2012/07/09

eSOLデータベースにシャペロン効果の網羅解析も追加

以下のエントリーに書いたシャペロン効果の網羅解析には全データをワークシートにまとめたサプリメントデータがあるので全体を解析したい方はぜひダウンロードを。

さらに、以前の大腸菌タンパク質の凝集形成の網羅解析(Niwa et al, PNAS 2009,解説論文pdf)の際に作ってもらったデータベース(eSOL: Solubility database of all E.coli proteins)にシャペロンのデータも追加してもらった。

http://www.tanpaku.org/tp-esol/

インターフェースも大幅に改善されてさらに使いやすくなったのでこちらも活用してほしい。

以下、このデータベースに関する解説の転載

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この実験で得られたデータセット(約800個×3種のシャペロンの効果)は、シャペロンの作用機構の詳細な解析や、タンパク質一般に広く通用する凝集になりやすいタンパク質の可溶化手法の確立に向けた研究に役立つことが期待されます。タンパク質の可溶化法の一般則が見いだされれば、抗体医薬などの創薬やタンパク質の工業的利用などの分野に非常に有用な知見となります。
本研究で得られたデータセットはパブリックデータベースとして一般に公開されており、大学、企業を問わずタンパク質を用いた基礎研究・応用研究に広く利用されることが期待されます。

データベースの名称:eSOLデータベース
http://tp-esol.genes.nig.ac.jp/

eSOLデータベースは国立遺伝学研究所の菅原秀明教授らによって作成、運営されています。
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2012/07/08

シャペロン効果の網羅解析

シャペロンはタンパク質のフォールディングを助ける。

ただ、多数あるシャペロンがどのタンパク質のフォールディングでも助けるかというとそういうことはない。何らかの「好み」があるらしいが、よくわかってない部分である。
そこで、あるシャペロンがどのようなタンパク質に効果を発揮するかを調べるのが最近の研究の流れの一つとなっている。
たとえば、細胞(大腸菌)内でシャペロンがどのようなタンパク質を助けているのか、つまりシャペロンの基質タンパク質探索、については我々もシャペロニンGroELにて60個弱のGroEL基質タンパク質を2010年に同定している(Fujiwara et al., EMBO Journal, 2010、Full Text(Free)日本語解説)。

前置きが長くなったが、最近我々が論文にした内容を紹介したい。
800種もの凝集しやすいタンパク質についてGroELやDnaKなどの主要シャペロンがどのように効果を持つかの網羅解析を試験管内で行ったのである。

以下、「タンパク質の社会」ウェブサイトに解説を書いたのでここに転載する。

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分子シャペロンが多数の不溶性タンパク質の折れたたみを助けることを実証

"Global Analysis of Chaperone Effects Using a Reconstituted Cell-Free Translation System"
Tatsuya Niwa, Takashi Kanamori, *Takuya Ueda and *Hideki Taguchi
Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2012, 109, 8937-8942

概要

東京工業大学大学院生命理工学研究科の田口英樹教授ら、東京大学大学院新領域創成科学研究科の上田卓也教授らは、細胞内でタンパク質のフォールディング(立体構造形成)を助ける「分子シャペロン」というタンパク質の効果を網羅的に調べ、細胞内でシャペロンが助けるタンパク質のフォールディングの全体像を試験管内で再現しました。

上田教授らが開発した特殊な試験管内タンパク質合成手法(PUREシステム)を利用することで、約800種類もの水に溶けにくいタンパク質のほとんどが大腸菌の主要シャペロン2種類(GroEL、DnaK)のどちらかによって溶けるようになること、Trigger Factorというもう一つのシャペロンを加えた3種のシャペロンを同時に作用させるとほぼすべての溶けにくいタンパク質が溶けるようになることが明らかとなりました。

この実験から得られた大規模データセットは、細胞の中で働くシャペロンタンパク質の作用機構の解明だけでなく、扱いが困難だったタンパク質を扱いやすくする手法の開発にもつながり、バイオ医薬品開発などにおけるタンパク質の応用利用などにも貢献しうるものです。



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