2024/02/17

憧れの「Anfinsen」さんとのツーショット

 前回のブログで、米国土産で作った「セントラルドグマ」を披露したが、その後さらに少し「拡張」していたのだった。


リボソームやシャペロン(シャペロニンGroEL/ES複合体)の3Dプリンタ模型があったのでそれを置いたのだ。

さて、私の専門分野は、タンパク質がリボソームでポリペプチド鎖として産まれてきてから立体構造形成(フォールディング)するところである。このタンパク質フォールディングに関しては、「アミノ酸配列がタンパク質の立体構造を決定する」というタンパク質科学の前提となる基本原理がある。この基本原理は「タンパク質は自発的にフォールディングする」、「タンパク質は自由エネルギー最小の構造にフォールディングする」などさまざまな言い換えがあるが、本質は同じだ。まとめて、Anfinsenのドグマと呼ばれている。

このドグマの確立に貢献した実験は1950〜60年代に行われた今考えるとシンプルな実験である。尿素で完全に変性させた酵素タンパク質(RNase)を透析したら変性前と全く同じ酵素活性になったことが証明されたのだ。この実験を主導して行ったのがChristian AnfinsenだったのでAnfinsenのドグマと呼ばれるようになった。

前置きが長くなったが、NIHの本館のようなビルの展示コーナーで予期せず、「Anfinsen」さんに遭遇した。Anfinsenは長らくNIHで研究していて、1950年代ころからタンパク質は自発的にフォールディングするということを実験で証明したのだ(その功績で1972年にノーベル化学賞を受賞)。

思わず嬉しくなって「ツーショット」を撮ったのが以下の写真だ。


このAnfinsenコーナーでは、彼の功績が、実際に使っていたカラムやタンパク質模型などと共に展示されていた。





何度も出しているセントラルドグマにおけるAnfinsenドグマの位置付けを示すと以下のようになる。


さて、実は私が大学院で研究を始めた1989年春、恩師の吉田賢右先生が提示してくれたのが、

(Anfinsenの)ドグマは本当か。

である。そのときの配付資料をもっているので載せてみる。


つまり、タンパク質の可逆的変性ー再生(フォールディング)をHsp(熱ショックタンパク質)が助けている可能性が出てきたので、Hsp研究を始めよう、というものだった。
シャペロンという言葉が使われていないことからもわかるが、セントラルドグマに従ってタンパク質ができると、後は勝手に(自発的に)フォールディングするのだから、今でいうシャペロン的な存在は当時想定されていなかったのだ。(当時シャペロンという概念・用語はちょうど出たばかりでまだ浸透していなかった)

 その後、このテーマでのHsp60(バクテリアのGroEL)を好熱菌から精製するところから研究を始めて今に至る。30年以上に及ぶキャリアの研究テーマでシャペロン以外の研究も行っているが、結局はどれもAnfinsenのドグマに行き着く。

シャペロン:当初、あるタンパク質のフォールディングがHsp(≒シャペロン)に絶対的に依存するなら、Anfinsenのドグマは修正すべきではないかと考えられた。その後の研究で、シャペロンは凝集体形成を防いでフォールディングを助けるのが基本的な役割とわかってきた。つまり、シャペロンはフォールディングに積極的に介入するわけではない、ということだ。とは言え、シャペロン存在下で、フォールディング経路が大きく変化して、自発的フォールディングでは立体構造A、シャペロンがあるとBというようなケースがあるかもしれない。

プリオン:プリオンやアミロイドは元々別の天然構造(もしくは天然変性状態)にあるタンパク質の構造が転換して分子間βシートによる線維状構造(アミロイド)になるという点で、一つのアミノ酸配列から二つの立体構造を取りえる。Anfinsenドグマを「アミノ酸配列はタンパク質の立体構造を一義に決める」と定義すると、それに反する。その考え方がおもしろいと思って1990年代後半から酵母プリオン研究を始めた。

翻訳に共役したフォールディング:Anfinsenが行った実験を端緒とする通常のフォールディング研究では、完成したタンパク質を変性させてからリフォールディングさせる(Anfinsen型フォールディングとしよう)。細胞内でタンパク質(ポリペプチド)が合成(翻訳)される際には、リボソームでN末端からアミノ酸が一つずつ繫がれて合成されてくるので、翻訳途上からフォールディングが始まるのであれば、Anfinsen型フォールディングと同じとは限らないのではないか?という考え方がある。そこで、試験管内翻訳系(PUREシステム)を使ったりして、翻訳時のフォールディング研究をしている。
 既にわかっていることとして、アミノ酸配列にはタンパク質の立体構造の情報だけでなく、自らが翻訳される際の速度調節など翻訳動態の情報も保持している。究極的には同じアミノ酸配列でもコドンの使い方によって翻訳速度が変わって、結果的にフォールディングに影響が及ぶ、という同義置換依存フォールディング研究はこれからの課題の一つだ。

以上、長年憧れ?のAnfinsenさんに遭遇して感激したところから、ライフワークとなる研究の解説までと、思わず長くなってしまった。


2024/01/14

米国土産で作成した「生命のセントラルドグマ」

 昨年3月にアメリカ出張に行った際、NIHに立ち寄った。NIHはNational Institutes of Health(アメリカ国立衛生研究所)の略で、ワシントンDC中心から30分ほどのところにある米国最大の生命科学の研究機関だ。私のような生命科学に携わる人間なら、以前からよく聞く機関で、ポスドクも含めて日本人も多くいる。最近では、アメリカでの新型コロナウイルス対策のヘッドがNIH内のお偉いさんであるアンソニー・ファウチ博士だったので日本のニュースでも名前が流れていた。

NIH内部を案内してもらい、本館みたいなところにあるショップに立ち寄ったらいくつか興味深いモノがあった。一つはファウチ博士のバブルヘッド(頭がぶるんぶるんと動くコミカルな人形)。あちらでのファウチ博士の人気(?)がよくわかる(日本で言えば尾身茂さんのバブルヘッドが売り出されただろうか?)。

もう一つがRNAのぬいぐるみ(?)である。これはGIANT microbesシリーズで、今までもDNAとかプリオン(狂牛病)なんかをCold Spring Harbor(CSH)研究所のショップで購入したことはあるが、RNAは初めて見た。


RNAと言っても、要はメッセンジャーRNA(mRNA)である。一般の方には、RNAはDNAより知名度が劣っていたので以前は商品になっていなかったが、新型コロナウイルスのワクチンでmRNAが使われて、その名が浸透したので売り出したのだと思われる(もしくは前からあったとしても前面に出した)。

既にDNA「ぬいぐるみ」は購入済みだし、タンパク質のおもちゃも多数ある。

そこで、生命のセントラルドグマを作ってみた。


 キレイにできた。タンパク質は、確かMOMAショップで売っていたネックレスを切ったものだ(ということを講義とかオープンラボみたいなところで披露すると失笑が漏れたり、子供の中には記憶に残ることがあるようだ。ただ、環状のタンパク質がない、というのは実はけっこう深いことなのだ。それこそ、セントラルドグマの仕組みを考えると納得がいく部分もあるが)。
 それはさておき、このDNAとRNAを比較すると、性質の違いが見えてくる。そう、DNAは二重らせんだが、mRNAは一本鎖である。あと、この写真から塩基部分についての情報も一部得られるのがわかるだろうか。DNAでは青ー白、黄ー赤(黄赤は隠れているが)がペアになっているということは・・・。

DNAのATGCの4塩基の中でT(チミン)はmRNAではU(ウラシル)が使われるから、
青:A
緑:U
白:T
黄ー赤:GーCかC-Gのどちらか
とわかる。

・・・どうでもいい脱線であった。さらにバリエーションを加えてみよう。まずは、私の専門のタンパク質のフォールディングやプリオンを参加させてみた。フォールディングしたタンパク質もいくらでもある。さらに以前購入した狂牛病、つまり異常構造のプリオンタンパク質も登場させてみた。




本当は、リボソームがあると翻訳(mRNAからタンパク質合成の過程)も示せて面白いのだが、現状のGIANT microbesシリーズは分子レベルのモノが狂牛病と抗体しかないのが残念だ。(microbe(微生物)と言っているくらいだから病原菌とかが多い。狂牛病は「病原体」ということで販売することにしたのだろう)

最後に、「生命のセントラルドグマ」ということで、私が持っているコレクションで登場させたいモノ(人?)があった。
セントラルドグマの提唱者、フランシス・クリックのバブルヘッドである。

クリックのバブルヘッド人形なんてマニアックなのをよく買ったね、と思われるかもしれない。実は、コロナ前に行ったCSH研究所ショップで無料で配っていたのだ。大量に作ったが売れずに在庫処分となったのかもしれない・・・。ワトソンークリックと並び立てられるが、ずっと目立っているのがワトソンであることに異議を挟む生命科学者はいないだろう。ちなみに、CSH研究所はワトソンが長年務めている(今も!)ことでも知られている(少なくともコロナ禍前まではCSHLミーティング途中に開かれるピアノコンサートによく来ていた)。とは言え、ある程度分子生物学の歴史を学んだ人なら、クリックの残した功績がワトソンークリックのDNAの二重らせん構造解明に留まらないのはよく知るところだ。その先見性、考察の深さには感服するよりない。

以上、米国土産で作成したセントラルドグマであった。実は、ドグマはドグマでも私のライフワークに関係するアンフィンセンのドグマについても、昨年3月の米国出張では実りがあったのだった。次回辺りで報告したい。

2023/12/30

シャペロニンもどきの容器と「フォールディング」するメガネ拭き

気が付いたら2023年も年の瀬。このブログを1年以上更新していなかった・・・。

定期的に読んでくれている人がどのくらいいるのかわからないが、このブログをもう閉鎖したと思われているかもしれない。ただ、ときおり、会った人からこのブログの感想をもらうこともある。先日40年数年ぶりに会った中学時代の同級生が、このブログを見ていてくれているということで、感激したこともあり、ネタを披露したい。

実はネタはけっこうあるのだ。今回は、卒業生がくれたシャペロニンもどきの容器とメガネ拭きである。まずは、上方からの写真。



これを見て、何だと思うだろうか? 折り紙で7角形をいくつか重ねたような手作りのモノであり、このブログでの定番中の定番のシャペロニンGroELの7量体的なモノであることがわかる。

横から見ると、次のような容器であることがわかる。


真ん中は透明のプラスチックである。つまり、7角形の透明の「筒」がオレンジの折り紙パーツで閉じるようになっている。これだけでシャペロニンGroEL的だと嬉しくなる。

卒業生からの贈り物はこの「筒」だけでなく、驚きのグッズが付属していた。


形状記憶?のメガネ拭きである。赤い方は鶴、青い方はペンギンのカタチをしている。青い方はペンギンがまだ折りたたんでいないので開いている(変性している)。

つまり、これらの「鶴」や「ペンギン」はシャペロニンの基質タンパク質ということで、開いた状態で7量体オレンジシャペロニンの中で振るとフォールディングするというわけである。その過程を図にしてみよう。



見事にシャペロニンの反応サイクルらしくなった。ステップ3から4は実際には容器を手に持って何回か振ると勝手に「フォールディング」する。そう、シャペロニンの内部でこの「鶴」基質タンパク質は「自発的」にフォールディングしたということだ。

「ペンギン」も入れて、写真を撮ったら万華鏡のように美しくなった。



2022年3月の卒業生たちには、ずいぶんと待ってもらって申し訳なかったが、とても本ブログらしい記事になった。どうもありがとう!

(他にも本ブログのネタになるプレゼントがまだいろいろある。遠からず記事にするのでもう少し待ってほしい・・・)

2022/09/09

近著紹介:実験医学増刊「セントラルドグマの新常識」

 すっかりこのブログの更新をさぼってしまっているが、生命科学に興味のある一般の方々にもお届けできそうな書籍を編集し、7月に羊土社から出版されたので紹介したい。

実験医学増刊「セントラルドグマの新常識」

転写・翻訳の驚きの新機構と再定義されるDNA・RNA・タンパク質の世界

田口英樹,小林武彦,稲田利文/編



 生命のセントラルドグマというと、DNA→RNA→蛋白質、という情報の流れで、生命科学を少しでも学んだことがある人なら誰でも知っている基本中の基本の概念である。今さら、と思われるかもしれないが、セントラルドグマの周辺でびっくりするような面白いことが続々とわかってきている現状を専門家に解説してもらうという実験医学増刊号である。

 羊土社さんからこの増刊号の話しをいただいたきっかけの一つは、2019年に私が編集した実験医学の特集「再定義されるタンパク質の常識」が好評だったということだ。編集者さんが言うには、ふだんの読者層よりも幅広い層に手に取っていただけたそうで、とりまとめた私としては嬉しい限りである。羊土社さんとしては、タンパク質だけでなく、DNAやRNAなどを含めたセントラルドグマで増刊号をということで話しをもらった。とは言え、私はタンパク質周辺(や、最近は翻訳周辺)の新常識なら山ほど紹介できるが、DNA、RNA、複製、転写などはからきし弱い。そこで、私が明るくない分野についてどなたか編者を加えてくれるならぜひ引き受けましょう、ということで、小林武彦さんや稲田利文さんにも編集に加わっていただいた経緯である。結果的に、お二人の先生方に加わってもらい、素晴らしいコンテンツになったと自負している。

この記事を読んで気になった方は、羊土社ウェブで概論部分を「立ち読み」できるので(Amazonの試し読みもあり)、ぜひお読みいただければ幸いである(もちろん、その上でぜひ購入を!)。

 セントラルドグマの周辺が最近どうなっているの?ということを知りたい方々だけでなく、生物系の授業や講義ネタを探している高校などの先生方にもオススメです。

2021/07/12

【論文紹介】3Dプリンターで作ったタンパク質キャンディーを教育に使う(Science Advances)

 本ブログの趣旨にぴったりの面白い論文がScience姉妹誌(Science Advances)に最近出ているのを見つけたので紹介したい。

 3Dプリンタで作成したタンパク質模型を本ブログでたびたび紹介している。中でも、以下に示す「川上モデル」は美しさと質感が最高で、講義、高校での模擬授業などで欠かせない教材(小道具)だ。山形大の川上勝さんが考案した特殊な製法で作られたこの模型は素材のベースがシリコンなので弾力性がある。思わず触りたくなる逸品なのだが、触った人の感想に「グミみたいで食べたくなりますね」というのがある。

→ 制作元:スタジオミダスHP


前置きが長くなったが、実際にグミなどで作ったタンパク質モデルを教育に使うという論文が出た。今回紹介するScience Advances論文は、3Dプリンタで作った「キャンディー」、つまり、食べたり、口に入れるタンパク質模型が主役である。

Visualizing 3D imagery by mouth using candy-like models

Baumer KM et al, Science Advances  28 May 2021: Vol. 7, no. 22, eabh0691

DOI: 10.1126/sciadv.abh0691 (オープンアクセス)

この論文の紹介記事 → Gummy models may be aid for students with vision loss (Nerdist) 

Science podcast (July 8 2021): 3D-printed candy proteins 

 論文の図をそのまま載せることはできないので、ぜひ上記の論文そのもの、もしくは紹介ニュースに載っている図を見てほしい。本ブログを楽しんでもらっている読者なら嬉しくなる図がいくつもある。とりあえずは、3Dプリンタでさまざまなタンパク質模型を1㎝くらい、もしくは米粒大に作ったというのが論文の前段である。

 が、単に3Dプリンタで食べられるタンパク質模型を作ったというだけでは、Science姉妹誌に載らないだろう。本論文の主題は、複雑なタンパク質の立体構造を区別するのに口の中は適していて、触覚や視覚に匹敵するくらいである、というのだ。さらには、視覚障害を持った学生へタンパク質の立体構造を理解してもらうのに触るよりも口に入れてもらう方がいい、ということである。
 実際には、グミキャンディーモデルだけでなく、口に入れてもいいような素材でできたタンパク質模型を作って、被験者に口に入れてもらってテストしている。一種の心理学での実験みたいなものだろう。ちなみに、この論文のジャーナルでのカテゴリーはNeuroscienceになっている。

 この論文を知ったのは、たまに聴いているScienceのポッドキャストに取り上げられて筆頭著者の大学院生がしゃべっていたからだ。基本的には、その院生の思い付きでのキャンディープロジェクトが発展したということのようだ。こういう一般の方へのアウトリーチ的な内容でもアイディア次第でインパクトのある論文に仕上がるのだなぁという感想も持った。

私も何かできることがあるかもしれない。


2021/05/16

中国からのシャペロニン7量体もどき土産

  少しずつブログネタがあったのだが、下書きのまま公開せずそのままにしていた。

特に、お土産や記念品としてもらっていたものがたくさんあって申し訳なく思っていた。最近、ウェブサイトをリニューアルしたりして、宣伝活動モードになっているので、少しずつ紹介していきたい。

まずは、現在私のラボで今春から博士研究員になった野島達也さんからのお土産である。と言っても、野島さんが中国で職を得ていた1年半ほど前(コロナ禍になる前)、一時帰国した際にもらったものだ。

本ブログでの長年の鉄板ネタの一つ、シャペロニンGroELの7量体もどきということで、7角形の品々である。


3ついただいた中で写真の左に置いたメタルな7量体は、ハンドスピナーの一種でくるくる回る。回ってもきちっと7つが見えますね。





残り二つ、赤と黒の物体はネジらしい。何で7角形になっているのかは不明だ。野島氏が言うにはネットで7角形の何かを探して見つけたということだ。

2つ重ねてダブルリングにしてみたのがこちら。



このダブルリングの上で7量体スピナーを回してみたのが下の写真。GroELのパートナーであるGroESも7量体なのでスピナーをGroESに見立てるとGroEL7-GroEL7-GroES7になって、非対称の弾丸型複合体となる(ちょっとGroESが大きく頭でっかちだが)。赤と黒を微妙にずらして重ねているのは、実際のGroELダブルリングでもそうなっているからである。


さて、タンパク質の回転と聞いてニヤッとする人がいるかもしれない。タンパク質の中にはATP合成酵素(F1-ATPase)のように回転するものもあるが、GroESがGroELと結合しつつ回転するということは知られていない(少なくとも今までの知見では)。

こうやって書いてみると、モノとしての質感もステキだし、動きもあってブログネタとして好適であった。早い投稿を心がけないといけない・・・。

いずれにせよ、野島さん、おもしろいモノをありがとうございました。


2021/04/24

「マルチファセットプロテインズ」的なランプのギフト

 いつの頃からか3月に行われる送別会にて卒業生が記念品をくれるようになった。今年はコロナ禍のため送別会自体は当然中止だったが、記念品は準備してくれていてラボで渡してくれた。

カラフルなランプである。


と言っても、売り物をそのまま買ったモノではない。

骨組みだけのランプシェードにカラフルなセロハンを貼り付けてくれた手作りだ。ステンドグラスみたいにも見えるが、これはマルチファセットプロテインズの申請時から象徴的に使っていたカラフルな宝石をモチーフに作ってくれたということでたいへん嬉しいプレゼントである。かたちが立体的というのもたいへん好みだ。




もちろんランプとして光ってくれる。




よーく見ていると、だんだんと自分が好きなアレに見えてきた。7量体リングからなるシャペロン、シャペロニンGroELである。基本は六角形なのだが、傾けたり、いろいろしていると、角度によって7量体になるのである(ちょっと無理やりだが・・・)。学生たちもそこまでは考えていなかっただろう・・・。



ついでに言えば、GroEL研究も続けています。


2021/01/13

学術変革領域 (A)「マルチファセット・プロテインズ」がスタート(キックオフミーティングのお知らせ)

  今年度から発足した科研費学術変革領域 (A)にめでたく採択された。

マルチファセット・プロテインズ:拡大し変容するタンパク質の世界

という領域である。


マルチファセット・プロテインズ

領域概要:この数年間での発見や技術革新により、従来のタンパク質像が揺らいでいる。例えば、非典型的な翻訳が普遍的に起こるため、タンパク質の種類は急激に増加している。また、細胞内でのタンパク質の機能発現様式も多様であることがわかってきた。つまり、タンパク質の世界において従来見えていなかった多くの面(マルチファセット)が見えはじめている。この拡大し変容しつつある真のタンパク質像を理解するためには、マルチファセットにタンパク質の世界を捉えなおす必要がある。そこで本領域では、突出した成果をもつ研究者を束ねて融合研究を推進することで、従来のタンパク質に関する固定観念を刷新し、未踏のタンパク質世界を開拓することを目的とする。あらゆる生命現象に関わるタンパク質の描像を変革し、生命科学のパラダイムシフトに貢献する。


領域のウェブサイトを仮オープン(→http://proteins.jp)したので、もう少し詳しく知りたい方はそちらを見てほしい。

なお、領域発足に当たってキックオフミーティングをZoomウェビナーで1月26日(火)に開催する運びである。以下がその案内。

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文部科学省科学研究費補助金・学術変革領域研究 (A)
「マルチファセット・プロテインズ:拡大し変容するタンパク質の世界」キックオフミーティングのお知らせ

 この数年間での発見や技術革新により、タンパク質の世界において従来見えていなかった多くの面(マルチファセット)が見えはじめています。本領域では、この拡大し変容しつつある真のタンパク質像を理解するためにマルチファセットにタンパク質の世界を捉えなおすことで、従来のタンパク質に関する固定観念を刷新し、未踏のタンパク質世界を開拓することを目的としています。
 本領域の発足にあたり、以下のようにキックオフミーティングをオンラインで開催し、領域概要、公募研究について説明しますので興味ある方はふるってご参加ください。
領域代表 田口 英樹(東京工業大学)

日時:2021年1月26日(火)13:30-15:55

Zoomウェビナーによる開催(事前登録制、参加費無料)
登録用URL https://zoom.us/webinar/register/WN_WU321LHSSKaIR3qrZBVjxQ
・第1部(領域概要・公募説明)は録画した内容を後日HPにて公開予定です。
・質疑応答はZoomのチャット機能にて行います。

【第1部:領域概要・公募説明】
13:30-13:50 領域概要説明(領域代表:田口 英樹)(録画)
13:50-14:00 公募研究について(領域代表:田口 英樹)(録画)
14:00-14:10 質疑応答
休憩
【第2部:計画研究概要説明】
14:20-14:30 田口 英樹(東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター)
「非典型的な翻訳動態の多様性・普遍性と分子機構」
14:30-14:40 千葉 志信(京都産業大学・生命科学部)
「機能性翻訳途上鎖の生理機能と分子機構」
14:40-14:50 永井 義隆(近畿大学・医学部)
「新規AUG非依存性RAN翻訳の分子機構とその神経変性病態における役割」
14:50-15:00 松本 有樹修(九州大学・医学部)
「ノンコーディングRNAから産生されるタンパク質の生理機能」
休憩
15:10〜15:20 遠藤 斗志也(京都産業大学 生命科学部)
「細胞内タンパク質の多重局在とその制御機構の解明」
15:20〜15:30 松本 雅記(新潟大学 医歯学系)
「未開拓プロテオームの同定・定量技術の開発」
15:30〜15:40 渡邉 力也(理化学研究所)
「未開拓タンパク質の1分子計測技術・デバイス開発」
15:40〜15:50 太田 元規(名古屋大学 情報学研究科)
「未開拓タンパク質データの収集・特徴抽出・予測」
15:50〜15:55 閉会あいさつ(領域代表:田口 英樹)

閉会後にも質疑応答時間を設ける予定です。

問い合わせ先:

領域関連:田口英樹  taguchi@bio.titech.ac.jp
本ミーティング関連: multifacetedproteins@gmail.com
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文部科学省科学研究費補助金・学術変革領域研究 (A)
「マルチファセット・プロテインズ:拡大し変容するタンパク質の世界」(略称:多面的蛋白質世界)
(2020-2024年度:領域代表 田口英樹 東京工業大学・科学技術創成研究院)
領域ウェブサイト http://proteins.jp
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2020/04/18

文庫版出版「池上彰が聞いてわかった 生命のしくみ 東工大で生命科学を学ぶ」」(追加コンテンツあり)

 2016年9月に共著で出版した書籍が文庫化されて今月初めに販売を開始している。


 「池上彰が聞いてわかった生命のしくみ 東工大で生命科学を学ぶ(朝日文庫)」
 著:池上彰, 岩崎博史, 田口英樹(朝日新聞出版)
    → amazon.co.jp → 出版元のサイト(「立ち読み」あり)、

 みなさんご存じの池上彰さんが生命のしくみに関する質問を東工大の同僚教授の岩崎博史さんと私に投げかけて、回答していくことで、生命科学の基本をわかりやすく知ることができる一冊である。

 文庫化と言っても、以前の書籍をそのまま文庫化したのではない。この3年ほどの間に大きく進展した内容を盛り込もうということで、あらためて池上さんと大岡山で対談して内容をアップデートしている。特に、CRISPR-Cas9の登場で進展著しいゲノム編集については新たに章を設けている(第5章)。他にも、抗体医薬(バイオ医薬)やiPS細胞などについて最新の内容を追加コンテンツとして加えている。

 これを書いている2020年4月18日現在、日本を含めて世界は新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大で日常が大きく変わってしまっている。
 そのような中で、生命のしくみの基本を多くの方に知ってもらうのは重要であると思うし、実際、今まで以上に生命科学のリテラシーが必要な世の中になっているのは間違いないだろう。
 文庫化の準備は半年以上前から行っていて池上さんとの対談も昨秋に行ったのでウイルスに関する詳細な記載はないが、生命とは何かを説明する際に「ウイルスって生き物なんですか?」という池上さんの問いかけがある(文庫の帯にその質問が入っている)。

 このブログは生命科学の専門家の方が読んでいる人が多いと思うが、周囲に勧めていただければ幸いである。

ーー以下、コンテンツ紹介ーーー

出版社からのコメント
「ウイルスって生き物なんですか」
――「生き物とは何か」という定義を学ぶことで、ウイルスの不思議な性質も理解できます。

「生命って、実によくできているなあ! 」と池上さんも感嘆した、
驚くべきしくみとは。
生きること・死ぬこと、そして遺伝子からゲノムまで、
生命科学のすべてがこの一冊でまるわかり!
池上さんが質問し、最先端の研究をしている東工大の教授が解説します。

ノーベル賞受賞・大隅良典氏との特別対談も収録!

【目次】
第1章 「生きているって、どういうことですか」
・ウイルスは生物ですか など

第2章 「細胞の中では何が起きているのですか」
・タンパク質は何をしているのですか など

第3章 「死ぬって、どういうことですか」
・老化するとはどういうことですか など

第4章 「地球が多様な生命であふれているのはなぜですか」
・秘境、深海、そして地球外に未知の生命はいますか など

第5章 「ゲノム編集は私たちの未来を変えますか」
・中国のゲノム編集ベビーはどこが問題なのですか など

ノーベル賞受賞・大隅良典氏との特別対談
「どうして今、生命科学を学ぶのですか」

内容(「BOOK」データベースより)
「生命って、実によくできているなあ!」と池上さんも感嘆した、生命の驚くべきしくみとは。生物の基礎から、ノーベル賞受賞の「オートファジー」のしくみ、遺伝子からゲノムまで、生命科学のすべてがこの一冊でまるわかり!池上さんが質問し、最先端の研究をしている東工大の教授が解説。ノーベル賞受賞、大隅良典氏との対談を収録!
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2019/12/10

キューブパズルに着想を得たフォールディング論文(by 郷信広博士)

今回はごく最近出版された論文紹介をしたい。内容は、本ブログで何度も登場しているキューブパズルに着想を得た本格的な蛋白質フォールディングの論考で、著者は郷信広 京大名誉教授の単著である。

Snake cube puzzle and protein folding
Nobuhiro Go
Biophysics and Physicobiology, Vol. 16, pp. 256–263 (2019)
doi: 10.2142/biophysico.16.0_256 (無料でpdfダウンロード)


日本語版(2021年3月追記)
Snake Cube Puzzleとタンパク質フォールディング
郷 信広
生物物理 61, 005-011 (2021)
https://doi.org/10.2142/biophys.61.005(無料でpdfダウンロード)

日本の生物物理のパイオニアのお一人で蛋白質フォールディングのシミュレーションの世界的な先達である郷先生の論文はどんな内容なのか。論文を紹介する前にいくつか背景を書いておこう。(パズルのことと郷先生の功績をよく知っている方は飛ばして下へ)

スネークキューブパズル
【背景1:キューブパズル】
キューブパズルは27個のパーツを折りたたんでコンパクトな3×3×3の立方体に戻すパズルである。パズルをばらすとヘビみたいなのでスネークパズルとかコブラパズルとか呼ばれることもある。蛋白質に見立てると、ヘビの状態でくねくねといろんなカタチを取り得るところが蛋白質の変性状態に似ている。このヘビを折りたたんで3×3×3のキューブにした構造が蛋白質でいう天然構造である。

最後にキューブになるのはどれも同じだが、経路はいろんなバリエーションが売っている。私のコレクションは10種類ほどあるが(注1)、そのいくつかの「変性」状態と「天然」構造を写真にて紹介する。

#ブログでの紹介例
経路の違うフォールディングパズル(2010年12月)
新規フォールディング経路のキューブパズル(2018年9月)


 【背景2:蛋白質フォールディングの整合性原理とGo(郷)モデル】
Wikipedia(folding funnel)より
蛋白質の立体構造形成、すなわちフォールディング(折りたたみ)の基本は、アミノ酸配列さえ決まれば蛋白質の立体構造は一義に決まる、というものである(Anfinsenのドグマと呼ばれる)。別の言い方をすると、蛋白質フォールディング反応は自発的、熱力学的に言えば、ギブズの自由エネルギー(ΔG)が負ということである。これを概念的に図示する場合、よく使われるのが右に示すようなフォールディングのエネルギー地形で、フォールディングをファネル(漏斗)に例える。この「漏斗」の上方はさまざまな変性状態が集まっていてエントロピーが大きい状態で、下へ落ちるにしたがって少しずつΔGが小さくなっていく(図の上ほどエネルギー大)。最終的にΔGが最小になったところ(漏斗の一番下のとんがった部分)でフォールディングは完了して天然構造となる。
  このファネル理論は米国の研究者たちが1990年代に使い出したものだが、その源流に郷先生が1983年に提唱した「整合性原理(consistency principle)」があり、Go(郷)モデルと呼ばれることもある。整合性原理は「タンパク質は天然構造において2次構造と3次構造すべての相互作用が整合して全体を安定化している」という考え方である(この原理の解説を多数著している京大理学研究科の高田彰二さんの表現:注2)。要は、漏斗のどこでも下へ向かって落ちていって最終的に一番下の天然構造に向かっていくということとも言える。

【論文の内容紹介】
 前置きが長くなったが、今回紹介する郷先生の論文は日本生物物理学会が刊行している「Biophysics and Physicobiology」誌の郷先生80歳記念の特集に郷先生自らが寄稿したフォールディングに関する論考である。
 ざっくりと言えば、このパズルでの27個のパーツをどのような「配列」にしたときに、3×3×3の立方体にフォールディング可能か、また、そこから出発して、このパズルに「疎水性相互作用」を導入するなどして、蛋白質らしさの本質とは何かを考察している。

 「配列」と言っても20種類のアミノ酸が並ぶ配列ではない。その説明のために図解を付けてみる。


 先にも見せたキューブパズルは同じ配列ではない。黄色(A)、青色(その下の濃淡の茶色も同じ配列:B)、薄い茶色(C)の三種類は並び方が違うのがわかるだろうか。
 例として、黄色(A)で説明する。27個のパーツの末端2つを e (end)、内部の25個は折れ曲がる部分をb(bend)もしくは3つ直線に並ぶ真ん中をs(straight)と定義する。この場合、黄色パズル(A)の「配列」は

esbsbbbbsbbbbbbbbsbbbsbbbse 


となる(注3)。

こう考えると、eは置き場所が決まっていて、内部の25個で b s の2通りがあり得るので、配列の場合の数はトータルで2の25乗(3300万種類ほど)となる。
 この総数の中で3×3×3のキューブ型に折りたたむことが可能な「配列」を全て計算で求めたところ、22,897種であった。つまり、あり得る配列空間の中のたった約0.07%(=22,897/2の25乗)のみが折りたたみできる、ということである。
 この中には(3×3×3のキューブ型にはなるものの)複数の折りたたみ構造をもつ配列も多数あるが、7,268種の配列はその折りたたみ構造が特異的(ユニーク)であった。写真の3種類はいずれもユニークな配列だった。(私の感想としては、このキューブパズルで商品化されている「構造」はごくごくわずかであると言えよう)。

 実はこの辺りの論考は既に世界のパズルマニアが似たような計算をしているということだ(例えば Jaap's Puzzle Pages)。そこで、郷先生はパズルをより蛋白質らしくしていく。このスネークパズルは幾何学的に3×3×3を実現するという点でファンデルワールス(van der waals: VdW)力をベースにしているとも言えるが、それとは別に疎水相互作用(hydrophobic interaction)を導入したHPパズル、さらにHPパズルとファンデルワールスを組み合わせた複合(compound)パズルを考案して、これらのパズルの蛋白質らしさについて議論している。実際の蛋白質は20種類のアミノ酸が数百、数千並んで複雑な立体構造になるが、ここで示したように単純なモデルにすることで、蛋白質とは何かという本質を抽出した論文であると言えよう。途中、郷先生自らによる整合性原理の解説も含まれている。
 興味をもった方は論文pdfをダウンロード(無料)してぜひ読んでほしい。

 さて、ここからは余談である。この論文はつい最近、今年秋に公開されたが、実は2年ほど前に郷先生がこのような論考をしていることを知った。私は2002~2006年までJSTさきがけ研究者に採択いただいたが、その際の研究総括が郷先生であった(「生体分子の形と機能」領域)。その領域の同窓会が2年前に開催され(注4)、それぞれの近況を短い時間で話す機会があり、そこで郷先生自らが発表したのがこの論文の原型となる内容だった。フォールディング理論のパイオニアの郷先生自らがキューブパズルに着想を得て話しはじめたのだから聴き始めた私が驚いて鳥肌が立ったのは言うまでもない。しかも、キューブパズルは東寺のがらくた市で見つけて入手したということでなお嬉しくなった(注5)。
 その同窓会での私の発表でもイントロでキューブパズルを使っていたこともあり、郷先生に、私のブログでさまざまな経路のパズルを紹介しています、と伝えていた。その際にお教えした3種類の経路のパズル(上記のパズルA~C)が、今回の論文の中でユニークな配列の例として実際に使われている。つまり、私自身もこの論文に少し影響を与えたというのは実に光栄なことである。

以上、このように複雑な事象を単純化して本質を抽出し、さらにそこから複雑な事象に洞察を与える、という研究を自らも進めてみたい。

2019/11/02

「相分離生物学」(白木賢太郎著)の書評(現代化学誌)

 この数年の細胞生物学の最大のホットトピックスは「液-液相分離」である。

 細胞内でタンパク質はいつも均一に溶けて分散しているわけではなく、状況に応じて相分離して、周囲から独立に存在する液滴(ドロプレット)になりうる。
 と書いてもピンと来ないかもしれないが、日常生活で言えば、ドレッシングで酢(水)と油が分離している状態は相分離している状態である。
 サイエンス誌の2018年の「ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー」の一つのトピックスでもある(→和文解説)。液-液相分離は英語でLiquid-Liquid Phase Separationなので頭文字を取ってLLPSと呼ばれることも増えている。 
  
 この液滴は熱力学的に安定な状態へと相分離してできているだけなので界面に膜はない。このため、細胞内での液滴は「膜のないオルガネラ(Membrane-Less Organelle)」と呼ばれることもある。つまり、脂質膜を持たずに細胞内で隔離された部屋(コンパートメント)を作ることができるのである。液滴はタンパク質だけでできるとは限らず、RNAや他の生体成分を含むことが多い。

 これまで細胞内のタンパク質は溶けているか、アミロイドも含む凝集か、というのが主な存在状態だったと言えるが、そこに液-液相分離でできた液滴もある、ということがわかってきたのだ。この数年、この現象、あの現象、さまざまな生命現象に液-液相分離が適用されることがわかってきた。ということで、細胞内でのタンパク質を研究している人たちにとって相分離現象は今後無視できない状況になっている。

さて、国内で液-液相分離の伝道師として大活躍しているのが筑波大の白木賢太郎さんである。最近、「相分離生物学」を出版して好調な売れ行きだそうだ。
前置きが長くなったが、その書評を「現代化学」2019年11月号に書き、東京化学同人ウェブサイトに全文がpdfで公開されているので紹介したい。

「相分離生物学」(著:白木賢太郎)の紹介ページ
→ 書評「相分離メガネをかけてタンパク質を見直そう」(田口英樹)への直リンク(pdf)



ちなみに私たちのラボでも野島達也博士(中国・東南大学)との共同研究で一つ液-液相分離の研究を今年一つ出している(→ Nojima T et al Biomacromolecules 2019

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これを書きながら思いだした。
今年の「現代化学」にタンパク質の折りたたみやシャペロンなどに関する入門記事「拡がるタンパク質の世界」を執筆したのだった(→現代化学2019年7月号)。生命科学を専門としていない読者向けに丁寧に書いたつもりだ。こちらは記事の内容をウェブでは読めないので、読みたい方はバックナンバーを購入いただければ幸いである。


2019/10/24

「実験医学」誌の特集を企画:「再定義されるタンパク質の常識」

すっかりご無沙汰しているこのブログだが、最近の活動を宣伝したい。

実験医学誌の特集の企画を担当させてもらった。(実験医学2019年11月号)

題して「再定義されるタンパク質の常識


目次は以下の通りである。
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再定義されるタンパク質の常識〜古典的なセントラルドグマの刷新と未開拓のタンパク質の世界
企画/田口英樹
概論―従来のタンパク質の常識を超えて拡がる未開拓のタンパク質世界【田口英樹】
翻訳途上で機能する新生ポリペプチド鎖【千葉志信,田口英樹】
リボソームプロファイリングによる網羅的翻訳解析の最前線【木村悠介,岩崎信太郎】
質量分析による未開拓プロテオームの探索【松本雅記】
神経変性疾患にかかわるリピート関連非ATG依存性翻訳と低複雑性ドメイン【上山盛夫,永井義隆】
天然変性タンパク質:既知のこと,未知のこと【太田元規,福地佐斗志】
液-液相分離による酵素連続反応【浦 朋人,白木賢太郎】
合理デザインによる新規タンパク質の創出:現状とその可能性【小杉貴洋,古賀理恵,古賀信康】
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私が読者だったら読みたいトピックスに関して研究を展開している方々に原稿を依頼して書いていただいた。タンパク質の新しい常識について幅広く知っていただける内容になったと自負している。

研究室で購読していれば既にお手元に届いている頃だが、まだの方は、私が冒頭に書いた概論はオンラインで無料で読める。

概論―従来のタンパク質の常識を超えて拡がる未開拓のタンパク質世界【田口英樹】

私が考えるタンパク質研究の歴史についての総説(特にタンパク質フォールディングを起点とした内容)にもなっているので、興味ある方はぜひご覧ください。

同誌には、10年近く年に二回、注目論文の解説コラムを執筆してきており、ときおり編集者の方々と意見交換をしてきた。その中で、最近私が考えているタンパク質の見方について披露したら面白がってくれて特集になった、という経緯である。

表紙には、マイコレクションのキューブパズルを使っていただいた。
主にパズルが崩れた状態(タンパク質の変性状態)や絡まった状態(タンパク質凝集体)の写真なので、全部完成した状態(フォールディングした構造)を付けた写真を撮ってみた。



おまけで、キューブパズルでの7量体構造。



2019/01/06

シャペロニン7量体的なギフト

前回の続きを書くといいつつ、そのままになっていた。

その間にもブログのネタが持ち込まれたので紹介したい。シャペロニンタンパク質に関するサイエンスの内容も少し含むはずである。

先月、お茶の水女子大附属高校でのウインターレクチャーというのを担当することになり、「タンパク質は "かたち"がいのち」と題した講義を高1、2生向けにした。そのあと、お茶大の佐藤敦子さんがホストで大学学部生や院生などにセミナーし、さらにラボでの忘年会にもお誘いいただいた。

楽しい時間を過ごし、そろそろ帰ろうかというときにプレゼントがあるという。佐藤さんいわく、「田口さんのためと思って探してきたモノです」と。

開けてみると、中にはニンニクが一個入っていた・・・。
おや、と思って、よく見ると、ピンときた。で、房を数える。

1、2,・・・・7!

つまり、房が7つのニンニクということで、私が長年研究している7量体リングからなるGroELもどきだったのだ(注1)。



うれしくなって感謝を述べ、その場でかじるわけにもいかないので、家に持ち帰り、料理に使わせてもらった。

さて、この7量体ニンニクを見ながら、ちょっといびつだよなぁって思ったところで、思いだした私たちの以前の研究がある。

それは、好熱菌のシャペロニン複合体の構造を決めたら、大腸菌のGroELと違って、7回対称が崩れてていびつだったのだ(Shimamura T. et al, Structure 12, 1471-1480, 2004 当時まだイギリスにいた岩田想さん、島村さんらとの共同研究)。なぜ対称でなくひずみが出たかというと、それはこのシャペロニン複合体には基質タンパク質が空洞内に詰まっているからだという結論である(注2)。

Shimamura T et al. Structure 2004より抜粋。左が好熱菌GroEL/ES複合体のGroEL部分。対称性が崩れていて、二種類の構造(I型とII型)の混合となっている。右側は大腸菌のGroELで7回対称のリングである。

最初に論文を投稿した際、レフェリーにこのいびつな構造が信じてもらえず、苦労したのだが、その後、電顕での構造でも同様の7回対称の崩れが確認された(Kanno R et al, Structure 17, 287-293, 2009 光岡薫さんらとの共同研究)。

Kanno R. et al, Structure 2009より抜粋

さらには、他のグループも最終的には非対称なGroELリングを認めて論文に載せている(例えば、Chen D-H et al Cell 2013)。

Sakikawa et al JBC 1999より
GroELは空洞内に基質タンパク質を閉じ込めた際、閉じ込めたタンパク質によってはけっこう窮屈だということは以前の研究から予想されていたが(例えば、私たちの Sakikawa C et al J Biol Chem 1999
など)、実際GroELのカゴ構造にまで影響を及ぼしているということを意味する。

ということで、ニンニクを眺めながらGroELに思いを巡らさせてくれた佐藤さんに改めて感謝したい。


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注1:通常のニンニクの房の数がいくつくらいなのかよく知らないが、6~10房くらいだろうか。

注2:ついでに言えば、その論文では、空洞内に閉じ込められた好熱菌シャペロニンの基質タンパク質20数種類の同定も質量分析で行った。


2018/09/16

新規フォールディング経路のキューブパズル

前回のブログエントリーにてフランスの学生から立体パズルをもらったことを書いたばかりだが、帰国したその学生から、お礼ということで二つ気の利いたモノをもらった。


下に写っているのは、ルノワールの「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」のマグネット。オルセー美術館のショップで買い求めてくれたらしい。
この中心の貴婦人が「シャペロン」であるというのがシャペロンの解説の定番?である。最近では昨年ブレークスルー賞(賞金300万ドル!)を受賞した京大の森和俊さんが受賞時の記者会見でこの絵を使ってシャペロンのコンセプトを説明していた(→記者会見のようすの写真)。


さて、本題はおなじみのキューブ型のパズルである。私にはタンパク質のフォールディングに見えて仕方が無いという代物で、このブログでも何回も登場してもらった。

キューブを崩すと、右のようになる。タンパク質になぞえれば完成した3×3×3の状態が「天然構造」、ほぐしたあとは「変性状態」である。

学部1年生向けの講義や高校生向けの出張講義などでもタンパク質の立体構造形成(フォールディング)を知ってもらうために大活躍してもらっている。

と書くと、このパズルはもういいよ、と思われるかもしれないが、ちょっと新しい点があった。

崩したあとに、完成させるのが難しいのである。

この手のパズルを入手したあと、研究室のみなが集まる部屋に置いておくのだが、このパズルは数日経っても学生たちが誰も解けない。

このパズルは完成型は3×3×3のキューブで同じように見えるが、実は経路がさまざまである。

この写真の左下が今回もらったパズルだが、それ以外に何種類ももっている。
右下は一番最初に入手したもので、今では目をつむっていても解ける。その右下のと、奥のカラフルな中の青色は同じ経路だが、他のは全部作りがちがう。

以前のブログエントリーに経路の写真を全部載せている(→経路のちがうフォールディングパズル)。

今回いただいたパズルの作りを見てみよう。

一番下が、今回もらったパズルだ。その上の以前からあるのと違うのがわかるであろう(下から二番目と青色は同じ作り)。

なぜ難しいかというと、新しいのは可動部が多いからだ。

下から二番目と青色のを例に取ると、3つパーツが並んでいる部分が9ヶ所あるが、新しいのは、3ヶ所しかない。つまり2つ連続部が多いので可動部が多いのである。可動部が多いほど取り得る「変性状態」の場合の数が多くなるので、パズルとしての難しさが高まるのである。

タンパク質のフォールディングと通じるものがある。

この話しには続きがある。ちょっと確認しないといけない内容もあるので、確認が取れたら続編をいずれ書いてみたい。

2018/08/05

フランス産の立体パズルを手土産で

いまラボに一種の共同研究でフランスの大学から修士学生が2ヵ月ほど来ている。

来日後、研究室にお菓子を持ってきてくれたあと、私にもお土産があるということで何かと思ったら、フランス産の立体パズルであった。 袋を開いた瞬間、顔がほころびたいへん喜んだのは言うまでもない。気の利いた手土産だ。


この学生Nさんは、昨年一度打ち合わせで来日し、私のオフィスに来ている。
そのときに、オフィスにところ狭しと並んでいるパズルやおもちゃが印象的だったのか、このブログを見ていたのかは聞いてない。が、私の趣味をきちんと理解してくれていたみたいで嬉しい限りである。


 左側のは、組み木パズル。つまようじみたいな細い棒を抜くと太めの棒がバラバラになって、それを対称性の高い立体に戻す。

似たようなパズルはもっていて、だいぶ前に一度紹介したかもしれないが、そのときのパズルはパーツが散逸して二度と戻らなくなっている。






もう一つのは一見おなじみのキューブパズルだが、拡げるとロボット的になるというパズル。

これも同様のを以前紹介したなと調べるともう5年ほど前に載せていた。「キューブ型パズルと思いきや・・・





崩すと、こんな感じになる。一本のヒモ状ではなく枝分かれ構造である。



実は、このキューブ型ロボットパズルは、
今年の5月にアメリカに行った際のMOMAでも新調して、ラボに置いていた。
 学生が、その「兄弟」と一緒に肩車した状態で飾ってあったのが、右の写真。


Nさん、ありがとうございました!

これを読んでいる皆さんも、こんなおもちゃやパズルがありますよ、という情報があったらぜひお寄せください。もちろんお土産も歓迎します。