2011/10/09

膨潤して空洞が大きくなるおもちゃ


 研究室で旅行に行った折りにぶらりと入ったおみやげ屋さんにて、一つネタがころがっていた。





 前に紹介したスイッチピッチに似ているかな。

 特に模様が反転したりするというわけではなく大きく膨らんだり、小さく折りたたまれたりする、というおもちゃである。

2011/10/06

Foldit 再び

先日の投稿にて本ブログのページビューがある週に見たこともない数字になったと書いた。年間ページビューの半分くらいが一週間に集中したのだから驚いた。
理由が気になったので、どこから飛んできて、どのエントリーを訪問したかをチェックしたところ、2ちゃんねるからFolditの解説ページ(2010/01/032010/08/052010/10/11)を訪問するケースが圧倒的に多いことがすぐに判明した。


もう少し調べると、最近Nature Struct. Mol. Biol.(NSMB)誌に出たFolditに関する論文(NSMB,18, 1175-1177, 2011 フリーアクセス)が2ちゃんねるにて取り上げられ、その中でこのブログにリンクが貼られていたのである。

【分子生物】ゲーマーの恐るべき創意工夫能力…ゲーム愛好者らが酵素の構造を解析/米ワシントン大

ということで、Folditの続報がNSMB誌に出ていることは知っていたし、とある科学雑誌から取材もあったのだが、2ちゃんねるでまで取り上げられているとはまったく知らなかった。

そのNSMB誌の論文タイトルは

Crystal structure of a monomeric retroviral protease solved by protein folding game players

訳すと「タンパク質フォールディングゲームのプレイヤーによって解明された単量体レトロウイルスプロテアーゼの結晶構造」。ごく簡単に言えば、オンラインフォールディングゲームFolditで結晶構造を決める最終段階をパズルとして出題したところ、これまでコンピューターでうまく解けなかった構造が決まった、というようなものである。David Bakerグループの論文であるが、著者の途中には Foldit Contenders Group, Foldit Void Crushers Group とあり、この2者はFolditでプレイするゲーマー集団ということだ。

内容としては、X線結晶構造解析の際に用いられる分子置換法がうまく行かなかったケースにFolditで粗いモデルを出題したところ、X線回折データによく合う立体構造をゲーマーたちが3週間で決定した、というものだ。

インパクトとしては前のNature論文の方が高いと思う。が、今回は難問だったタンパク質の立体構造を最終的に決定するお手伝いを「リアルに」行ったということでNSMB誌に掲載となったのであろう。考察では、創薬などにも活かせるのではないかということで締めくくっている。

注意しないといけないのは、ゲーマーたちはまったくかたちの無い状態から折りたたんでいった訳ではないことだ。実際の出題はBakerグループが開発したRosettaというアルゴリズムを使っておおよその立体構造まで出してあり、Folditプレイヤーたちはそれを「精密化」していったというのが正しい。ただ、計算機が苦手とするところを人間の「直感」が越える部分があったのは確かなようだ。

最初の話しに戻れば、2ちゃんねるで盛り上がったのはゲーマーの面目躍如ということであろう。Folditは英語版しかなく、日本から参加しているプレイヤーはかなり少ないようだが、今後ぜひ日本からも貢献してほしいものである・・・。

と書いたところで、以前のFolditのNature論文のあとに「実験医学」誌に書いたコラムの最後を思いだした。

「・・・・今の世の中、チェスや将棋などで人類はコンピューターに負ける話しばかりである。タンパク質フォールディングで人類はコンピューターに一矢報いた、ということで少し愉快になった。が、まだまだ参加者は少ないので人類の英知の本領発揮はこれからではないか。もっとゲーマーが増えれば天才的フォールディングプレイヤーが出現し、構造予測ラボにこっそり雇用される、なんて出てこないだろうか。実験医学 28, 3117-3118 (2010)」

ということで、デイトレーダーならぬデイフォールダーみたいな職業ができるかもしれない。

と書いたところで、さらに連想が広がった。
Natureに以前載っていたアマチュアバイオ実験家の記事だ。

Garage biotech: Life hackers Nature 467, 650-652 (2010)

おもしろい記事だったので、いずれ解説することにしよう。

2011/10/04

次号のニュースレターは延期

 科研費特定領域研究「タンパク質の社会」の領域ニュースレターをこれまで半年に一度ずつ編集長として発行してきた。

 今までのペースだと年度半ばの10月始めに発行してきたのだが、本領域最終年度の今年度は諸般の事情により、年一号だけの発行と決まった。ということで、次の号は来年2月末日発行予定である。

 ニュースレターを楽しみにしてくれている読者のみなさま、さらには今秋発行と言うことで既に原稿を書いてもらったみなさん、たいへん申し訳ございません。

 次号は最終号として、これまで以上に充実した内容のニュースレターになることをお約束できると思いますので、こうご期待!

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 写真は今日の「7量体」

 今年オーストリアに行った際のフライト中に出てきたスナック菓子の一つ。「おっとっと」みたいな感じ。

2011/10/03

ラスカー賞にシャペロニンGroEL研究者

 20年以上、シャペロニンGroELの研究をしている。

 最初に始めたころはシャペロンの概念がまだ確立したころであり、分野はまだまだ黎明期。「シャペロン」というより、熱ショックタンパク質Hspと呼ぶことが多かったと記憶するが、シャペロンの研究なぞまだ海の物とも山の物ともつかなかった時代である。

 そんなシャペロン研究もノーベル賞候補者が出てくるようになってきた。一つには、数年前にインパクトファクターなどで知られるトムソン・ロイター社がシャペロンの概念の提案で知られるJohn EllisとシャペロニンGroEL研究で功績の大きいUlrich Hartl、Arthur Horwichの三人をノーベル賞候補として発表したのだ(→2007年の予想)。

 そして、今年。ラスカー基礎医学研究賞にHartlとHorwichが選ばれた。Lasker Foundationのトップページにはおなじみの写真が並んでいる。

ラスカー賞は「アメリカのノーベル賞」とも呼ばれ、実際、これまでに80人ものラスカー賞受賞者がノーベル賞を取っているそうだ。

 それはさておき、お二人の受賞理由は、
For discoveries concerning the cell's protein-folding machinery, exemplified by cage-like structures that convert newly made proteins into their biologically active forms.
ということである。

意訳すると、

細胞内でのタンパク質のフォールディングを助ける分子マシン、特に、新生タンパク質を活性のある構造に変換する「かご」状構造、の発見

というようなものである。「シャペロン」や「シャペロニン」という単語は出てこないが、この「かご」状構造がシャペロニンGroELのことである。ラスカー賞の受賞理由の記述にはGroELの構造や反応サイクルがきちんと載っている。

二人の功績は確かに大きい。あまりに詳しく知っているので(当たり前だが)、ここで書き出すといくら書いてもキリがない。

Cell誌にRothmanとSchekmanの二人の大物がこのラスカー賞について解説を書いている。
Molecular Mechanism of Protein Folding in the Cell

ぼく自身もGroELの研究に長く携わってきて、彼らの研究に感嘆することもあれば、ちがうんじゃないの、ということもある。実際ずいぶんと議論してきた。感慨もひとしおである。

個人的にもお二人にはとてもよくしてもらっていて、それぞれご自宅にまで招待されてたいへんな歓待も受けてきた。

Congratulations!


ただ、本当はもう一人入ってほしかった。George Lorimerだ。

特に、GroELがフォールディングを助ける分子マシンとしてはたらくことを最初に見出したのはLorimerである(Goloubinoff et all., Nature, 1989)。

個人的にはLorimerにもお世話になっており、ぼくにとっての「シャペロン」の一人だ。修士の頃にアメリカのLorimerラボに行かせてもらって、好熱菌GroELの実験を少し行ったのが、そのあともGroEL研究を続けるきっかけとなったのだ(そのときの実験自体は失敗に終わったが、その失敗理由を考えたことがぼくの初の論文、JBC1991、につながった)。
そのLorimerがなぜ選に漏れたのかもよくわかるだけにさみしいものがある。


さて、別の小ネタを。

90年代前半にラスカー賞の二人は実りのある共同研究もしてきた仲である。

・・・が、現在の二人のGroEL研究はうまくかみ合っているわけではない。相当激烈な論争のまっただ中である。
 この微妙な関係で受賞式のときとかどうなるのかな、と少しだけ気になるところだ。

↑このあたり、科研費「タンパク質の社会」のニュースレターにいくつか記事を書いた(6号コラム4号特集)に詳細に書いたので興味のある方はぜひ読んでみてほしいところである(コラムはそのまま読めますが、4号のpdfはパスワード制限あり。ただ、パスワードはメールをいただけたらすぐに教えます)。

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写真は今日の「7量体」

近所の公園での葉っぱだが、数えてもらうとGroELのマジックナンバー7ということで写真に撮っていた。


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