストランドなどの二次構造をつないでいるのにそっくりである。


パズルを崩した状態でも二次構造が残っている、という見方ができる。


三輪さん素敵なパズルをありがとうございました。やはり海外には凝ったパズルが多いので、また何か見つけたら入手してください。



2025/12/31

学術変革(A)マルチファセット・プロテインズの事後評価「A+」とMFP的なモノ

 私が代表を務めた学術変革領域研究(A)「マルチファセット・プロテインズ:拡大し変容するタンパク質の世界」(以下、MFP)が昨年度で終了した。


今年度、事後評価が実施されて必要資料を準備して結果を待っていたが、先週文科省のウェブサイトにて評価結果が公開された(→令和7年度 学術変革領域研究(A)に係る中間・事後評価について)。

A+

という最高評価ををいただいた(A+からC)。「A+」はなかなかいただけないのでたいへん嬉しい(以前の「新生鎖の生物学」はAだった)。以下、評価結果pdfに載っていた所見から本領域のところを引用する。

(評価結果の所見)

本研究領域は、これまでのタンパク質像からは想定できなかった多面的なタンパク質機能を見出し、拡大し変貌するタンパク質世界の理解を深めることで、タンパク質科学における新しい常識の確立を目的としている。この目的を達成するため、マクロな細胞を用いた解析、電顕レベルの微細構造解析、バイオインフォマティクスを駆使した情報解析の網羅的かつ緻密な連携により研究を推進した結果、非典型的翻訳、非AUG 翻訳、RAN 翻訳など多様な翻訳機構を世界に先駆けて明らかにし、既存のタンパク質研究の枠を超える飛躍的な理解をもたらした。ダークプロテイン、ダークプロテオームが最近、国際的に注目されるようになったという事実は本研究領域の先見性を示しており、変革や転換といった言葉に相応しいものである。また、研究領域の運営においては領域代表者のリーダーシップのもと、分野横断的な共同研究体制が構築されており、その結果として多くの成果が国際的な認知度の高い論文として発表されている。一方で、研究領域内での共同研究の成果に偏りが見られた点には物足りなさがあるため、今後は共同研究論文の発表が望まれる。本研究領域によりマルチファセットなタンパク質の描像が目覚ましく発展したため、将来的にはそれらを統合するような概念の創出に進むことを期待したい。

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領域が始まってから卒業生たちが3月の追いコン時にMFP領域のロゴ(多くのファセット(面)をもつダイヤモンドを領域のシンボルとした)のダイヤモンドに見立てたモノを見つけたり、作ったりして記念にくれることが多い。今年3月のはまだ紹介していなかったので、この機会に掲載する。

2025年3月 折りたたみ式コーヒードリッパー。商品のパッケージにあるようにコーヒーフィルターを置くのが基本だが、折りたたみ方を変えれば、ダイヤモンド的になる。



ドリッパーをシャペロニンGroELに見立てて「変性」させたキューブパズルを載せてみた


2024年3月 クリスタルパズル(3Dジグソーパズル)のダイヤモンド→20240921ブログ、→202401006ブログ


右にあるのは領域会議で作ってくれたMFPの内輪


2023年3月 「ストームグラス(容器に密閉された樟脳の結晶形が天気によって複雑に変化)」。本来の置き方をひっくり返しすとダイアモンド型になる。→20240921ブログ



2021年3月「マルチファセットプロテインズ」的なランプのギフト」→20210424ブログ

手作りでカラフルに仕上げてくれた逸品


2022年3月は「シャペロニンもどきの容器と自発的に「フォールディング」するメガネ拭き」(→202312ブログ)なのでMFPとは無関係だった。

2025/12/12

「ジーン・マシン」(ラマクリシュナン著:みすず書房)の解説を執筆

また私が関わった書籍の紹介である。このたび、「ジーン・マシン:細胞のタンパク質工場「リボソーム」をめぐる競争」(ヴェンカトラマン・ラマクリシュナン著、みすず書房)の解説を執筆した。


あらゆるタンパク質はリボソームで合成される。DNAからタンパク質へとつながる生命のセントラルドグマにおける「翻訳」という過程である。タンパク質を産む母なる分子であるリボソームは生命においてもっとも重要な分子の一つであり、その分子機構解明の研究も長い。リボソームは細胞内でもっとも巨大な複合体の一つであり、タンパク質とRNAから成っている。その詳細な立体構造解明は1990年代後半から熾烈なレースが繰り広げられた。本書はそのレースに参加して栄誉を勝ち取った一人であるヴェンカトラマン(通称ヴェンキ)・ラマクリシュナンの自伝である。ラマクリシュナンはリボソームの結晶構造解明の貢献でノーベル化学賞を2009年に受賞している。

一言で言えば、たいへんおもしろい本である。リボソームに関わらない人(一般の方から生命科学者も含めて)が読んでも、ノーベル賞が懸かった研究分野におけるレースの裏側が垣間見える。 私はこれを読んで大学時代に呼んだジェームズ・ワトソンの「二重らせん」を思い起こした。ワトソンはフランシス・クリックとともにDNAの二重らせん構造を解明し、分子生物学に革命を起こしたワトソンである。当時応用化学を専攻していた私が生命科学に興味を持つきっかけとなった一冊である。

詳細は、私が書いた解説「リボソームという「巨象」を解明する人間ドラマ」の半分ほどがみすず書房のウェブサイトにて『ジーン・マシン』解説(抄)として読めるのでぜひご覧ください(私の知り合いやリボソーム研究者には、ウェブサイトに載ってないところに興味深い内容を書いたことを付記しておく)。

2025/11/24

近著紹介:実験医学増刊号「タンパク質発現異常」

編集を担当した実験医学増刊号が10月に発行されたので紹介したい。

「徹底解剖 タンパク質発現異常 疾患の原因が見えてくる!新機構27選」

田口英樹,松本有樹修/編


簡単に言えば、タンパク質ができてくる過程で起こりうる異常に関して想定できそうなトピックスをまとめた一冊である。本書での「異常」は、疾患につながる異常が前提となって編集した。概説や目次などは羊土社HPの立ち読みでできるのでぜひご覧いただきたい(→「立ち読み」)。
実際には、この増刊号は2022年に出版された実験医学増刊号「セントラルドグマの新常識」のスピンオフである(本ブログでの紹介羊土社HP)。3年前の増刊号は基礎研究の立場からまとめた内容だったがかなり好評だったということで、病気にも関係する内容が望まれたということで編集の依頼が届いた。本増刊号では2022年の増刊号で紹介した新常識の翻訳以降を中心として疾患に絡めたと考えてもらうとわかりやすい。例えば、ヒトの疾患に興味のある方が、本書でカタログ的・網羅的にタンパク質発現に関する異常を検索してヒントや洞察を得ることに役立てていただければ幸いである。



2025/07/14

子供のための科学書籍2冊を監修

これまでに何冊か一般の方に向けた書籍を何冊か執筆した。

今年になって小学館より子供向けの書籍2冊を監修したので紹介する。

1)ドラえもん科学ワールドspecial 遺伝子のふしぎ  藤子・F・ 不二雄 (イラスト) 2025/7/3 小学館  (→小学館サイトAmazon


本書の趣旨に関連してそうなドラえもんの実際の旧作9編に合わせて、遺伝子や生命科学の初歩を学べる。その旧作の中には私が小学生時代(50年ほど前!)に読んだ記憶があるものもあって感激した。ドラえもんをもう一度読みたい方にもお勧めである。

2)10歳からの科学の常識100: 文系の池上彰が教える  池上 彰 (著) 小学館 2025/2/25  (→小学館サイトAmazon


こちらは生命科学だけでなく科学全体に関する書籍。監修者は全員、東京科学大学の教員である。
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いずれも、池上彰さんとの以前の共著、

池上彰が聞いてわかった 生命のしくみ 東工大で生命科学を学ぶ 単行本2016年 朝日文庫2020年 朝日新聞出版

のご縁で同僚の岩崎博史教授と一緒に監修した。





2025/06/21

NHK「人体III」のサプリメント(補足):謝辞

 NHKスペシャル「人体III」の最終回(6/15放映)で私のライフワークのシャペロニンを取り上げていただいた。

「人体III」シリーズ4回の全体を貫くテーマは「細胞」、特に細胞内ではたらくタンパク質(細胞内キャラクター)に焦点を当てている。最終回の序盤で、細胞内キャラを育てるキャラクターということでシャペロンが登場する。観ておられない方のために概要をお伝えしよう。

1.オルセー美術館に収蔵されているルノアールの「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」が映される。

Pierre-Auguste Renoir, "Le Moulin de la Galette" from Wikimedia Commons

2.この絵画を使ってJudith Frydman博士(スタンフォード大)がシャペロンの概念を解説する。Frydman博士は真核生物シャペロニンの圧倒的なリーダーである

3.細胞内で赤ちゃんタンパク質(新生鎖)がリボソームから産まれてくるようすが「人体」シリーズお得意のCGで解説される。ぶらぶらしたヒモ状態の新生鎖が働けるかたちに折りたたんでいくようすが紹介される(注1)。

4.新生鎖は絡まって凝集体になりうるリスクがあるので、それを防ぐためにシャペロニンが空洞内に新生鎖を閉じ込めて成長させる。

5.最後に私が10秒ほど登場して、「シャペロンはバクテリアからヒトまでどんな細胞にもどっさりと含まれていて、いろんな細胞内キャラが自らの能力を発揮できるようにするためになくてはならないキャラクターだ」と言って締める。「シャペロンは細胞内にどっさり含まれている」というところで、ヒト細胞でシャペロン(Hsp70-GFP)が発現しているようすの蛍光顕微鏡動画が映る。

という流れである。

番組のエンドロールの協力者は該当部分で一人だけということで私の名前しか出なかったが、本来NHKの方にお願いしていたのは以下の方々である。この場を借りて御礼申し上げます。

伊藤隼人さん:現在私のラボの博士課程学生で疾患関連塩基リピートによる非AUG(RAN)翻訳を研究している。最近ライブイメージングも行っているので、番組ディレクターから要請のあったシャペロンが細胞内にどっさりあるようすをHsp70ーGFPを内在プロモーターで発現させて動画を作ってもらった。実際には、細胞に熱ストレスをかけてシャペロンが大量に発現するところなども見せたいということだったが見送りになった。

ヒトの培養細胞(U2OS細胞)でのHsp70-sfGFP発現のようす

川上勝さん:私のインタビュー画面で私が持っているシャペロニン模型は川上勝さん(現在神戸大)が考案した作成法で作られた特別な模型である(Kawakami-model)。川上さんは私がGroEL研究者ということでずっと貸し出してくれており、本ブログでもたびたび紹介している(→「シャペロニンの模型が手元に!」2013.7.27)。このような印象的なタンパク質模型に興味ある方はスタジオミダスさんのウェブサイトをご覧下さい。

Kawakami ModelによるGroELーGroES複合体模型

上村英里さん:この番組の当初の構想では、私があちこちで好んで使っている「シャペロンがあるとゆで卵にならない」実験を実際にやってみましょう、という話しが進んでいた。久々の実験だったので古い好熱菌のシャペロニンをフリーザーから発掘して私自身で予備実験するとともに、それだけでは足りなかったので、技術補佐員の上村英里さんにシャペロニンの精製などを行ってもらった。結局見送りになった・・・。


2025/06/14

YouTubeチャンネル始めました:「パズルでひもとくタンパク質」

突然ですが、YouTube始めました。

題して「パズルでひもとくタンパク質」(Unfolding protein science from toy box)

突然と言っても、本当は5年前に科研費学術変革A「マルチファセット・プロテインズ」が立ち上がったときのアウトリーチ活動で動画コンテンツを作ると「公約」していました。ずるずると後回しにしていましたが、YouTube番組を作ってくれる素晴らしい人が現れたのと、NHKの取材でインタビューを受けたりしたのがきっかけとなって、思い切って作ってみました。

今回の内容は導入部だけですが、大学1年生向けの講義や高校での模擬授業、サイエンスカフェなどでのネタを刻んでシリーズ化していきます。「これが私にはタンパク質に見えます!」というのが決めゼリフ?です。

どう転んでいくのかわかりませんが、新たな挑戦です。


NHKスペシャル「人体III」(6/15放映)でシャペロン紹介

お久しぶりです。4月下旬からNHKスペシャルで生命科学のシリーズ「人体III」を日曜夜9時に隔週で放映していますがご覧になっているでしょうか。タモリと山中伸弥さんが司会の生命科学番組です。

最終回、明日6月15日(日)21:00〜の一部で「シャペロン」を取り上げてくれます。

NHKサイトでの予告編

NHKの担当ディレクターさんが私のところに何度か取材に来てシャペロンのCGの監修をしたり、私が紹介したJudith Frydman(スタンフォード大)がシャペロン(やシャペロニン)を解説します。

ぜひご覧下さい。


2024/10/06

マルチファセット国際会議でのポスター賞賞品は?

 今年度が科研費学術変革領域 (A)「マルチファセット・プロテインズ」の最終年度ということで当初より予定していた国際会議を先月(2024年9月)開催した。会場の収容人数が限られていたこともあり、広く周知せずに基本はクローズドな会となったが、ポスターを見てもらうとわかるように国内外からたいへん豪華なゲストに参加いただいた。


会場は福岡の「ルイガンズ」という海の中道にあるリゾートホテルで、以下の集合写真を見てもらうとわかるようにリラックスした中で密度の濃い会議を催すことができてたいへん満足している。

会の詳細はいずれ領域ニュースレターにレポートが載り、ウェブで公開するのでそちらを見ていただきたい。で、このブログ的な見地で一つ紹介したいことがある。

この会議で学生ポスター賞を実施したが、その副賞の一つとして前回のブログで紹介したダイヤモンドの3Dパズルを送ったのだ。以下は授賞式で受賞者3人との記念撮影の一コマである。

さて、受賞者のみなさんが送ったパズルを完成させたのか気になるところである・・・。実際、このパズルだけだと私が嬉しがっているだけかもしれないので、もう一つメインの副賞があり、そちらは現実的にみなが喜ぶものだったと思う。

この写真の背景を見て、どこで撮ったんだと思われるかもしれない。この会議の最終日のパーティーはホテルの前にある水族館(マリンワールド)を夜に貸し切ったのである。夕刻より貸切となって、会議参加者はまず水族館をぶらぶらと歩きながら内部を一通り見て、最後にマリンワールドの目玉の一つの大水槽前に到着する。そこで懇親会を行い、ひとしきり飲み食いしたあとで、学生ポスター賞授賞式となったのだ。レベルの高いサイエンスを存分に楽しんだあとに水族館でも楽しめて、参加者全員の印象に残るイベントとなったのはまちがいない。

ということで、この授賞式のあとに、知り合いの方から、今日の内容は田口ブログネタにぴったりじゃないですか、ということで取り上げた(実は、前回のはその伏線であった)。

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というようなことを書くのは、やはり楽しいものである。この1,2ヵ月に何人かから「ブログ更新されてませんね」とおっしゃっていただけて、たまにチェックしてくれている人がいるということは幸せなことである。小ネタはけっこう溜まっているのであまり考えすぎずに更新していこう。

2024/09/21

「マルチファセットプロテインズ」的なギフトあれこれ

2020年度に始まった科研費学術変革(A)「マルチファセット・プロテインズ」もあっという間に最終年度となってしまった。

本領域の基本コンセプトは、従来見えていなかった、見ようとしなかった、見ることができなかった、「タンパク質の世界」の新たな面(ファセット)を開拓する、ということで、領域のシンボルは多くの「ファセット」を有して光り輝くダイヤモンドである。

ということで、領域発足後に卒業生が私にくれるギフトは、このロゴにちなんだモノが多い。2021年3月の卒業生たちのマルチファセット的なランプ(手作り!)は以前ブログに書いた(→2021年4月「マルチファセットプロテインズ的なランプのギフト」)。

その後ももらっているけど紹介していなかった。

2023年3月卒業生


これは「ストームグラス」と呼ばれているモノでいろいろな形の商品が販売されている。容器に密閉された樟脳(しょうのう)の結晶形が天気によって複雑に変化するので天気予報に使えるということだ(それほどの精度はないようだが)。

これをひっくり返すと、


ダイヤモンド的になる!

真上から見ると・・・


8角形である。これが7角形だったら、シャペロニンGroELの7量体コレクションの一つにもエントリーできたのだが・・・。まぁ、普通この手のモノを7角形にする必要はないので仕方ない。

2024年3月卒業生

今年3月は、ダイヤモンド型の3Dジグソーパズルをもらった。


パーツは41ピース

ゼロから始めて完成させようとしばらくもがいたが、できそうもないので、答えを見ながら完成させた(パズル好きだが、パズルを解くのが得意ということでは全然ない)。なお、3Dジグソーパズルは初めてだったが、なかなかうまくできていて、少しずつ形が整っていって、最後に見事に組み上がるのは快感である。

かなりキレイだ。プラスチックではあるが質感もなかなかしっかりしている。

透明なので、何かひと工夫してできないかということで、調べるとディスプレイ用のライトが市販されているようだ。それは買ってないが、手元にあるブラックライトを下に置いて光を当ててみた。

それなりにキレイに輝く。

オマケとして、このダイヤモンドパズルと、マルチファセット・プロテインズのうちわを並べてみた。このうちわは、昨年9月に定山渓で領域会議を開いた際に世話人の内藤哲さん(北大)が作成してくれた代物である。















2024/02/17

憧れの「Anfinsen」さんとのツーショット

 前回のブログで、米国土産で作った「セントラルドグマ」を披露したが、その後さらに少し「拡張」していたのだった。


リボソームやシャペロン(シャペロニンGroEL/ES複合体)の3Dプリンタ模型があったのでそれを置いたのだ。

さて、私の専門分野は、タンパク質がリボソームでポリペプチド鎖として産まれてきてから立体構造形成(フォールディング)するところである。このタンパク質フォールディングに関しては、「アミノ酸配列がタンパク質の立体構造を決定する」というタンパク質科学の前提となる基本原理がある。この基本原理は「タンパク質は自発的にフォールディングする」、「タンパク質は自由エネルギー最小の構造にフォールディングする」などさまざまな言い換えがあるが、本質は同じだ。まとめて、Anfinsenのドグマと呼ばれている。

このドグマの確立に貢献した実験は1950〜60年代に行われた今考えるとシンプルな実験である。尿素で完全に変性させた酵素タンパク質(RNase)を透析したら変性前と全く同じ酵素活性になったことが証明されたのだ。この実験を主導して行ったのがChristian AnfinsenだったのでAnfinsenのドグマと呼ばれるようになった。

前置きが長くなったが、NIHの本館のようなビルの展示コーナーで予期せず、「Anfinsen」さんに遭遇した。Anfinsenは長らくNIHで研究していて、1950年代ころからタンパク質は自発的にフォールディングするということを実験で証明したのだ(その功績で1972年にノーベル化学賞を受賞)。

思わず嬉しくなって「ツーショット」を撮ったのが以下の写真だ。


このAnfinsenコーナーでは、彼の功績が、実際に使っていたカラムやタンパク質模型などと共に展示されていた。





何度も出しているセントラルドグマにおけるAnfinsenドグマの位置付けを示すと以下のようになる。


さて、実は私が大学院で研究を始めた1989年春、恩師の吉田賢右先生が提示してくれたのが、

(Anfinsenの)ドグマは本当か。

である。そのときの配付資料をもっているので載せてみる。


つまり、タンパク質の可逆的変性ー再生(フォールディング)をHsp(熱ショックタンパク質)が助けている可能性が出てきたので、Hsp研究を始めよう、というものだった。
シャペロンという言葉が使われていないことからもわかるが、セントラルドグマに従ってタンパク質ができると、後は勝手に(自発的に)フォールディングするのだから、今でいうシャペロン的な存在は当時想定されていなかったのだ。(当時シャペロンという概念・用語はちょうど出たばかりでまだ浸透していなかった)

 その後、このテーマでのHsp60(バクテリアのGroEL)を好熱菌から精製するところから研究を始めて今に至る。30年以上に及ぶキャリアの研究テーマでシャペロン以外の研究も行っているが、結局はどれもAnfinsenのドグマに行き着く。

シャペロン:当初、あるタンパク質のフォールディングがHsp(≒シャペロン)に絶対的に依存するなら、Anfinsenのドグマは修正すべきではないかと考えられた。その後の研究で、シャペロンは凝集体形成を防いでフォールディングを助けるのが基本的な役割とわかってきた。つまり、シャペロンはフォールディングに積極的に介入するわけではない、ということだ。とは言え、シャペロン存在下で、フォールディング経路が大きく変化して、自発的フォールディングでは立体構造A、シャペロンがあるとBというようなケースがあるかもしれない。

プリオン:プリオンやアミロイドは元々別の天然構造(もしくは天然変性状態)にあるタンパク質の構造が転換して分子間βシートによる線維状構造(アミロイド)になるという点で、一つのアミノ酸配列から二つの立体構造を取りえる。Anfinsenドグマを「アミノ酸配列はタンパク質の立体構造を一義に決める」と定義すると、それに反する。その考え方がおもしろいと思って1990年代後半から酵母プリオン研究を始めた。

翻訳に共役したフォールディング:Anfinsenが行った実験を端緒とする通常のフォールディング研究では、完成したタンパク質を変性させてからリフォールディングさせる(Anfinsen型フォールディングとしよう)。細胞内でタンパク質(ポリペプチド)が合成(翻訳)される際には、リボソームでN末端からアミノ酸が一つずつ繫がれて合成されてくるので、翻訳途上からフォールディングが始まるのであれば、Anfinsen型フォールディングと同じとは限らないのではないか?という考え方がある。そこで、試験管内翻訳系(PUREシステム)を使ったりして、翻訳時のフォールディング研究をしている。
 既にわかっていることとして、アミノ酸配列にはタンパク質の立体構造の情報だけでなく、自らが翻訳される際の速度調節など翻訳動態の情報も保持している。究極的には同じアミノ酸配列でもコドンの使い方によって翻訳速度が変わって、結果的にフォールディングに影響が及ぶ、という同義置換依存フォールディング研究はこれからの課題の一つだ。

以上、長年憧れ?のAnfinsenさんに遭遇して感激したところから、ライフワークとなる研究の解説までと、思わず長くなってしまった。


2024/01/14

米国土産で作成した「生命のセントラルドグマ」

 昨年3月にアメリカ出張に行った際、NIHに立ち寄った。NIHはNational Institutes of Health(アメリカ国立衛生研究所)の略で、ワシントンDC中心から30分ほどのところにある米国最大の生命科学の研究機関だ。私のような生命科学に携わる人間なら、以前からよく聞く機関で、ポスドクも含めて日本人も多くいる。最近では、アメリカでの新型コロナウイルス対策のヘッドがNIH内のお偉いさんであるアンソニー・ファウチ博士だったので日本のニュースでも名前が流れていた。

NIH内部を案内してもらい、本館みたいなところにあるショップに立ち寄ったらいくつか興味深いモノがあった。一つはファウチ博士のバブルヘッド(頭がぶるんぶるんと動くコミカルな人形)。あちらでのファウチ博士の人気(?)がよくわかる(日本で言えば尾身茂さんのバブルヘッドが売り出されただろうか?)。

もう一つがRNAのぬいぐるみ(?)である。これはGIANT microbesシリーズで、今までもDNAとかプリオン(狂牛病)なんかをCold Spring Harbor(CSH)研究所のショップで購入したことはあるが、RNAは初めて見た。


RNAと言っても、要はメッセンジャーRNA(mRNA)である。一般の方には、RNAはDNAより知名度が劣っていたので以前は商品になっていなかったが、新型コロナウイルスのワクチンでmRNAが使われて、その名が浸透したので売り出したのだと思われる(もしくは前からあったとしても前面に出した)。

既にDNA「ぬいぐるみ」は購入済みだし、タンパク質のおもちゃも多数ある。

そこで、生命のセントラルドグマを作ってみた。


 キレイにできた。タンパク質は、確かMOMAショップで売っていたネックレスを切ったものだ(ということを講義とかオープンラボみたいなところで披露すると失笑が漏れたり、子供の中には記憶に残ることがあるようだ。ただ、環状のタンパク質がない、というのは実はけっこう深いことなのだ。それこそ、セントラルドグマの仕組みを考えると納得がいく部分もあるが)。
 それはさておき、このDNAとRNAを比較すると、性質の違いが見えてくる。そう、DNAは二重らせんだが、mRNAは一本鎖である。あと、この写真から塩基部分についての情報も一部得られるのがわかるだろうか。DNAでは青ー白、黄ー赤(黄赤は隠れているが)がペアになっているということは・・・。

DNAのATGCの4塩基の中でT(チミン)はmRNAではU(ウラシル)が使われるから、
青:A
緑:U
白:T
黄ー赤:GーCかC-Gのどちらか
とわかる。

・・・どうでもいい脱線であった。さらにバリエーションを加えてみよう。まずは、私の専門のタンパク質のフォールディングやプリオンを参加させてみた。フォールディングしたタンパク質もいくらでもある。さらに以前購入した狂牛病、つまり異常構造のプリオンタンパク質も登場させてみた。




本当は、リボソームがあると翻訳(mRNAからタンパク質合成の過程)も示せて面白いのだが、現状のGIANT microbesシリーズは分子レベルのモノが狂牛病と抗体しかないのが残念だ。(microbe(微生物)と言っているくらいだから病原菌とかが多い。狂牛病は「病原体」ということで販売することにしたのだろう)

最後に、「生命のセントラルドグマ」ということで、私が持っているコレクションで登場させたいモノ(人?)があった。
セントラルドグマの提唱者、フランシス・クリックのバブルヘッドである。

クリックのバブルヘッド人形なんてマニアックなのをよく買ったね、と思われるかもしれない。実は、コロナ前に行ったCSH研究所ショップで無料で配っていたのだ。大量に作ったが売れずに在庫処分となったのかもしれない・・・。ワトソンークリックと並び立てられるが、ずっと目立っているのがワトソンであることに異議を挟む生命科学者はいないだろう。ちなみに、CSH研究所はワトソンが長年務めている(今も!)ことでも知られている(少なくともコロナ禍前まではCSHLミーティング途中に開かれるピアノコンサートによく来ていた)。とは言え、ある程度分子生物学の歴史を学んだ人なら、クリックの残した功績がワトソンークリックのDNAの二重らせん構造解明に留まらないのはよく知るところだ。その先見性、考察の深さには感服するよりない。

以上、米国土産で作成したセントラルドグマであった。実は、ドグマはドグマでも私のライフワークに関係するアンフィンセンのドグマについても、昨年3月の米国出張では実りがあったのだった。次回辺りで報告したい。

2023/12/30

シャペロニンもどきの容器と「フォールディング」するメガネ拭き

気が付いたら2023年も年の瀬。このブログを1年以上更新していなかった・・・。

定期的に読んでくれている人がどのくらいいるのかわからないが、このブログをもう閉鎖したと思われているかもしれない。ただ、ときおり、会った人からこのブログの感想をもらうこともある。先日40年数年ぶりに会った中学時代の同級生が、このブログを見ていてくれているということで、感激したこともあり、ネタを披露したい。

実はネタはけっこうあるのだ。今回は、卒業生がくれたシャペロニンもどきの容器とメガネ拭きである。まずは、上方からの写真。



これを見て、何だと思うだろうか? 折り紙で7角形をいくつか重ねたような手作りのモノであり、このブログでの定番中の定番のシャペロニンGroELの7量体的なモノであることがわかる。

横から見ると、次のような容器であることがわかる。


真ん中は透明のプラスチックである。つまり、7角形の透明の「筒」がオレンジの折り紙パーツで閉じるようになっている。これだけでシャペロニンGroEL的だと嬉しくなる。

卒業生からの贈り物はこの「筒」だけでなく、驚きのグッズが付属していた。


形状記憶?のメガネ拭きである。赤い方は鶴、青い方はペンギンのカタチをしている。青い方はペンギンがまだ折りたたんでいないので開いている(変性している)。

つまり、これらの「鶴」や「ペンギン」はシャペロニンの基質タンパク質ということで、開いた状態で7量体オレンジシャペロニンの中で振るとフォールディングするというわけである。その過程を図にしてみよう。



見事にシャペロニンの反応サイクルらしくなった。ステップ3から4は実際には容器を手に持って何回か振ると勝手に「フォールディング」する。そう、シャペロニンの内部でこの「鶴」基質タンパク質は「自発的」にフォールディングしたということだ。

「ペンギン」も入れて、写真を撮ったら万華鏡のように美しくなった。



2022年3月の卒業生たちには、ずいぶんと待ってもらって申し訳なかったが、とても本ブログらしい記事になった。どうもありがとう!

(他にも本ブログのネタになるプレゼントがまだいろいろある。遠からず記事にするのでもう少し待ってほしい・・・)

2022/09/09

近著紹介:実験医学増刊「セントラルドグマの新常識」

 すっかりこのブログの更新をさぼってしまっているが、生命科学に興味のある一般の方々にもお届けできそうな書籍を編集し、7月に羊土社から出版されたので紹介したい。

実験医学増刊「セントラルドグマの新常識」

転写・翻訳の驚きの新機構と再定義されるDNA・RNA・タンパク質の世界

田口英樹,小林武彦,稲田利文/編



 生命のセントラルドグマというと、DNA→RNA→蛋白質、という情報の流れで、生命科学を少しでも学んだことがある人なら誰でも知っている基本中の基本の概念である。今さら、と思われるかもしれないが、セントラルドグマの周辺でびっくりするような面白いことが続々とわかってきている現状を専門家に解説してもらうという実験医学増刊号である。

 羊土社さんからこの増刊号の話しをいただいたきっかけの一つは、2019年に私が編集した実験医学の特集「再定義されるタンパク質の常識」が好評だったということだ。編集者さんが言うには、ふだんの読者層よりも幅広い層に手に取っていただけたそうで、とりまとめた私としては嬉しい限りである。羊土社さんとしては、タンパク質だけでなく、DNAやRNAなどを含めたセントラルドグマで増刊号をということで話しをもらった。とは言え、私はタンパク質周辺(や、最近は翻訳周辺)の新常識なら山ほど紹介できるが、DNA、RNA、複製、転写などはからきし弱い。そこで、私が明るくない分野についてどなたか編者を加えてくれるならぜひ引き受けましょう、ということで、小林武彦さんや稲田利文さんにも編集に加わっていただいた経緯である。結果的に、お二人の先生方に加わってもらい、素晴らしいコンテンツになったと自負している。

この記事を読んで気になった方は、羊土社ウェブで概論部分を「立ち読み」できるので(Amazonの試し読みもあり)、ぜひお読みいただければ幸いである(もちろん、その上でぜひ購入を!)。

 セントラルドグマの周辺が最近どうなっているの?ということを知りたい方々だけでなく、生物系の授業や講義ネタを探している高校などの先生方にもオススメです。

2021/07/12

【論文紹介】3Dプリンターで作ったタンパク質キャンディーを教育に使う(Science Advances)

 本ブログの趣旨にぴったりの面白い論文がScience姉妹誌(Science Advances)に最近出ているのを見つけたので紹介したい。

 3Dプリンタで作成したタンパク質模型を本ブログでたびたび紹介している。中でも、以下に示す「川上モデル」は美しさと質感が最高で、講義、高校での模擬授業などで欠かせない教材(小道具)だ。山形大の川上勝さんが考案した特殊な製法で作られたこの模型は素材のベースがシリコンなので弾力性がある。思わず触りたくなる逸品なのだが、触った人の感想に「グミみたいで食べたくなりますね」というのがある。

→ 制作元:スタジオミダスHP


前置きが長くなったが、実際にグミなどで作ったタンパク質モデルを教育に使うという論文が出た。今回紹介するScience Advances論文は、3Dプリンタで作った「キャンディー」、つまり、食べたり、口に入れるタンパク質模型が主役である。

Visualizing 3D imagery by mouth using candy-like models

Baumer KM et al, Science Advances  28 May 2021: Vol. 7, no. 22, eabh0691

DOI: 10.1126/sciadv.abh0691 (オープンアクセス)

この論文の紹介記事 → Gummy models may be aid for students with vision loss (Nerdist) 

Science podcast (July 8 2021): 3D-printed candy proteins 

 論文の図をそのまま載せることはできないので、ぜひ上記の論文そのもの、もしくは紹介ニュースに載っている図を見てほしい。本ブログを楽しんでもらっている読者なら嬉しくなる図がいくつもある。とりあえずは、3Dプリンタでさまざまなタンパク質模型を1㎝くらい、もしくは米粒大に作ったというのが論文の前段である。

 が、単に3Dプリンタで食べられるタンパク質模型を作ったというだけでは、Science姉妹誌に載らないだろう。本論文の主題は、複雑なタンパク質の立体構造を区別するのに口の中は適していて、触覚や視覚に匹敵するくらいである、というのだ。さらには、視覚障害を持った学生へタンパク質の立体構造を理解してもらうのに触るよりも口に入れてもらう方がいい、ということである。
 実際には、グミキャンディーモデルだけでなく、口に入れてもいいような素材でできたタンパク質模型を作って、被験者に口に入れてもらってテストしている。一種の心理学での実験みたいなものだろう。ちなみに、この論文のジャーナルでのカテゴリーはNeuroscienceになっている。

 この論文を知ったのは、たまに聴いているScienceのポッドキャストに取り上げられて筆頭著者の大学院生がしゃべっていたからだ。基本的には、その院生の思い付きでのキャンディープロジェクトが発展したということのようだ。こういう一般の方へのアウトリーチ的な内容でもアイディア次第でインパクトのある論文に仕上がるのだなぁという感想も持った。

私も何かできることがあるかもしれない。